更新日: 2023.03.18 相続税
「令和5年度税制改正」 相続税と贈与税 その1~生前贈与加算~
具体的にいうと、生前贈与加算の期間が3年から7年に延長され、相続時精算課税制度では直系尊属からの贈与の際に年110万円の控除ができるようになりました。
これらの改正の背景には、60歳以上の高齢者が保有する約1000兆円といわれる個人金融資産を若い世代に移行させ、資産の活性化を図ろうとする意図と、その際に相続税等の税金を徴収しようとする思惑が見て取れます。
改正の内容について、2回にわたり解説していきます。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
生前贈与加算が3年から7年へ
1. 改正の概要
生前贈与加算とは、相続開始前3年以内に行った贈与は相続財産に加算され、相続税の課税対象となるという制度です。これが2027年以降の贈与から加算される期間が随時延長され、2031年には相続開始前7年になります。
暦年贈与で毎年、贈与税の基礎控除110万円の適用を受けていたとしても、相続税に組み入れたとたんに控除はなくなります。延長された4年分については、4年間の総額で100万円の控除が適用されますが、従来の毎年110万円の控除に比べると金額が減るので、その分の増税となります。
2. 改正のスケジュール
今回の税制改正の内容では、2027年1月1日以降の贈与から毎年1年ずつ随時延長されて、2031年1月1日以降の贈与からは7年が適用になります。
2027年6月30日に相続が開始した場合は「相続開始前3.5年以内」、2028年1月1日の相続開始では「相続開始前4年以内」に行った贈与が相続税の対象となりますが、これを表にすると図表1のとおりです。
図表1
相続開始 | 生前に行った贈与が 相続税の対象となる期間 |
生前贈与加算の対象となる 最初の贈与 |
---|---|---|
2027年1月1日 | 相続開始前3年 | 2024年1月1日 |
2027年6月30日 | 相続開始前3.5年 | |
2028年1月1日 | 相続開始前4年 | |
2029年1月1日 | 相続開始前5年 | |
2030年1月1日 | 相続開始前6年 | |
2031年1月1日 | 相続開始前7年 |
※筆者作成
3. 改正の狙いと考え方
改正の狙いは前述したとおり、60歳以上の高齢者が保有する約1000兆円といわれる個人金融資産を若い世代に移行させ、資産の活性化を図ろうとする意図と、その際の相続税等の増税ということができます。考え方としては、相続税と贈与税の一体化です。
相続開始前3年以内に行った贈与は、相続税の対象となるということ自体、相続税と贈与税を一体化しようとする制度といえます。それを7年にすることで、より多くの贈与税が相続税に吸収されることになり、暦年贈与での贈与税の控除枠を使った相続対策が行いにくくなります。
生前贈与加算への対応策
1. 2023年までに生前贈与を行う
図表1を見て分かるとおり、2024年1月1日より前に生前贈与を行えば、現在と同様、相続開始前3年分しか相続税の対象になりません。
ところが、2024年1月1日に贈与を行い、2027年6月30日に亡くなって相続開始となった場合、2024年1月1日以降の贈与が生前贈与加算の対象になります。また、2024年1月1日に贈与を行い、2031年1月1日に亡くなっても2024年1月1日からの贈与が生前贈与加算の対象です。
2024年1月1日からの贈与は生前贈与加算の対象になる可能性が高いので、2023年中に贈与しておいたほうがいいということになります。ただし、2023年中の贈与に適用される非課税枠は110万円なので、節税効果はそれほど大きくないといえます。
2. 孫への贈与
生前贈与加算は、受贈者が相続人である場合に適用されます。孫に贈与を行っても、孫に相続財産が渡らなければ生前贈与加算は行われず、暦年贈与による贈与税の控除枠は相続開始直前に行った贈与分についても適用され、控除枠をフルに使うことができます。
この方法で相続税の節税を行うことが可能です。次回「その2」では、相続時精算課税制度の改正について説明したいと思います。
出典
自由民主党 公明党 令和5年度与党税制改正大綱
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
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