「生前贈与」による節税は厳しくなる? 相続税制が変更に

配信日: 2023.06.13

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「生前贈与」による節税は厳しくなる? 相続税制が変更に
2023年の税制改正の大綱がまとまり、とくに相続税制に変更が見られます。これまで毎年少しずつ贈与する「暦年贈与」を使って進めてきた節税対策を、練り直す必要がありそうです。ここでは、とくに相続関連の税制改正のポイントを説明します。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

生前贈与は時間をかけて実行

これまでも、相続の開始される前の贈与に関して、相続時点から戻ること3年間分は、贈与税の支払いが済んでいても、贈与は認められませんでした。その分は相続財産として再計算され、残りの相続財産と合算して相続税の対象となっていました。相続時点より3年以上前に贈与をし、贈与税を支払った財産は、贈与財産と認められました。
 
相続の時期が近いと思われる前から、毎年一定額の贈与を行い、相続財産の減額に努めるのが相続の王道です。このため多くの方が、毎年110万円の非課税枠が利用できる「暦年課税」を最大限に活用して、生前贈与を実行してきました。
 
生前贈与の方法としては、暦年課税と並んで「相続時精算課税」があります。これまでは、相続時点で合算する相続時精算課税の利用は、少数派でした。
 
ただし、確実に値上がりする不動産などを相続させる際に、相続時精算課税を選択すると、贈与時点の価格で相続税が再計算されるため、メリットがありました。値上がり期待の高い土地や成長企業の有価証券を、多く所有している富裕層の方にとっては、利用可能な制度ともいえます。
 

対象期間が3年から7年に延長

今回の税制改正で、これまで相続時点から前の3年間の贈与は、本来の相続財産に組み込むという方針が、7年間に延長されました。
 
【図表1】
 

 
以前に比べ、生前贈与の課税対象が幅広くなります。このため、被相続人となる方の病気などが進行し、相続が近いと感じた時点で、暦年贈与を開始しても、かなり実効性が乏しくなると思われます。
 
死期が近いと感じ急いで贈与を実施したとしても、7年以内の贈与はすべて合算されて相続税の対象となるため、暦年贈与を実施する意味が薄れてしまいます。ただ期間については3年から7年に範囲が拡大しますが、一方で相続時精算課税の利用時に、これまではない年110万円の非課税枠が新たに設けられました。
 
実際に7年間が適用されるのは、2031年に申告する相続税分からが対象です。その移行期として、2028年の申告(2027年に行う相続を含む)から、4年、5年、6年と段階的に延長され、最終的に2031年から7年となります。現時点で考えると、多少の猶予期間があります。
 
一気に4年間延長するのではなく、1年ごとに延長していくため、暦年贈与の活用にはまだ間に合います。とくに2023年に贈与した財産には、現行の仕組みが適用されます。相続は早めの準備が鉄則ですので、できることを実行することが大切です。
 

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延長された生前贈与の特例

廃止の方向で検討されていた2つの生前贈与の特例が、今回延長されます。それは「教育資金」と「結婚・子育て資金」の一括贈与です。どちらも親世代から、子や孫の世代を支援する目的で創られた制度です。
 
教育資金の一括贈与については、3年間延長され2026年3月末まで、結婚・子育て資金の一括贈与については、2年間延長され2025年3月末まで利用できます。
 
教育資金は1500万円まで、結婚・子育て資金は1000万円まで、無税で一括贈与ができます。通常の贈与税を支払うことなく、子や孫への多額の贈与が可能なので、「孫が小学校に入学する」「長女が結婚する」といった方には朗報かもしれません。
 
延長された2つの生前贈与ですが、いくつか問題点も指摘されてきました。
 
1つは制度自体が利用しづらいことです。教育資金でいえば、専用口座をつくり、教育関連の費用だけしか引き出せない、使い残すと課税されるなど、面倒な点が多いことです。どちらの一括贈与も、お祝いの形式をとれば、常識的な金額を何度でも渡すことができ、贈与税の対象にはなりません。わざわざ面倒な制度を利用しなくても済みます。
 
さらにこの2つの制度が、多額の資産の移転ができるため、どちらかといえば、富裕層向けの節税対策との批判を受けていました。一度に多額の余裕資金を贈与ができる方は、あまり多いとは思えず、一部富裕層向けの政策との意見は当然かもしれません。
 
実際にこの制度の利用者数を見ても、ここ数年減少しています。利用が少ないため、実際に制度を存続させても、大幅な税収減となる訳でもないため、逆に制度の延命につながったとも理解できます。
 

期間の延長に伴う課題もある

加算期間が3年から7年に延長されることで、この期間に暦年贈与を行っていた方は、相続税の申告時に間違いなく手間が増えます。相続時点からさかのぼって7年分の贈与実態を、確認し申告する必要があるからです。依頼を受けた税理士の業務量も増えると思われます。
 
今後暦年贈与を行う場合には、相続人以外の関係者、具体的には、孫や子の配偶者に積極的に贈与することで、制度の適用を回避することも検討すべきでしょう。
 
相続人への生前贈与は面倒になるので、暦年贈与をする方が減少することが推察されます。そのため、高齢世代から若年世代への資産移転が期待通りに進まず、若年世代の消費が停滞する可能性もあります。社会的にはマイナス面が出てくるかもしれません。
 
国の税収については、相続時精算課税の対象分については多少の増加は認められるといえます。しかしその半面、孫など相続人以外への贈与が増えれば、暦年贈与による税額は減少するかもしれません。相続・贈与税全体で考えると、税収の増加になるか不透明な面もあります。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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