更新日: 2023.04.13 その他相続

相続不動産の登記は「義務化」へ。2024年4月から実施

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

相続不動産の登記は「義務化」へ。2024年4月から実施
土地や建物などの所有者が登記をしていれば、誰が所有者かを確認できます。誰もが使用したい不動産であれば、未登記だとトラブルになる可能性がありますが、一方で、登記をせずにそのまま放置され、所有者不明となってしまった不動産もあります。国としてもこのまま放置できず、新たな制度を導入することにしました。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

相続した土地は放置できない

これまでは、親が亡くなった後に相続した土地の登記をしなくても、特に罰則はありませんでした。登記費用だけでなく、その後、確実に支払う「固定資産税」を考えると、かなりの負担になります。都会の売買可能な商業地や住宅地であれば、利用頻度も高く、登記により所有権も確立されます。高値で売却できる環境では、登記は望ましい選択になります。
 
ところが、人口減少が進む地方では、宅地にしても農地にしても、登記をするメリットはあまりありません。特に親が亡くなった後に誰も住まない家や、農作業をしない田畑、荒れた山林など、登記費用や固定資産税など、余計な支出は避けたいと考えてしまいます。
 
都市近郊でも空き家が急増し、相当数の空き家が登記されていません。高齢の親世代が苦労して買ったマイホームを、子ども世代は相続する意識が薄いのです。実際に空き家で放置することで、他人に不法に占拠される事態となっても、対応しない方さえいるようです。
 
この10年ほどで未登記の土地が急速に増えると同時に、「所有者不明」の土地が、日本全土では九州全体の面積を上回るようになっているのです。こうした事態に歯止めがかからず、その後も増加傾向が続いてきました。さすがに国としてもこの危機を深刻に受け止め、相続した土地について、「登記の義務化」の方向にかじを切りました。
 
これまでは、国土の狭い日本では、相続人が登記を行うことは当然という国が考えてきたツケが回ってきました。土地の価格は必ず上昇する、との「土地神話」の崩壊が急速に進んだ結果といえます。所有者不明では「固定資産税」も課税できません。登記をしていない所有者をみつけ、固定資産税を課税することも容易ではありません。未登記で固定資産税を払わない方と、登記を行い納税もしている方との不公平感も出てきます。
 

所有者不明で困ることが多い

所有者不明の土地だからといって、行政や個人が勝手に登記を行い、その権利を確定することはできません。未登記でも、実際の所有者は誰なのかを確認して取引をする必要があります。
 
特に道路・公園整備などの公共事業、新規の街づくりをめざした再開発事業を実施しようとすると、これが大きなネックとなっていました。所有者を探すための時間と経費がかなりかかります。こうした事態を避けるためにも、相続時の登記を義務化し、その土地の所有者を確定しておくことは、問題解決の第一歩といえます。
 
未登記の状態で、何度も相続が発生すると、権利関係がどんどん複雑化していきます。相続人が複数おり10年、20年と経過すると、相続人の子、さらに孫へと所有者が移っていきます。
 
人数が増えれば増えるほど、所有者の居住地も拡散していくため、収拾のつかない事態になります。土地を買い求めたくても、所有者までたどり着けない、たどり着いたとしても売却に協力してもらえない、といった事情に直面します。こうした事態を少しでも改善する目的で、登記の義務化が進められることになりました。
 

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どのような制度に変更される?

この制度改正は、2024年4月1日から実施されます。親などが亡くなり、不動産を相続した時点で、これまでとは異なった対応が求められます。特に不動産の相続が近々予想される方は、早い時点で準備をされることが望ましいと思われます。
 
相続によって不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から「3年以内」の登記が義務づけられます。親が遠方に住んでいる場合などは、親の死を知ったときからです。また遺産分割協議が実施されている場合は、その分割協議がまとまってから3年以内です。分割協議も期限がありますので、期限内に決める必要があります。
 
相続登記は、相続した不動産の所在地を管轄している法務局(法務省の外局)に申請します。申請に際しては、被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本、住民票の除票、相続人自身の戸籍謄本、住民票、印鑑証明など、定められた書類を準備する必要があります。
 
遺言状の存在や分割協議の決定事項などにより、添付書類が増える可能性もあります。実際には、司法書士などの専門家と相談しながら作業を進めるのがよいと思われます。あくまで目安ですが、司法書士への支払い費用は7~10万円ほどかかります。
 
親が住んでいた住宅であっても、その土地の名義が親以外の人が含まれていると面倒になります。土地の登記名義人がどうなっているかは、最寄りの法務局で、「土地・建物の登記事項証明書」を取得し確認できます。長い間、登記がされていないなど、権利関係が複雑になっていることの情報を、亡くなった親から聞いたことがあれば、作業の軽減になります。
 
もし、決められた期間内に相続した土地・建物の登記を実行しない場合は、新たにペナルティーも設けられます。正当な理由なく登記を怠ると「10万円以下の過料」が課せられます。
 
金額的には大きな額と思わない方もおられるかもしれませんが、罰則規定の存在自体が、登記を促す動機づけになると期待されています。ただ過料が課せられるからといって、相続登記がスムーズに進展していくかは未知数だといえます。
 
例えば、登記業務の煩雑さだけでなく、登記により発生する固定資産税への不安もあります。空き家を解体し、さら地にして売却するつもりでも、売却先がみつからない事態も考えられます。さら地にすると家屋がある土地に比べ固定資産税も高くなり、登記をしたことを後悔することになりかねません。
 
登記の義務化により所有者不明の土地が減少するかは未知数ですが、義務化の実効性を高めるためには、まず煩雑な登記事務の簡素化が必要です。さらに相続放棄を希望の土地については、行政による買い取り制度の推進などが、より複合的な施策が求められます。
 

出典

国土交通省 空き家政策の現状と課題及び検討の方向性

 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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