「相続放棄」をしたいのですが、手順はどうすればよい?
配信日: 2023.07.28
相続放棄を選択する理由
相続財産の中身を見て、負債に比べ資産のほうが多ければ、相続人は現金や不動産を手に入れることができます。しかし、負債のほうが多そうで、できれば相続放棄をしたいケースも出てきます。では、どのような理由で「相続放棄」を選択しているのでしょうか。
まず第1に挙げられるのは、明らかに負債のほうが資産に比べ多くなるのが確実で、相続することで借金を抱え込んでしまうケースです。これを避けるために相続放棄をするもので、最も多いと思われるケースです。
しかし負債が多いことが確実にわかればよいのですが、相続が発生した時点で、資産と負債がどのくらいあるかが、わからない場合もかなりあります。その場合、相続予定の財産の中身を、正確に把握する必要があります。
とくに被相続人は、往々にして負債の事実を隠しているケースがありますので注意が必要です。死亡を確認した時点で、債権者の方から何らかのアプローチも考えられ、それで負債の存在を知ることもあります。また当然ですが「資産は相続するが負債は相続放棄をする」という選択はできません。
次に相続放棄を選択する理由として、多少の資産があっていても、他の相続人と遺産分割協議を巡ってトラブルになる可能性が高く、それに巻き込まれたくないと考えるケースです。とくに日頃から、相続人同士で仲が悪く分割協議の際に、顔も合わせたくないときなどに、相続放棄を選択できます。
さらに、被相続人とは疎遠で長い期間会ったこともなく、いざ相続だからといってあまり関わりたくないと思う場合です。被相続人に子どもやきょうだいがいないため、相続権が回ってきたときなどが該当します。相続財産の実態もよくわからないので、放棄をしたほうが賢明と考えて行動するケースです。
相続放棄はどう進めるか
被相続人に資産よりも負債が多いと推定される場合、相続放棄をすることになります。相続財産の中身を精査せずに、相続を決めてしまうことは最も危険です。手始めに、預金通帳や所有していた証券口座を点検します。被相続人が取引していたすべての金融機関に照会し、別の口座があるかも確認しましょう。
金融機関からの借入金であれば、預金通帳に記載されている場合も多く、契約書などの残されているはずです。実際に金融機関は、融資を行っている人が亡くなった場合、相続人に対して、返済を求める通知を発送します。とくに被相続人が事業を経営していたケースでは、事業の継続のための借入金の存在も十分に考えられます。
土地や住宅などの不動産についても精査が必要になります。
実際に相続を希望する人が、その土地や住宅に居住するなど積極活用したいと考える場合は別ですが、被相続人が住んでいた遠隔地の住宅などに居住する意向がない場合などは、一定の資産評価がされたとしても、相続することで価値を産み出すどころか、「負動産化」する可能性が大といえます。「親が住んでいた思い出の家だから」として残しても、後悔するかもしれません。
相続するか放棄するかを決めるまでの期間を「熟慮期間」といい、原則3ヶ月間あります。この期間内に財産の内容を点検し、相続放棄を選択する場合は、その手続きをしなければなりません。他に行うべき作業も多々あることから、3ヶ月という期間はすぐに来てしまいます。相続人であっても、被相続人との交流が少なく、相続財産の査定に時間がかかるような場合は、熟慮期間の延長も認められています。
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放棄手続きは家庭裁判所で
相続財産の中身を精査・検討し、結論として「相続放棄」を決めた場合は、被相続人の最終居住地を管轄する家庭裁判所に、「相続放棄申述書」を提出します。その際、放棄を決めた本人の戸籍謄本、決められた金額の収入印紙なども添付する必要があります。
書類を提出後、家庭裁判所からの照会書に答えると、裁判所に書類が受理され、相続放棄が正式に認められます。相続放棄が正式に認められると、原則それを取り消すことはできません。そのため放棄を決めるに際しては、諸般の事情を点検し慎重な判断が求められます。
相続放棄を検討していながら、何の手続きもせずに、そのまま3ヶ月放置してしまうと、「単純承認」、すなわち資産と負債の双方を一括相続したと見なされます。単純承認をせずに相続放棄をしたい場合は、この期間内に放棄の手続きを済ませるか、結論を出すまでの延長期間を求める手続きをしなければなりません。
また熟慮期間中は、相続財産を移動させることは厳禁です。放棄する前に資産に手をつける行為は許されません。例えば、被相続人の銀行預金から勝手に引き出す、被相続人が所有していた不動産を売却するといった行為を行うと、資産と負債の双方を相続した「単純承認」と見なされ、相続放棄の手続きはできなくなります。この熟慮期間中には、相続財産には絶対手をつけないことが鉄則です。
相続放棄が認められると、相続権は法律に従って次の順位の方に移ります。例えば、親が亡くなった場合、まず親の配偶者と子どもに相続権があります。これらの方が全員相続放棄をすると、相続権は、親の親、さらには親の兄弟・姉妹に移ります。
家庭裁判所から、これらの方への通知は行われないため、放棄した「事実を知らなかった」として、後々大きなトラブルになる可能性があります。そのため相続放棄を選択する場合は、相続権の移る可能性のある方々へ、きちんと連絡し、放棄の意向を伝えておく必要があります。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。