更新日: 2024.05.20 その他相続
【対策失敗?】義母が資産1億円以上あります。富裕層と中間層で相続税対策の気をつけるポイントを教えてください!
しかし、正しい知識がなければ逆に負担となる可能性もあります。また、資産の多さによっても相続税の対策が変わってきます。本記事では、富裕層・中間層の方が見落としがちな相続対策のリスクについて解説していきます。
執筆者:小串 嘉次信(おぐし かじのぶ) / 税理士
税理士法人OGU(芦屋市)代表社員
平成5年独立開業後、相続の申告対応に強みを持つ事務所経営を展開している。兵庫県芦屋市に事務所がある為、富裕層事案についても多数手がける。安心感のある相談対応と誰もが納得できる業務及び報酬の内容を心がけている。
富裕層の方が見落としがちな相続対策
賃貸アパートを建てる
富裕層の方が、相続税対策として金融機関から融資を受けた資金で貸家を建てるケースがよくあります。相続税対策となる理由は、3点の節税効果メリットがあるからです。
(1)融資を受けることにより借入残高が債務として認識されマイナスの財産として相続財産から差し引けること。
(2)建物に賃借人の借家権がつくことになる為、通常の建物評価から評価額の30%の借家権評価を差し引くことが出来ること。
(3)敷地の評価をするときに貸家建付地の評価減として敷地の評価額から評価額の18%を差し引くことが出来ること。
※この18%は敷地が所在する地域ごとの借地権割合によって変動します。借地権割合が60%の地域の宅地が割合多いので、その場合は18%が差し引けます。借地権割合は国税庁の路線価図に記載されています。
その他のメリットとして、適用要件が当てはまれば小規模宅地の特例の対象宅地として選択出来る可能性もあります。このように一見、節税メリットが多い融資付き貸家スキームですが見落とされているリスクがあります。
貸家であるので賃借人として入居者が確実に入らなければ返済計画が大きく変わります。相続が発生した後、相続人に資金的余裕がなければ金融機関への返済と金利で不動産事業としての資金繰りが切迫して相続人が大変な苦労をしている事例が散見されます。
タワマン節税
同様の節税スキームでよく行われていた、いわゆるタワマン節税が2024年1月からの相続開始分において評価上の改正が行われ、節税メリットが大きく制限されます。内容としては、居住用の分譲マンション全般の評価について規制の対象となり、通常の路線価評価に市場価格との乖離率を加味した評価額に改正されています。
改正の理由は、相続税評価の方が大きく評価されやすく、実際の取引売買価額との乖離が大きくなり過ぎたためです。結果、節税としての効果が以前よりも小さくなります。ご検討されていた方は、ご注意ください。
中間層の方が見落しがちな相続対策
亡くなる前の口座引出し
病気などで余命が限られてきたときに、その人の銀行口座から本人やその親族がまとまったお金を引き出しておくことがあります。その金額がお葬式費用よりかなりの上回った金額になってしまい、自宅での現金保管や銀行の金庫に入れておいたり親族名義の銀行口座に移し替えたりするケースがあります。
ご本人が亡くなって相続の開始となったときに一見すると亡くなった方の預金口座残高が減少していますが、相続評価の視点が見落としがちです。事前に引き出して保管しておいたお金は本人が生前に使っていた金額を除き、『現金』として相続財産を構成します。従って相続税申告上の課税財産となります。
また親族名義の口座に移し替えていたお金は、名義はともかく実質的に亡くなった人の財産なので借名口座として相続財産を構成することになります。相続があると銀行口座が金融機関によって止められるので、このように便宜上親族名義の口座を借用することがありますが相続税申告上の財産として課税対象となりますので注意が必要です。
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富裕層の方、中間層の方ともに見落としがちな相続対策
法人設立
病気などで余命が限られてきたときに、本人が所有する個人不動産の名義を、新たに法人を設立してその法人名義に切り替えてしまいたい、と検討されることがあります。
あまり時間的余裕がないことから金融機関と融資の相談も出来ずあくまで不動産名義だけを切り替えようとするケースです。所有する不動産を新設法人名義にしてしまえば本人の相続税が課税されないのではないか、と考えるわけです。
法人の設立そのものは直ぐに出来ますが資金の裏付けがなく不動産名義の切り替えをすると、その新設法人の帳簿上その本人から購入資金を借入れて、法人が不動産取得をしたことになります。
その場合、法人が本人から借入れたことになる金額が、ご本人から法人に対する『貸付金』として相続税が課税されます。不動産評価額での取り引きがあったことになるので、不動産評価額相当が『貸付金』として相続税の課税対象になります。
問題はそれだけに留まらず、個人不動産を新設された法人に名義変更することは税務上譲渡したことになるので、本人の所得税としての譲渡申告が必要になってきます。場合によっては多額の譲渡所得税が課税されます。
このように急に相続対策をしようとすると、逆にデメリットが大きくなることが多いです。相続対策は生前に様々なケースを検討して最善策を採用する必要があるので、時間をかけて丁寧な検討を行った上で慎重に実行しましょう。
執筆者:小串 嘉次信 / 税理士
税理士法人OGU(芦屋市)代表社員