更新日: 2023.07.24 その他相続

地方の実家を「相続放棄」しても管理責任は残る? 清算に「100万円」かかるケースもあるって本当?

執筆者 : 二角貴博

地方の実家を「相続放棄」しても管理責任は残る? 清算に「100万円」かかるケースもあるって本当?
2023年4月の民法改正で、空き家を相続放棄しても管理責任が残るのは、親と同居していたり以前から建物を管理していたりする人のみとなりました。関係者が全員相続放棄しても「空き家の管理責任は残るのではないか」という、これまでの不安は払拭されたのです。
 
本記事では、相続放棄と管理責任の関係についてまとめました。さらに清算のため家庭裁判所に申し立てにかかる費用について解説します。相続放棄で不要な財産を引き継いでしまわないように、正しい知識を得ておきましょう。
二角貴博

執筆者:二角貴博(ふたかど たかひろ)

2級ファイナンシャルプランナー

相続放棄と管理責任

親族が亡くなった場合、財産よりも借金などの債務が明らかに多いときには相続放棄が可能です。しかし、これまでは相続人が全員相続放棄しても、空き家の管理責任はなくならず、老朽化する建物の管理責任を問われる場合もありました。この根拠とされた改正前の民法は次のとおりです。
 
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始められるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
 
この規定には、曖昧な点があると指摘されていました。次のような場合、どの相続放棄した人が管理責任を負うのかはっきりしていなかったのです。

●全員が相続放棄したため、次の相続人となる人がいない場合
●次の相続人がいても、その人が亡くなった人と一緒に住んでいなかった場合

 
また、管理義務はどのような内容なのか、責任は他の相続人に対してのみ負うのか、周辺住民に対しても負うのかも不明確でした。
 

令和5年の民法改正で管理すべき者が明確に

2023年4月の民法改正により、相続財産の管理責任を負うのは、財産を「現に占有している者」のみであることが明確になりました。改正後の条文は次のとおりです。
 
第九百四十条 相続の放棄をした者がその放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合には、相続人又は相続財産法人に対して当該財産を引き渡すまでの間、その財産を保存する義務を負う。この場合には、相続の放棄をした者は、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存すれば足りる。
 
要点を列挙すると、次のとおりとなります。
 

●相続放棄をしても管理責任を負うのは、「現に占有しているもの」(相続時点で一緒に住んでいたり建物を管理していたりした人)に限る。(他の相続人は管理しなくてよい)
 
●保存する期間は、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまででよい。
 
●管理責任を負うのは、他の相続人や相続財産清算人に対してのみである。

 

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管理責任がなくなるのはいつ

「現に占有するもの」の管理責任がいつ免除されるか、以下に解説します。
 

他の相続人に引き継ぐ場合

全員が相続放棄するのではなく、他に相続により財産を引き継ぐ人がいる場合は、その人に引き継げば管理責任がなくなります。
 

相続財産清算人へ引き継ぐ場合

相続人全員が相続放棄するなどして他に引き継ぐ人がいない場合は、相続財産は「相続財産法人」となり相続財産清算人に引き継がれます。ただし、この場合は関係者が「他に相続人がいない」旨を裁判所に申し立てる必要があります。裁判所が選任する相続財産清算人は、親族や相続放棄者、司法書士、弁護士などから選ばれるのが一般的です。
 
申し立ての際、相続財産清算人が遺産の清算を進めるのに必要な経費や相続財産清算人の報酬にあてるために、数十万円から百万円程度の予納金が必要となる場合があります。
 

相続放棄しても費用がかかる場合に注意

民法改正により、相続放棄したときに相続財産を管理しなければならないのは現に占有している者に限定され、管理する期間は他の相続人か相続財産清算人に引き渡すまでと明記されました。
 
しかし、相続財産清算人を選任するには、100万円程度の予納金が必要となることもあります。相続を放棄したい財産に対して、高額な予納金を支払うことに抵抗がある人もいるでしょう。しかし、いつまでも清算しないと管理責任は残り続け、周辺住民に迷惑をかけてしまうと損害賠償を請求されることもあります。
 
空き家問題は、相続時にクローズアップされる問題です。相続放棄後も費用がかかることを踏まえ、生前から親族と財産の管理や処分方法について話し合っておくことが大切です。
 

出典

法務省 法制審議会-民法・不動産登記法部会
裁判所 相続財産清算人の選任
 
執筆者:二角貴博
2級ファイナンシャルプランナー

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