【相続】親が認知症を発症 親族が後見人になれる?
配信日: 2023.03.17
これまでは、司法書士や弁護士が選定されるケースが多かったのですが、親族から後見人が出るとも、認められるようになりました。
使い勝手の悪かった成年後見人制度
認知症と診断されてしまうと、財産の移動などが厳しく制限されます。預金の引き出しや不動産の処分等ができなくなり、それを解決するには、成年後見人を家庭裁判所に選任してもらう必要がありました。
その際に、後見人の選定にあたっては、厳格な財産の保全と親族間のトラブル回避が優先され、第三者の専門職が就くケースが多かったといえます。一人の子どもを選任することで、他の子どもとのトラブルを避けることが優先され、家族以外の専門職(司法書士や弁護士など)が、かなりの比率で多く選任されてきました。
ところが後見人の判断は、認知症の方の利益を保護することが大前提で、それに反する行為は厳しく制限されました。たとえ本人に必要と思われることでも、当事者の利益に反する可能性がある場合は許可がおりないために、親族との間で、預金の管理などをめぐり対立が生まれていました。
親族から家庭裁判所に解任の申立てをしても、後見人の解任は認められず、親族側からの不満もかなりみられました。さらに後見人に対する報酬も、認知症の方が亡くなるまで続くため、親族にとっては大きな負担でした。
必要と思われる経費であっても自由に使えない、その一方で後見人への支払いは毎月続くといった状態では、認知症患者を抱えた家族には、非常に使い勝手の悪い制度です。認知症を発症する前であれば、家族信託制度なども活用できましたが、発症後では成年後見人を利用するのが基本的方策でした。
後見人の選任について、家庭裁判所に対し苦情が寄せられていたのでは、と推察できます。
家族が選任されるための条件整備
こうした事情もあって、裁判所の判断に変化がみられました。2019年に最高裁判所が、「身近な親族が成年後見人に選任されることが望ましい」という通知を各家庭裁判所に出しており、家庭裁判所の姿勢にも変化がみられるようになりました。
親族間のトラブルを避けるために、取りあえず利害関係のない第三者を選ぶのではなく、認知症の方の家族関係を重視するようになりました。子ども全員が意見をまとめ親族の一人の選任を希望すれば、その方が後見人となる道が開けてきました。
しかし現在でも、家族が成年後見人となる比率は、それほど多くはありません。その理由は、成年後見人制度の使い勝手の悪さが多くの方に周知され、家族のいる方からの選任要請が消極的なためではないかと筆者は考えます。
その一方で身近な親族がいない、高齢のいわゆる「おひとりさま」の場合は放置ができないために、役所の福祉関連部局や担当をしている司法書士からの選任申請が増えている、という背景があると思われます。
認知症の家族を抱えている方の場合、今後は親族間のトラブルがなく一致して後見人に推薦することで、家庭裁判所が親族を後見人として選任するケースがさらに増えてくるかもしれません。そのためには、例えば親族間で複数の方を、後見人に申立てをするような事態は避けることが大事です。特に親しい司法書士や弁護士に相談し、選任推薦の方法などで助言を得て、親族で合意を得た方を選任してもらえる努力が大切になります。
手続きとしては、後見人就任を希望する本人が、居住する地域を管轄する家庭裁判所に申立書、主治医による後見を要する方の診断書、財産目録、今後の収支予定書などを提出し、審判の手続きにかけてもらいます。当然、申立人本人の面接もあり、家庭裁判所が妥当と判断すれば、成年後見人に選任されます。選任までの期間は約2ヶ月かかります。
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適切な財産管理と裁判所への報告
親族が成年後見人に選任されたとしても、本人の財産を勝手に動かすことはできません。財産管理を厳格かつ適正に行うことは、第三者の専門家が選ばれたケースと同じです。そのため、まず親の財産であっても、自分の財産とは完全に区別して管理します。親の財産で自分の私物を購入することなどは、絶対にできません。
ただし本人の生活環境の維持・改善など利益に資するものについては、財産を活用できます。専門家が選任されたケースに比べ、親族が選任されたケースでは、「本人の利益に資する」という観点から、財産が減ることに対する警戒感が少ないため、より柔軟な対応ができるといえます。
家族であっても、家庭裁判所への財産管理に関する報告は欠かせません。後見人に選任されてから1年以内に初回の報告を、その後も年に1回の頻度が目安となります。報告の内容は、財産目録、収支予定書、預金通帳のコピーなどを示し、財産変動の実情を明らかにします。財産自体に大きな変化があった場合は、それが本人の利益に資する支出であったことを申し添える必要があります。
特に高額商品の購入には、注意が必要です。例えば、本人が使う介護用ベッドの購入は問題ないと思いますが、介護のために自宅を改修する際に、介護とは直接関係のない後見人の居住スペースを含めた改修は認められないかと思います。また孫の結婚式の祝い金なども、高額になると問題になります。
こうした高額な支出が伴う行為に対しては、家庭裁判所内に事前相談できる部署もあるので、支出をする前に相談しておくことも不可欠です。
親族の後見人が、面倒だからといって、途中で辞めることはできません。第三者の専門家がなっている場合と同様、介護を託された方が亡くなるまで任務は続きます。後見人には、託された方の人生最後を見届ける覚悟が必要なのです。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。