相続対策で子に住まいを安く売却すると 贈与税はどうなる?

配信日: 2023.05.17

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相続対策で子に住まいを安く売却すると 贈与税はどうなる?
相続税は納付額も大きくなるために、そのための準備も必要になります。現在住んでいる家を、親の死後、子どもに相続させるとかなりの相続税を支払うことになるため、実勢価格より安く売却しようと考えました。
 
はしてそれは効果的でしょうか。相続税がなくなる代わりに、贈与税がかかってくるのでしょうか。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

相続税は富裕層だけの税ではない

相続税制が改正になってから、富裕層だけではなく、多くの方が相続税を支払うようになってきました。これまで5000万円以上あった相続税の控除金額が「3000万円+相続人の数×600万円」となり、特に都会に住む方には頭の痛い問題です。そのため生前贈与など、さまざまな手段を用いて相続税の負担軽減を考える方がいらっしゃいます。
 
特に親の自宅を相続すると、相続税の支払いに不安をもつ子どもはかなりいるかと思います。親の元気なうちに、相続ではなく贈与を考えたとしても、贈与税は相続税よりも高額になります。
 
では子どもに家を売却し、親から買い取る選択肢はあるでしょうか。
 
売買契約書も正式に準備し取り交わし、子どもの口座から親の口座への代金の移転も行い、さらに所有権移転により子ども名義に変更したと仮定します。このような取引をすると、何が問題になるでしょうか。親子で合意の上の金額ですので、親子間でのトラブルはありません。
 
しかし、実際の住居の資産評価額に比べ、どのくらいの価格で売買したかが問題になります。もし付近の土地や建物の評価額に比べ、実際に親子で取引した価格が極端に安いと税務署に問題視されます。あまり安い売買価格だと、大変後悔することになります。
 

低い評価額での売買には贈与税が

具体的な例に即して説明しましょう。
 
いま親子の間で売買契約をする土地と家屋との評価額を、業者に査定してもらったところ、土地と建物を合わせて約6000万円だったとします。子どもが多額の資金を準備できないため、銀行借入をした子どもに、親が評価額より大幅に安い800万円で、土地・建物を売却しました。
 
親子間では売買契約を結んでおり、取引に関してまったく問題はないと考えます。親子間でも、現金の手渡しではなく、子どもの口座から親の口座へ移転もしっかり実行しています。売買契約が成立していると考え、相続税や贈与税を払わなくて済むと考えるかもしれません。
 
ではこうした取引に対して、税務署はどう判断するでしょうか。このような「極端に安い」価格で取引された場合は、黙認されることはなく、実際の取引相場との差額を実質的な贈与と見て、みなしの「贈与税」がかかってくると思われます。
 
ケースに即していえば、
 
6000万円-800万円=5200万円
 
差額の5200万円に対して贈与税がかかってくる可能性が大なのです。800万円で取得した土地・建物に対しての「不動産取得税」「登記費用」に加えて、5200万円に対する贈与税がかかります。5000万円以上の贈与に対しては税率も非常に高く、税額は2000万円を超えるはずです。
 
親子間で売買をせずに、親が亡くなった時点で相続し、相続税額を支払うほうが、圧倒的に少ない税額で収めることができるのです。 
 

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節税どころか多額の税負担に

このケースでは、通常の相続よりも多くの税金を納める計算になります。もし税務署が親子間での低額の売買行為を認めてしまえば、誰もが、評価額よりも著しく安い価格での取引が実行され、相続税や贈与税の体系が崩れてしまいます。そのため、世間相場を度外視した安い価格での売買には、税務署の厳しいチェックが待ち構えているのです。
 
実際どの程度の金額での売買ならば問題はないのでしょうか。税務署の基準でも、周囲の相場に比較して「著しく安い」と定められていますが、具体的な数字は明らかにされていません。筆者の推測の範囲ですが、周囲の不動産評価額の8割程度が基準と思われます。
 
上記の実例に即していえば、土地・建物の査定金額が6000万円ですから、その8割に当たる4800万円前後であれば、みなしの「贈与税」がかけられないかもしれません。査定額も事情により変動しますので、売買契約の金額が8割よりは若干低い、例えば約4500万円であっても、税務署の判断では課税対象にならないかもしれません。
 
しかしその額で売買するなら、相続時に相続税を支払うほうが少ない税負担で済みます。親子間での不動産売買は無意味で、避けるのが鉄則といえます。
 

相続税対応か少額贈与が正解

相場より安い金額での親子間の不動産売買は、メリットが少ないどころか、みなしの「贈与税」など余分な税金を納めることになります。節税の意識をもつことは大切ですが、このケースのようにまったく逆効果になることもあります。これの解決策は、相続の時点まで待つか、親子間の売買ではなく、なるべく多くの親族に少額贈与を続けることが賢明です。
 
贈与税は、相続税に比べて高額になるため、多額の贈与を1人に行うことは、避けるべきだといえます。その代わりに、贈与は相続と違って、相続人以外に対しても贈与できます。自分の子どもたちだけでなく、彼らの配偶者、孫や親戚など、贈与する相手を決めて進めましょう。贈与はまったくの他人に対して行うことも可能ですが、後々面倒なことも起こり得ますので、知人への贈与は避けるのが賢明です。
 
相続財産を減らすという目的であれば、基準が厳しくなりましたが「暦年贈与」を利用し、贈与先を決め、何年かを掛けて地道に進めることが大切です。その際、110万円の非課税枠にこだわると、思うように財産の移譲ができなくなります。贈与税を多少でも支払い、同時に登記も変更しておくと安心です。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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