更新日: 2024.04.01 遺言書

【例文あり】遺言書(自筆証書遺言)の作成手順から必要要件、注意点などを解説

執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部 / 監修 : 柘植輝

【例文あり】遺言書(自筆証書遺言)の作成手順から必要要件、注意点などを解説
遺言は、死期が近づいてからするものと思いがちですが、むしろ判断能力が高くて健康な状態のうちから書き始め、定期的に更新していくべきものです。
 
なぜなら、人はいつ何が起こるか分からないからです。そのような時にでも、残された家族が困らないように配慮し、遺族が揉めることのないように、遺言書の作成について少し考えてみましょう。
 
この記事では、3種類ある遺言書のそれぞれの目的や相違点、また遺言書の法的要件および書き方について文例を示して解説し、注意点などもご紹介しています。
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書遺言にできること

遺言書とは、被相続人から法定相続人や生前にお世話になった団体および人々へ、分け与えたい財産や権利を、感謝の気持ちや将来への想いとともに贈る、故人の最後の手紙です。

被相続人が亡くなって遺言などの指示が残されていなければ、原則として遺産は法定相続人へ法定相続割合のとおりに分配されます。しかし、被相続人が遺言書を残していた場合には、法定相続人の範囲や法定相続割合に関わらず、被相続人の意向に沿った内容で相続させることができます。

遺言書を作成する目的や理由

遺言書が残されていないものの、法定相続割合とは異なる割合での相続を希望する場合や、遺産ごとに誰が何を引き継ぐのか細かく指定したい場合には、相続人同士が参加して遺産分割協議を行って決定し、各自が署名捺印した遺産分割協議書を合意の証として残します。

被相続人は、相続人が揉めないように遺産の種類や配分を考えて遺言書を記載しますが、それがかえって相続人同士の不公平感をあおって、揉めごとの火種になる場合もあります。しかし、基本的には、相続人同士が仲良く気持ちの良い相続になることを目的として作成されるものなのです。

目的達成のために、遺言書で以下の図表1にあるような指定ができます。

図表1

指示内容の分類 遺言に書かれる具体的な指示内容
財産に関する指示 ・法定相続割合とは異なる相続割合の指定
・相続人ごとに相続させる財産の特定
・遺産分割方法の指定および遺産の分割の禁止
・包括遺贈(割合指定)および特定遺贈(財産指定)
・生前贈与を与えた者の相続分を調整する指定
・遺産から被った損害を補う者や方法を指定
身分行為に関する指示 ・婚姻中でない男女間に生まれた子の認知
・被相続人へ虐待や侮辱をした推定相続人の廃除
遺言執行に関する指示 ・遺言執行者の指定や指定行為の委託
その他 ・未成年をサポートする未成年後見人を指定
・未成年をサポートする未成年後見監督人を指定

筆者作成

遺言でこれらを指定することで得られる効果は下記のとおりです。

・遺言者の意思を忠実に伝えられる
・法定相続人以外にも財産を分配できる
・相続人同士の揉めごとを減らせる
・事業承継に適した財産の分配ができる
・付言事項で感謝や愛を伝えられる

それぞれの効果や具体例について解説します。

遺言者の意思を忠実に伝えられる

遺言書作成のメリットは、遺言者の思うままに相手と財産を選んで分配ができるという自由度の高さにあります。

法定相続人の範囲内で法定相続割合に従って分けることが、一見して公平な分配のように感じます。しかし、その遺産が必要な方とそうでない方や、その遺産の価値を最大限に発揮できる方とそうでない方がいるのは確かです。

例えば、収益不動産を法定相続割合どおりに共同相続した場合を考えます。

賃貸事業では、リフォーム代、仲介手数料、水光熱費、法定点検、税金、自然災害などで常に何かしらの出費を伴います。共有物の賃貸事業では運営方針を決めるには共有者全員の同意が必要であり、経費も収益も損失も共有者の持分割合に応じて分けるのが原則です。

相続人のなかには、リスクを背負って常に出費が必要な遺産は欲しくないと考える方もいるかもしれませんので、何でも共有にしておけば公平なように見えても、相続人が喜ばない分配方法になっている場合があります。遺言書なら、収益物件は長男で預貯金は長女へというように、遺言者の意思をそのまま反映できるのです。

法定相続人以外にも財産を分配できる

法定相続人以外へも財産を渡せるのは、遺言書を作成する大きなメリットです。

被相続人の終末期に熱心に介護やサポートをしてくれて、良い最期を迎えられると感じたなら、その介護担当者や入居施設に対して何かお礼をしたいと考える方もいるかもしれません。また、親族であっても相続人ではない甥姪やいとこへも遺言書なら遺産を分け与えられます。

ただし、法定相続人には遺留分といって、最低限取得できる相続割合が法律で保証されているため、遺言書を作成する際は遺留分を侵害しないように気をつけましょう。

他方、以下の図表2にあるとおり、最高裁判所が公表しているデータによれば、相続人不存在によって国庫に帰属した財産は過去最高額を更新し続けています。

図表2


※裁判所 令和5年度一般会計歳入予算概算見積書(現金収入)より

亡くなる時に、配偶者、子ども、兄弟姉妹がいない場合には「相続人不存在」として遺産は相続財産清算人の調査によって債権者や療養看護に努めた人(特別縁故者)に分配され、残余財産は国庫に入ります。

相続人のいない人が誰かに遺産を継いでもらいたい場合でも、遺言書であれば相続人以外の人へも遺産を引き継ぐことができます。「相続人がいない財産」を残すくらいなら、遺言書で生前のお礼をして旅立つほうが良いのかもしれません。

相続人同士の揉めごとを減らせる

相続人の仲が悪い場合には、遺産分割協議が整わないという懸念があります。その場合には、遺言書で分配方法を指定して、必ず故人の意思を尊重するようにと、書き残せば揉めごとを予防できる場合があります。

ただし、遺言書があっても遺言の内容を優先するのが遺産分割協議であるため、揉めごとを完全に予防できないかもしれませんが、被相続人の意思が自筆の手紙で残されている効果は少なくはないはずです。

特に、被相続人と配偶者に子どもがおらず、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人の場合には、兄弟姉妹と配偶者で協議が整わない事態が考えられますので、そのような場合には「揉めてほしくないのでこの方法で分配するように」と遺言書に書いて残しておくと良いでしょう。

事業承継に適した財産の分配ができる

事業を持つ被相続人が事業を後継者へ安全に引き継ぐために、保有する自社株を次期後継者に相続させる指示をして、大きな議決権とともに経営権を委ねるケースがあります。そのような事業承継の場合には、事業に関連する財産として自ら現物出資している不動産もあわせて引き継ぐよう指示することが一般的です。

ただし、ここでも遺留分の侵害や他の相続人の不公平感を生む原因になり得るため、「事前に推定相続人や関係者へ周知して根回し」しておく必要があるでしょう。

下記は、自社株などを引き継ぐ際の遺言書の記載例です。

【例】
遺言者は、相続開始時に有する次の財産を、遺言者の配偶者◯◯◯◯(昭和◯年◯月◯日生)に相続させる。

<株式>
◯◯株式会社の株式2万株
預託先:◯◯証券◯◯支店

 

付言事項で感謝や愛を伝えられる

遺言書には「付言事項」として相続方法や財産の指定以外の事項を書くことができます。ただし、付言事項には法的効力はありません。

付言事項の使い方は、遺産の配分を決めた被相続人の意図や葬儀の開催方針および生前お世話になった家族やその他の方への感謝の気持ちを一言添えるなど、メッセージ欄の役割があります。淡々とした財産の分配指示になりがちな遺言書のなかでも、気持ちのこもったあたたかい部分だといえます。

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3種類の遺言書の特徴や違いについて

遺言書の種類には「公正証書遺言」、「自筆証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。状況にあわせて使い分けられるように、以下の図表3でそれぞれの特徴や相違点をまとめています。

図表3

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
遺言作成者 被相続人(代筆不可) 公証人 被相続人(代筆可)
記載方法 必ず自筆 公証人が署名代筆可 パソコン作成可
作成費用 無料 手数料あり 固定金額(1.1万円)
証人擁立の有無 不要 要2人以上 要2人以上
プライバシー 完全に秘密 公証人が閲覧 秘密にできる
保管方法 自己保管 公証役場保管 自己保管
偽造・変造 リスクあり リスクなし リスクあり
検認の要不要 必要 不要 必要

筆者作成

3つの遺言のそれぞれについて解説します。

自筆証書遺言

自筆証書遺言の概要や特徴について解説します。

<自筆証書遺言の作成>
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の内容と日付および氏名を全て自筆で紙に書き、署名ならびに押印することが要件です。
ただし、2019年(平成31年)1月の民法改正によりパソコンなどで作成した財産目録や、銀行通帳のコピーおよび不動産登記事項証明書などを財産目録として遺言書に添付することが認められました(民法968条)。

なお、財産目録以外の遺言書の全文は依然として遺言者が手書きしなければならず、この部分をパソコンなどで作成したり、第三者に代筆してもらったりすれば、その遺言は無効です。

<自筆証書遺言の保管>
自筆証書遺言は、原則として遺言者が自ら保管します。ただし、法定の様式に従って作成した無封の自筆証書遺言なら「自筆証書遺言保管制度」によって法務局で保管してもらえます。

<自筆証書遺言の検認>
自筆証書遺言は、遺言書を開封せずに家庭裁判所に持ち込んで遺言書を検認してもらってからでないと適法に使用できません。遺言書が検認手続をしないで勝手に開封された場合でも無効にはなりませんが、5万円以下の科料がかかる場合があります。

公正証書遺言

公正証書遺言の概要や特徴について解説します。

<公正証書遺言の作成>
公正証書遺言は、証人とともに遺言者から伝え聞いた内容を公証人が遺言書に記載するため、遺言者が手書きすべき箇所は署名部分だけです。このように、公正証書遺言では公証人が法的要件から外れないように作成するため形式的な誤りがないため安心です。

また、遺言者の事情によって署名ができない場合でも、公証人は遺言者の署名に代わる措置を講じてくれます。つまり、公正証書遺言は専門家である公証人が遺言作成のサポートをしてくれる、安心な仕組みだといえます。

なお、公正証書遺言では遺言者が高齢もしくは病気で公証役場に来られない場合に、公証人が遺言者の自宅や入居施設、介護施設、病院などに出張してくれ、そこで遺言書の作成を手伝ってくれるのです。

<公正証書遺言の保管>
遺言公正証書は、原本を必ず公証役場に保管するので本人が遺言を紛失してしまうような失敗はなく、遺言書が破棄や破損汚損および隠匿や改ざんリスクが全くありません。また、震災などにより遺言公正証書の原本および正本や謄本が全て滅失しても復元ができるように、電磁的記録(遺言証書PDF)を作成して二重に保存するシステムがあり安心です。

<公正証書遺言の執行>
公正証書遺言では、家庭裁判所での検認手続きが必要ないので、相続人等の手間がかかりません。公正証書遺言では、遺言書作成時に正本1通と謄本1通の交付を受けるので、遺言の執行時は手元にあるものを利用して遺言執行を行います。つまり、相続開始時点で改めて遺言書の謄本を請求することはありません。

また、平成元年以降作成の遺言公正証書では遺言情報管理システムに遺言情報が登録されているため、相続人等の利害関係人から全国の公証役場に対して、被相続人が公正証書遺言を残しているのかを問い合わせることもできるのです。

秘密証書遺言

<秘密証書遺言の作成>
秘密証書遺言は、遺言を記載して署名押印をした書面を封筒に入れて封印し、公証人および証人2名の前にその封書を提出します。公証人が封紙上に日付および遺言者の申述を記載し、遺言者と2人の証人とで封紙に署名押印をします。

秘密証書遺言は自書である必要がないため、パソコンなどで文章を作成しても第三者が筆記しても問題ありません。

<秘密証書遺言の保管>
秘密証書遺言は、遺言者自身が保管しなくてはならないため、紛失や破棄汚損および隠匿や改ざんのリスクがあります。

<秘密証書遺言の執行>
秘密証書遺言では、公証人は、その遺言書の内容を確認することができないので、遺言書の内容に法律上、間違っているものがある場合は、無効となる可能性がないとはいえません。

秘密証書遺言は、法務局にて遺言書を保管してもらう、遺言書保管制度を利用できません。よって、秘密証書遺言は、遺言書保管制度を利用しない場合の自筆証書遺言と同様に、この遺言書を見つけた方が、家庭裁判所に提出し、検認手続を行わなければなりません。

遺言書(自筆証書遺言)のメリット

遺言書(自筆証書遺言)のメリットを解説します。

自分だけで作成し書き直せる

自筆証書遺言は紙とペンさえあればいつでも作成できます。わざわざどこかへ出向いて証人を立てなくても良い気軽さがあります。そして、いつでもその内容を変更したり更新したりが自由にできます。

費用がかからない

公正証書遺言の場合の公証人手数料などは必要なく、自筆証書遺言では紙とペンの費用しか必要ありません。

遺言内容が秘密にできる

自筆証書遺言は、自分で好きに書いた遺言書をどこか自分の目の届く範囲内で保管する形式であるため、遺言内容を誰にも見せずに作成できます。誰にも内容を知られたくない方のプライバシーが強く守られます。

法務局で保管してくれる

作成や保管が自由過ぎるが故に、一部の相続人が行う改ざんや保管場所を忘れた紛失が一定数ありました。そこで、2020年7月10日施行の「法務局における遺言書の保管等に関する法律(自筆証書遺言書保管制度)」が創設されたのです。

遺言者本人が法務局へ出向く必要はありますが、管理状況によるトラブルを回避する効果が高いといえます。さらには、家庭裁判所における遺言の検認手続も不要になっています。

遺言書(自筆証書遺言)のデメリット

つづいて、遺言書(自筆証書遺言)のデメリットを解説します。

全て自己責任で行う

法務局は保管をするだけであり、自筆証書遺言の記載内容が法的に問題ないかなどの質問や相談には応じられません。つまり、自筆証書遺言の内容が遺言者の自己責任であることに変わりはないのです。

法的不備を予防できない

法律家が遺言内容を精査することなく自分で自由に記載するため、法律的に不備がある内容でも誰もチェックしたり修正指示を出したりできません。そのため、遺言書が揉めごとの原因になったり、内容が無効だったりする場合が考えられます。

加えて、自筆証書遺言ではご記載の訂正方法にも厳格なルールがあるため、修正方法の不備でも無効になるリスクがあります。

手書きをできないと利用できない

自筆証書遺言は、財産目録を除いて全文手書きが要件です。したがって、病気その他の理由で字が書けない状況下にあった場合、自筆証書遺言は利用できません。

遺言書(自筆証書遺言)の有効要件とは?【文例見本つき】

遺言書(自筆証書遺言)が有効に成立する要件を文例見本を例に解説します。

遺言書(自筆証書遺言)の有効要件

自筆証書遺言の有効要件は下記のとおりです。

・遺言書の全文、遺言の作成日付および遺言者氏名を、必ず遺言者が自書し押印する
・遺言の作成日付は、日付まで特定できるよう正確に記載する
・財産目録は、自書でなくパソコンを利用したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーなどの資料を添付する方法で作成できますが、目録の全てのページに署名押印が必要
・書き間違った場合の訂正や内容を書き足したい時の追加は、その場所が分かるように示したうえ訂正または追加した旨を付記して署名し、訂正または追加した箇所に押印

 

遺言書(自筆遺書遺言)の文例見本

以下の図表4は、自筆証書遺言書の記載例です。

図表4


※法務省 自筆証書遺言保管制度 03 遺言書の様式等についての注意事項より

遺言書(自筆証書遺言)の様式について

下記それぞれの要件に適合していなければ、遺言書(自筆証書遺言)は適用されません。

<用紙サイズ>
・用紙サイズはA4のみ
記載した文字が読みにくいような柄や絵や彩色がないもので、罫線程度なら問題ありません。

<余白の幅>
最低限の余白を必ず確保しましょう。

・上部5ミリメートル
・下部10ミリメートル
・左20ミリメートル
・右5ミリメートル

なお、余白が確保されていない場合や余白に1文字でも何らかの文字等がはみ出してしまっている場合は、書き直さなければ預かれません。

<用紙への記載方法>
・用紙の片面のみに記載
用紙の両面に記載して作成された遺言書や財産目録は預かれません。

<ページ番号>
・各ページの余白内に収まるようにページ番号を記載する

<複数ページある場合>
・ホチキス等で綴じない
スキャナで遺言書を読み取るため、全てのページをバラバラのまま提出します。

<筆記具の制限>
・遺言書は長期間保存するため消えるインクなどは認められず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用する

<遺言者の氏名>
ペンネームなどではなく戸籍どおりの氏名(外国籍の方は公的書類記載のとおり)を記載

自筆によらない財産目録の見本

以下の図表5-6は、自筆証書遺言書の記載例です。用紙、余白、ページ番号、署名捺印などは前述の「自筆証書遺言書の記載例」に準じます。

図表5

図表6

※法務省 自筆証書遺言保管制度 03 遺言書の様式等についての注意事項より

遺言書(自筆証書遺言)の適切な書き方のポイント

自筆証書遺言書の適切な書き方のポイントを5つ解説します。

相続人確定と財産調査に必要な書類を集める

遺言書を作成するためには、まず遺産の全貌を把握しなければなりません。そのため、財産調査に役立つ下記の資料を事前に集めておきましょう。

・不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
・不動産の登記識別情報(権利証)
・賃貸借契約書
・預貯金口座の通帳
・生命保険証書
・車検証
・高額商品購入時の領収書
・ゴルフ会員権やホテル会員権などの証書
・証券会社やFX販売所および仮想通貨交換所の口座資料

 

財産・渡す相手・配分割合を明確に書く

遺産の分配内容は可能な限り詳しく財産を特定して、分配法や割合も勘違いが起こらない内容に決めて、詳しく記載すべきです。遺産の分割では、誰にどれだけ渡すのかが不明瞭だと揉めごとの原因になりやすいからです。

また、よりリスクが少ない相続方法にすることも重要です。例えば、不動産が共有にならないように、相続する者を1人に限定して単独相続の指示をする、売却して現金に換えてそれを分割するよう指示するなど、揉めないための工夫も大切でしょう。

目録はパソコン作成やコピー添付が可能

2019年(平成31年)1月からは、パソコンで作成した財産目録の添付や銀行通帳のコピーおよび登記事項証明書を財産目録として添付できるようになりました。財産目録などの記載を間違えやすいものは、便利で間違いが起こりづらい方式で作成するほうが安全です。

ただし、あくまで自筆証書遺言本文の部分は自筆でなければならないためご注意ください。

遺言執行者を決める

遺言の執行をする者として特定の人を選任しておけば、遺産相続の手続きがスムーズに進みますが、この遺言を執行する人を「遺言執行者」といいます。遺言執行者は、未成年者や破産者以外なら誰でも指定できますが、実際は深く幅広い知識や経験が求められ揉めごとの仲裁なども行わなければならないなど、責任や負担が大きいため人選は重要です。

もしも遺言執行者を指定するなら、司法書士や弁護士などの法律の専門家にするとよいかもしれません。

訂正部分は二重線と訂正印

自筆証書遺言は誤字脱字の訂正方法が厳格に決められています。

訂正方法は「遺言者がその訂正した箇所を指示しこれを訂正した旨を付記して、そこにも署名かつ押印をしなければならない」とされています。この要件を満たさない訂正がされていると、方式不備で無効になるリスクがあるのです。

遺言書(自筆証書遺言)で失敗しないための注意点

自筆証書遺言で失敗しないための注意点は下記のとおりです。

・自筆証書遺言の要件を厳格に守る
・曖昧な表現を避け、具体的で明確な表現で指示する
・動画や音声やSNS投稿などの無効な方法を使わない
・意思能力(精神状態や認識能力)が確かな状態で行う
・遺留分を侵害して揉めごとを生まない
・公証役場や専門家のサポートを検討する
・保管方法や保管場所をよく考える
・財産や家族が増える際は遺言書作成に適している

 

専門家に遺言書作成を依頼するメリットと費用

専門家に遺言書作成を依頼するメリットと費用は下記のとおりです。

専門家に遺言書作成を依頼するメリット

・相続人確定や財産調査が正確
・遺言以外に相続全般の相談ができる
・気持ちや指示を遺言書で正確に表現できる
・各相続人の遺留分侵害に配慮できる
・遺言執行者を任せて確実に実行できる
・専門家のサポートで無効リスクが減る
・相続トラブルを解決してくれる

 

専門家(弁護士)に遺言書作成を依頼する際の費用

以下の図表7は、遺言書の作成などを弁護士に依頼する費用です。

図表7

遺言の相談費用 ・30分5000円、もしくは1時間1万円の単価
遺言書作成費用 ・目安として10万~20万円、
・遺言内容や遺産額により50万円を超える場合あり
遺言書保管費用 ・年間で約1万円
遺言執行費用 ・30万円からで業務内容により100万円を超える場合あり
・相続対象の遺産総額の0.5~2%が目安になる場合あり
その他の費用 ・出張費の日当として3~5万円

筆者作成

遺言書(自筆証書遺言)に関してよくある質問

よくある質問と答えは下記のとおりです。

(Q1)遺言書が複数ある場合は?

(A1)日付の新しい遺言書の内容が有効です。古い遺言が新しい遺言によって更新されたものと見なします。

(Q2)念のため筆跡鑑定は必要?

(A2)結果からいえば、筆跡鑑定は必ずしも有効な証拠だとは言い切れず、必要とまではいえません。なぜなら、筆跡鑑定は文字の特徴が本人のものと似ているかどうかで判定するため、本人にあまりにも近い字なら他人が書いても本人の自筆と判定される可能性があるからです。また、筆跡鑑定をする側に公的な資格がないため、筆跡鑑定が法的要件になっていないのが現状です。

(Q3)メモや走り書きでも有効?

(A3)自筆証書は用紙や余白のサイズおよび紙の柄や模様が決まっています。メモ書きでも自筆証書遺言の要件を満たせば遺言書になり得ますが、文字が不明瞭で読めない場合や、財産目録がないもしくは不確かである場合、自筆証書遺言書とはいえないでしょう。

(Q4)ボイスレコーダーや自撮り動画は?

(A4)録音テープやビデオで録音や録画をしても、それらは遺言として法律上の効力がありません。動画のなかで遺言内容を語る被相続人の姿を見られるのは、意思を確認するという一定の効果はありますが、法的な効力は認められていません。

遺言書まとめ

遺言は、自分の死後に大切な家族が困らないように、自分が元気なうちに作成すべきもので、その点において生命保険と共通しています。

また、遺言には遺言者の自由な意思をありのまま伝えるという効果の他にも、相続人同士の揉めごとを予防するために、相続内容を指定しておくという働きがあります。しかし、定められた要件を満たさなければ法的効力を持たないというリスクもあるのです。

したがって、本当の意味で揉めごとをなくして、不公平感がなく、節税にも効果があるような相続内容を指定したい場合には、専門家への依頼がもっとも安心だといえるでしょう。

出典

裁判所 令和5年度予算の概要
裁判所 令和5年度一般会計歳入予算概算見積書(現金収入)
法務省 自筆証書遺言保管制度 03 遺言書の様式等についての注意事項

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部

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