更新日: 2023.11.24 遺言書

父の遺書に「財産は次男に全て相続させる」と書かれていましたが、長男の私は納得できません。内容を覆すことはできるのでしょうか。

執筆者 : 辻章嗣

父の遺書に「財産は次男に全て相続させる」と書かれていましたが、長男の私は納得できません。内容を覆すことはできるのでしょうか。
被相続人(財産を遺す人)は、遺書(正式には遺言書)によって遺産(被相続人の財産)を特定の相続人などに自由に遺すことができます。それでは、遺産を受け取れなかった相続人は、遺産を相続することを主張できないのでしょうか。
 
今回は、遺言書の要件と法定相続人の遺留分について詳しく解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

遺言とは

被相続人は遺言によって、遺産を相続人や遺贈者などに自由に遺すことができます。一般的に用いられる遺言書には、本人が作成する「自筆証書遺言」と公証役場で作成する「公正証書遺言」の2種類があります。
 
公正証書遺言は、国が認める公証人が被相続人の口述に基づいて筆記しますので、法的な問題が生起することはありません。一方、自筆証書遺言は自分で作成するものですので、法的に認められるためにルールが決まっています(※1)。
 
なお自筆証書遺言は、被相続人が亡くなった後に家庭裁判所の検認手続き(遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するためのもの)が必要ですが、自筆証書遺言を法務局に預ける「自筆証書遺言書保管制度」を利用すると検認が不要となります(※2)。
 

1.自筆証書遺言のルールとは

自筆証書遺言が法的に認められるためには、以下の要件を満たす必要があります(※1)。

1 遺言書の全文、遺言の作成日付および遺言者氏名を必ず遺言者が自書し、押印する。
2 パソコンなどで作成した財産目録が添付されている場合、全てのページに署名、押印する。
3 内容を訂正または追加する場合は、その場所が分かるように示した上で、その旨を付記して署名し、訂正または追加した箇所に押印する。

なお後述の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は①~③に加えて、用紙がA4サイズに限られるなど、様式上のルールがありますので注意してください。
 

2.自筆証書遺言書保管制度とは

自筆証書遺言書保管制度とは、自筆証書遺言を法務局に預ける制度です(※2、3)。
 
遺言の保管申請は、遺言者の住居地か本籍地、または所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局に対して行います。申請する法務局に予約をした後は、指定された日時に以下の書類を持参して、遺言者本人が申請を行います。

1 自筆証書遺言書
2 保管申請書
3 添付書類(本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写しなど)
4 顔写真付きの官公署から発行された身分証明書
5 手数料(3900円分の収入印紙)

自筆証書遺言を法務局に預けると、以下のようなメリットがあります。

·遺言書の紛失や亡失を防ぐことができる。
·遺言書の破棄、隠匿、改ざんなどを防ぐことができる。
·保管申請時に法務局の職員によって、民法の定める自筆証書遺言の方式について外形的な確認 (全文、日付及び氏名の自書、押印の有無等)を受けることができる。
·相続開始後、家庭裁判所における検認が不要となる。
·相続開始後、遺言者が指定した相続人などに遺言書が保管されていることが知らされる。

 

法定相続人と遺留分

被相続人は遺言書によって、自分の配偶者、子や孫などの相続人に遺産を相続させることも、他人や団体に遺産を遺贈することもできます。この際、民法に定められた相続人は、遺産を受け取れなかった場合、相続する権利を主張することができます。
 

1.法定相続人とは

法定相続人の範囲は、民法により以下のとおり定められています(※4)。

(1)死亡した人の配偶者(内縁関係は相続人に含まれません)
(2)死亡した人の子ども(子どもが既に死亡している場合は、子どもの直系卑属(その子の子や孫)が相続人となります)
(3)死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)
(4)死亡した人の兄弟姉妹

(1)の配偶者は常に相続人となり、(2)の子どもは第1順位の相続人になります。(3)の直系尊属は②に該当する人が居ない場合に、(4)の兄弟姉妹は(2)の子どもと(3)の直系尊属が居ない場合に相続人となります。
 

2.法定相続分

相続人は、遺言がなかった場合、話し合いにより遺産を分割しますが、話し合いにより合意できなかった場合は、民法に定める割合(法定相続分)で遺産を分割します(※4)。

相続人のケース 法定相続分
配偶者と子ども 配偶者1/2、子ども1/2
配偶者と直系尊属 配偶者2/3、直系尊属1/3
配偶者と兄弟姉妹 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4

(※4を基に筆者作成)
 
なお、子ども、直系尊属、兄弟姉妹が複数いるときは、原則として均等に分割します。
 

3.遺留分とは

被相続人は、法定相続分にかかわらず遺言により、特定の相続人や他人などに遺産の全部または一部を相続させることができます。
 
この際、遺産を相続できなかった法定相続人は、遺産を相続または遺贈された人に対して、民法に定められた割合(遺留分)に相当する金銭を請求することができます(※3)。
 
遺留分の割合は下表のとおりとなっています。
 

相続人 遺留分
配偶者と子ども 法定相続分の1/2
直系尊属 法定相続分の1/3
兄弟姉妹 遺留分はありません

(※3を基に筆者作成)
 
従って、法定相続人が子ども2人のみの場合は、法定相続分がそれぞれ1/2、遺留分がそれぞれ1/4となります。なお、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がありません。
 

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まとめ

被相続人は、遺言に記載することで遺産の相続方法を自ら決めることができます。相続人が子ども2人のみの場合、遺言によりその一方に遺産の全部を相続させることができますが、相続できなかった一方の人は遺留分として相続財産の1/4に相当する金銭を請求することができます。
 
なお、被相続人が自分自身で作成する自筆証書遺言は、法的ルールに基づいて作成しなければなりません。また、自筆証書遺言を間違いなく相続人に渡す方法として、法務局に遺言を預ける自筆証書遺言書保管制度を利用することをお勧めします。
 

出典

(※1)東京法務局 遺言書を作成するときの注意点
(※2)東京法務局 自筆証書遺言書保管制度
(※3)法務省 自筆証書遺言書保管制度のご案内
(※4)e-Gov法令検索 民法 第5編 相続
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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