更新日: 2024.04.25 その他相続

相続の遺産を現金化で分割する方法は?よくある不動産・土地などのケースを解説

執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部

相続の遺産を現金化で分割する方法は?よくある不動産・土地などのケースを解説
相続する遺産の分け方で不満を抱いたり揉めごとになるケースは少なくありません。そこで、相続で揉めることがないように、遺産を売却して現金化してから分配する「換価分割」という方法があります。
 
ただし、相続手続きのなかでも「相続税の申告」と「納税」には期限があるため、安全で迅速に完了させるためには遺産相続について事前に基礎知識を身につけておくことが大切です。
 
この記事では、4つの相続方法の概要から換価分割にフォーカスして深掘りし、換価分割の課税関係や注意点および「換価分割」を選ぶ判断基準まで解説しています。
FINANCIAL FIELD編集部

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相続財産を分割する4つの方法

 
相続財産を分割する方法はおもに下記の4つです。
 

(1)現物分割
(2)共同相続
(3)代償分割
(4)換価分割

 
それぞれについて解説します。
 

相続財産の分割方法(1)現物分割

「現物分割」では、遺産を相続割合に近づくようにそのままの形で分配します。
 
例えば、実家の土地と建物はAさんが相続、預貯金はBさんが相続、株式はCさんが相続、賃貸不動産はDさんが相続などです。
 
現金や株式などは分割が容易であるため現物分割がしやすい財産といえますが、不動産や車や骨董美術品など、相続割合に合わせて分割しづらい財産の場合には別の方法をとります。
 

相続財産の分割方法(2)共同相続

「共同相続」は遺産を物理的に分割することなく、ひとつの遺産を複数の相続人が共同で相続し、持分に応じた割合に按分した権利を持ち合って共有します。
 
共同相続は、物理的に分割できない遺産でも相続割合と全く同じ分割ができるため、一見して公平な分割方法に見えますが、共有不動産は自分の意思だけで不動産を自由に扱えないというデメリットがあるため注意が必要です。主なデメリットは次の通りです。
 

・賃貸するには共有者の全員の同意が必要
・売却するには共有者の全員の同意が必要
・共有持分に応じて共有物から生じる利益を取得し損失を被る
・共有持分に応じて維持管理や修繕の費用を全員で負担する

 

相続財産の分割方法(3)代償分割

相続人のひとりが他の相続人の持分を買い取って単独で所有します。相続割合に合わせて金銭を渡しますが、遺産の金額によっては買い取る側の相続人が多大な資金を用意する必要があります。
 
例えば、親と同居していた長男が親の死後も実家を引き継いで所有し、他の兄弟の実家に対する相続割合(所有権持分)を買い取るような場合です。3000万円と評価される実家を長男が他の兄弟2人から持分3分の2を買い取るには、単純に約2000万円の資金を用意しなければなりません。
 
遺産のなかに、実家以外にも多額の預貯金や株式などがあり、2人の兄弟おのおのに3000万円相当の預貯金や株式が渡せるならバランスがとてもよいのですが、そのようなケースは少ないため、難しい場合が多いでしょう。
 

相続財産の分割方法(4)換価分割

換価分割とは、遺産を売却して現金化し、相続割合に応じて分配する方法です。
売却できるものであれば相続割合どおりに分割できるため、不動産や車、骨董美術品などの「物理的に分割できないものでも現金化」すればきれいに分けられます。
 

遺産を現金化して分配する換価分割とは?

 
物理的に分割できないものをそのまま分配すれば、その価値の多寡によっては相続人間の不公平感によって揉めごとになる場合があります。しかし、遺産を売却して現金化できれば、その後は相続割合と全く同じ割合で遺産分割ができるため、換価分割はきれいに分割できる優れた相続方法だといえるでしょう。
 
また、相続してもうまく活用できる見込みがない遺産や、相続人全員が相続したくないような遺産の場合にも換価分割を利用します。現金をもらって困る人はほとんどいないため、扱いに困る遺産であれば「売却して現金化」したほうが遺産分割が公平に行えるでしょう。
 

換価分割時の相続税の対象は売却価格でなく評価額

 
換価分割では対象となる遺産を必ず売却して現金化します。
 
不動産などのように、遺産の種類によっては流通価格(売却相場)と相続税の課税評価額がもとから乖離しているものがあり、さらに売却時の状況によっては売却価格も変動します。
 
しかし、相続税の課税評価額は換価分割の対象となる不動産が売却されて現金に変化したとしても、原則として相続開始時の評価額を採用して相続税額を計算することに変わりはありません。したがって、売却を経ても原則として相続税額が変動することはないのです。
 

換価分割の不動産売却により譲渡所得税がかかる

 
遺産が不動産の場合には、換価分割のための売却によって不動産は現金に変化しますが、売却金額の多寡は相続税額には影響しません。しかし、不動産の売却によって利益が出た場合には、相続税とは別にその利益に対して譲渡所得税等が課税されます。
 
譲渡所得税等は、不動産の所有期間に応じて、図表1のように分類されます。なお、相続した不動産の所有期間は被相続人(亡くなった前所有者)の所有期間を引き継ぐのが原則です。
 
図表1

変更項目 短期譲渡所得 長期譲渡所得
不動産の所有期間 5年以下 5年超
合計税率 39.63% 20.315%

※国税庁 土地や建物を売ったときを基に筆者作成
 
なお、所有期間の判定は実際の所有期間と異なります。所有期間の始期は実際の取得時ですが、所有期間の終期は売却時ではなく売却した年の1月1日時点になります。そのため、所有期間の判定は実際の所有期間よりも短くなることがほとんどです。
 
譲渡所得税を区分する所有期間の判定方法について、以下の例をご覧ください。

・実際の取得日:2018年8月8日
・実際の売却日:2023年9月9日
・終期の判定日:2023年1月1日(売却した年の1月1日時点で判定する)

 
上記のように、実際に不動産を所有した期間は約5年1ヶ月です。しかし、譲渡所得税を区分する基準になる所有期間は約4年5ヶ月と判定され、短期譲渡所得(高いほうの税率)の区分になります。
 
なお、不動産を売却したときの譲渡所得(不動産売却益)とは次の式により求めますが、取得費および譲渡費用とは以下の図表2にある費用を含みます。
 

譲渡所得(不動産売却益)=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)

 
図表2

取得費
(購入費用)
不動産を購入した場合は購入価格 さらに以下も含む
仲介手数料・司法書士報酬・登録免許税・不動産取得税・印紙税・特別なリフォーム費用・土地の改良造成費など
譲渡費用
(売却経費)
売却時の仲介手数料・司法書士報酬・登録免許税・印紙税など・測量費・建物取り壊し費など

筆者作成
 

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相続財産を換価分割する5つのメリット

 
相続財産を換価分割することによる5つのメリットについて解説します。
 

相続財産を換価分割するメリット(1)相続税は手元に残る現金で納税できる

 
換価分割は遺産を現金化してから受け取るため、遺産の価格が極端に低くならなければ手元に現金が残り、相続税の支払いに充てられるというメリットがあります。
 
相続税は「現金による一括納付」が原則であり、相続が発生してから10ヶ月以内に相続税の申告および納付の期限が設けられています。遺産が預貯金でなければ自己資金から納税することになりますが、手元に現金がない場合には遺産を売却するかローンを組むなどして納税資金を調達しなければなりません。
 
そのため、遺産を現金で受け取れる換価分割の場合には、納税問題に苦慮する必要がないのです。手元の資金が乏しく、売却してもよい遺産で、納税資金の借金をしたくないなら、換価分割はメリットが大きいといえます。また、単純に手元の資金が増えて経済的に余裕が出るのもメリットになるでしょう。
 

相続財産を換価分割するメリット(2)遺産管理の手間および維持管理や修繕費用の出費がなくなる

 
都会に出て暮らす子どもが、今の家から離れた田舎の実家や土地を相続すると、維持管理が大変です。しかし、空き家の劣化スピードは居住中の場合の何倍も速いといわれるとおり、空気の入れ換えや植栽の剪定をしないで放置するとあっという間に劣化します。
 
そして、動物が住みつけば異臭がして不衛生になり、木部のカビや腐食が進行していくでしょう。
 
とはいえ、仮に自分で毎月訪問して換気や清掃や修繕などで空き家を維持するのは大変であり、空き家の管理業者に費用を支払って管理を委託しても、将来的に利用する見込みがないのであれば、その出費は無駄になります。
 
思い入れのある実家でもこの先使う予定がないのなら、財産価値や購入需要が残っているうちに処分するのが賢明な場合もあるのです。
 

相続財産を換価分割するメリット(3)誰もが扱いに困る遺産を現金化できる

 
収益不動産や駐車場を自分では管理や運営ができない、また不動産リスクを背負いたくない、もしくは将来の賃貸需要が縮小しそうなど、不動産の所有をためらうなら早目に処分する選択もできます。株式や金融商品など、変動リスクや為替リスクで一喜一憂したくない場合も同様です。
 
また、骨董美術品に興味がなく保管場所も用意できないなど、どの相続人も欲しがらないような財産なら売却に異論が出づらいため、相続人の意見が一致しているうちに処分してしまうのもよいでしょう。
 

相続財産を換価分割するメリット(4)現物分割できない遺産でも公平に分配

 
換価分割の最大のメリットといえるのが、遺産を全ての相続人へ公平に分配できるため相続トラブルに発展しづらいという点です。
 
分割できない遺産を公平に振り分けるのは難しく、相続人間の遺産の価格差を埋めるために金銭の授受で調整したり、遺産を共同相続して共有で保有する場合があります。ただし、金銭授受で調整したくても資金が調達できない場合や、共同相続をしても共有者同士の意見が合わず揉めごとが起こる可能性があります。
 
換価分割なら1円単位まできれいに分割できるため、相続人間の遺産額の不均衡は起こらず、不公平感を抱く余地をなくせるのです。
 

相続財産を換価分割するメリット(5)代償分割資金がない場合の代替案になる

 
自分がどうしても単独で相続したい遺産があれば、遺産分割協議で自分が単独相続できるよう合意を得るか、他の相続人が相続放棄をするか、他の相続人の相続持分をお金で買い取るかなどいくつか方法があります。そのうち、金銭で買い取る代償分割は、単独相続する遺産が高額なら支払うべき金銭も高額になる傾向です。
 
しかし、遺産分割での合意も相続放棄の意思表示も得られず、自分の預貯金や借り入れで資金が調達できないなら、単独相続を諦めなければならない場合があります。このように、換価分割が代償分割の代替案になることもあります。
 

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相続財産を換価分割する4つのデメリット

 
換価分割をすることによる4つのデメリットについて解説します。
 

相続財産を換価分割するデメリット(1)売却により資産を手放してしまう

 
換価分割で必ず行うのは、遺産を売却して現金に換えるという点です。つまり、換価分割を行えば、得た売却金と引き換えに遺産は誰かの手に渡って失うということです。
 
先祖代々受け継いできた財産を失うことにより、精神的に前向きになれない場合があります。また、希少な商品や権利もしくは安定収入が見込める不動産など、この先で資産価値が大きく成長するチャンスまで失うこともあるでしょう。
 

相続財産を換価分割するデメリット(2)売却手続きで手数料や税金がかかる

 
仮に不動産を売却する場合には、必要に応じて以下の図表3のようなさまざまな費用がかかります。
 
図表3

手数料の種類 手数料の内容 手数料額の目安金額
仲介手数料 ・不動産の売却で仲介した不動産会社へ支払う報酬 ・法定上限額は税抜き売買価格の約3%と消費税
登記費用 ・所有権移転登記(相続)
・所有権登記名義人表示変更登記
・抵当権抹消登記
・所有権移転登記(売買)
・固定資産税評価額に対して
 相続:0~0.4%
 売買:0.1~2.%
・表示変更および抵当権抹消
 不動産1件ごとに1000円
譲渡所得税 ・不動産売却益に対する所得税など ・売約益の20~40%
測量費用 ・土地の売却で必要があれば ・一般的住宅は10~80万円
解体費用 ・建物の解体撤去処分の必要があれば ・木造で延床30坪の住宅:約150万円
残置物処分費用 ・不用品処分の必要があれば ・一般的な住宅で20~50万円程度

※筆者作成
 
上記の金額は一例であり、実際に依頼する際に上記と金額が異なる場合があります。
 

相続財産を換価分割するデメリット(3)希望する価格で売れるとは限らない

 
不動産や株式および骨董美術品などは、売却する時期によって価格相場が異なり、需要と供給のバランスによって瞬間的に価格が変動します。そのため、予想を上回り高額になることもあれば、予想に反する低価格でしか売れないこともあるなど、運の要素や売却を仲介する担当者の力量にも影響を受けるのです。
 
高額で売れて手元に多くのお金が残るよう願いますが、思いどおりにいかないことがあります。しかし、換価分割は相続税の申告や納税よりも前に余裕を持って終えていないと、申告や納税が間に合いません。
 
そのため、価格に不満があっても売却して現金化しなければ手続きが進まないという事情があるのです。
 

相続財産を換価分割するデメリット(4)譲渡所得税が高くなる場合がある

 
換価分割をする不動産は、被相続人(前所有者)が長期間所有しているケースが多いため、バブル期の取得を除いては、「取得時よりも不動産価格が高くなっているケース」が少なくありません。そのため、売却によって利益が出やすくなっており、譲渡所得税が想像以上に高くなる場合があります。
 
また、相続不動産が先祖代々受け継がれているような不動産であれば、そもそも取得した時期も当時の価格も不確かで、取得経費を証明するような書類など何も残されていないことは珍しくありません。
 
このような場合には仮の取得金額を「売却金額の5%」として譲渡所得金額を計算するルールですが、これによって売却価格の大部分が売却益になるという事象を招き、譲渡所得税額も高額になってしまうのです。
 

相続財産を換価分割する際の5つの注意点

 
相続財産の換価分割を安全で確実に行うための5つの注意点を解説します。
 

相続財産を換価分割する際の注意点(1)相続登記が終わらなければ売却できない

 
まず、相続不動産を売却するには、相続登記が完了して現所有者が登記名義人になっていなければなりません。相続登記を終えず被相続人名義(故人)のままの状態で、現所有者(相続人)から買主へ売却による所有権移転登記を申請しても、登記と実体が合わないとしてその登記申請は法務局から却下されます。
 
この相続登記を行うためには「遺言書探し」、「相続人の確定」、「相続財産の調査」、「戸籍などの書類集め」、「遺産分割協議」などをして、相続登記をするための事実をひとつずつ確定させなければなりません。書類上の調査や収集は一定の机上作業であり簡便ですが、相続人全員へ換価分割の説明と合意をとって遺産分割協議を終えるまでに、相続人同士が揉めて難航することもあります。
 
ただし、遺産分割協議も売買手続きも登記申請も相続人全員が協力しなければできないため、揉めそうなら専門家に介入してもらったほうがスムーズに進むでしょう。
 

相続財産を換価分割する際の注意点(2)不動産の現金化には時間がかかる

 
不動産の売却にかかる期間は、売却査定から決済と引き渡しが完了して現金化できるまでに、3〜6ヶ月の期間がかかるのが一般的です。そのため、相続発生から10ヶ月以内の相続税申告や納税期限に換価分割による現金化を間に合わせるためには、ゆっくり売却している時間はないのです。
 

相続財産を換価分割する際の注意点(3)売却が遅れると贈与税が発生する可能性がある

 
換価分割のための不動産売却では、事前に相続登記を終えてからのぞむのが必須条件です。このとき、相続登記を相続人の誰か1人(売却手続きを行う相続人の代表者)の単独名義にするのか、相続人全員の共有名義にするのかを選択します。
 
<相続人の誰かの単独名義にする>
メリットは、不動産会社や買主との手続きを1人で行える点です。スケジュール調整や意思決定および書類集めや署名捺印なども単独で行えるなど、手続きが進めやすくなります。
 
デメリットは、不動産の利用や処分を単独で行えるため、売却しないもしくは売却金額を使い込んでしまうなどのリスクがあります。また「換価分割で金銭を分配する」と遺産分割協議で合意したことによる一時的な単独名義のはずなのに、売却しないまま時間が経過すると、売却の代表者は他の相続人が保有する不動産の所有権持分を贈与されて単独名義になっていると見なされて、代表者に贈与税が課税されるリスクもあるのです。
 
したがって、単独名義で換価分割する場合には、できるだけ速やかに売却を完了させなければならない点にご注意ください。
 
<相続人全員の共有名義にする>
メリットは、誰を代表者にするかを話し合わずに暫定的に法定相続割合どおりに共同相続すれば済むため、代表者の選任で揉めることがない点です。
 
デメリットは、相続登記・媒介契約・売却活動・売買契約・所有権移転登記の全てに全相続人の協力が必要になる点です。スケジュール調整や事務処理が煩雑になり、途中で気持ちが変わって協力しない人が出ると手続きが止まるリスクがあります。
 

相続財産を換価分割する際の注意点(4)譲渡所得税が下がる特例を忘れずに適用する

 
不動産の売却益にかかる譲渡所得税は、次の特例を適用すれば節税できます。
 

(1)居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例
(2)マイホームを売ったときの軽減税率の特例
(3)被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
(4)相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
(5)相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 
なお(1)と(4)と(5)の特例は併用できますが、要件を満たすかどうかの自己判断はおすすめしません。必ず税理士や税務署に確認しながら手続きを進めるようにしましょう。
 

相続財産を換価分割する際の注意点(5)不動産が売れない場合の策も考えておく

 
不動産が売れない場合には換価分割になりません。また、遺産分割協議書に換価分割のために単独相続する旨の一文がある場合に、売却に時間がかかってしまうと相続税が課税されてしまいます。このような場合には、売却価格が相場よりも安くはなってしまいますが、迅速で確実に売却できる「不動産会社の買取」を選択肢に入れて検討するとよいでしょう。
 
もしも、相続税の申告および納税期限が迫ってきた場合には、いったん現状で申告および納税を済ませておくことが大切です。税金は一度申告した後でも修正や校正の申告ができるからです。また、納税期限をうっかり超過していた場合には、自主的に「期限後申告」をして無申告を避けることでペナルティーは軽減されます。
 
また、不動産が売れないため換価分割を辞めるなど遺産分割の内容を変更する場合には、遺産分割協議を再度行えば新しい内容が優先されます。ただし、再度全相続人への説明と協力要請が必要になるため、税理士や司法書士など専門家のサポートを受けて確実に手続きをとることをおすすめします。
 

換価分割を含む相続手続きの流れ

 
換価分割による相続手続きについて解説します。
 

換価分割を含む相続手続きの流れ(1)相続内容を確定させる

 
まずは相続内容を確定させるために、下記の手順で手続きを行います。
 
<遺言書を探す>
自筆証書遺言が見つかれば家庭裁判所で「検認」を受け、公正証書遺言が見つかればそのまま使用します。ただし、遺言書があっても遺産分割協議を行えば遺言書の内容と異なる相続割合に変えられるため、遺産分割協議を行って換価分割について合意しておきます。
 
<相続財産を調査する>
預貯金やその他の金融商品および不動産やその他の財産は、被相続人が持っていた書類、郵便物、電子メール、請求書や、領収書、証書などを探します。後から財産が見つかった場合にも遺産分割協議を再度行わなくて済むように、あらかじめ見つかったときの分配方法を定めておくとよいでしょう。
 
<相続人を確定する>
被相続人が死亡した戸籍から順に遡って生まれた時点までの連続した除籍などを取得し、子どもの存在を調査で確定させ、相続関係説明図(自由書式、相続登記で使用)を作成しておきます。
 
<遺産分割協議を行う>
相続人全員で遺産分割協議(一堂に会した会議を開かなくとも全員が書面上で合意すればよい)を行い、換価分割による相続について合意します。このとき「換価分割をスムーズに進めるために便宜上1人の相続人に登記する」という意向がある場合には、その意思を示すために遺産分割協議書にその旨を書き、期限内に確実に売却が完了するように準備します。
 

換価分割を含む相続手続きの流れ(2)相続登記を申請する

 
このときに単独相続にするのか共同相続にするのかは相続人が選択できますが、換価分割のためにいったん単独相続にする場合は、売却の完了が遅くなると贈与税が発生する可能性があるため注意が必要です。
 

換価分割を含む相続手続きの流れ(3)不動産を売却する

 
換価分割のために、下記の手順で不動産を売却して現金化します。
 
<売却査定を依頼する>
不動産会社へ売却査定を依頼する場合には、相続登記を完了させて所有者(査定依頼者)を明確にしておく必要があります。また、査定は面倒でも複数社に依頼しておき、査定内容の比較をするとともに担当者の対応を見ておくと、売却を依頼する不動産会社を選びやすくなります。
 
<媒介契約を締結する>
売却を依頼する不動産会社と媒介契約を締結してから売却活動をスタートします。このとき1社を専任窓口にするか複数社へ同時に依頼するかの選択ができますが、1社専任依頼と複数社同時依頼とで優劣はないため、状況に合った媒介契約を選べば問題ありません。また、後日媒介契約の内容を変更することも、売主と不動産会社とが合意すれば可能です。
 
<内見の対応をする>
相続人が遠方に住んでいるなら内見の対応は基本的に不動産会社に一任します。その際は、あらかじめ内見者が質問してくるであろうことを不動産会社に伝えておいて、所有者が現地にいなくても、内見者が不動産会社との問答で疑問を解決できるように準備しておくことが大切です。
 
<購入申込を受け条件を調整する>
購入希望者の申込を受け、購入希望金額や契約および引き渡し時期などの条件交渉があれば、条件を調整し、売買契約の日時を確定させます。売買契約へ向けて重要事項説明書や売買契約書などを作成するのは不動産会社であり、売主が何か書類を作成することは特にありません。
 
<売買契約を締結する>
不動産の売買契約は、原則として売主と買主が一堂に会して売買契約書に署名捺印をし、売主は買主から手付金を受け取り散会します。
 
<決済および引き渡しをする>
銀行で売買代金から手付金を差し引いた残金を買主から売主へ一括で支払い、売主は不動産の書類一式や鍵を引き渡して完了です。
 
<所有権移転登記を申請する>
残金決済と不動産の引き渡しが済むと、司法書士は管轄の法務局で売買による所有権移転登記を申請します。
 

換価分割を含む相続手続きの流れ(4)手元に残った現金を分配する

 
不動産を売却して経費などを差し引き手元に残った現金は、遺産分割協議書のとおりに各相続人へ分配すれば換価分割は完了です。
 

不動産・土地の遺産相続で換価分割がおすすめな5つのケース

 
不動産・土地の遺産相続で換価分割を選ぶべき判断基準を5つご紹介します。
 

不動産・土地の遺産相続で換価分割がおすすめなケース(1)誰も利用しない不動産がある場合

 
相続人が都会に住んでいて遠方にある将来使用する見込みのない不動産を相続する場合は、不動産の価値や需要がなくなる前に、相続を機に処分して現金化するほうがよい場合があります。
 

不動産・土地の遺産相続で換価分割がおすすめなケース(2)代償分割に必要な資金がない場合

 
単独で相続したい不動産がある場合に、自分がその不動産を相続する代わりに他の相続人へ不動産と同等の価値がある遺産を渡せば、分配する相続財産のバランスがとれます。しかし、そのような遺産がない場合には、他の相続人が本来受けるべき不動産の所有権持分を買い取る「代償分割」をすれば、単独で不動産を相続できるます。
 
ただし、自己資金や借り入れをしても代償分割の費用が捻出できない場合に、遺産分割協議で単独相続を認めてもらう合意や他の相続人の相続放棄の見込みもない場合、代替案として換価分割をする場合があります。
 

不動産・土地の遺産相続で換価分割がおすすめなケース(3)納税資金を借金で調達したくない場合

 
相続税は、相続開始から10ヶ月以内に税務署へ申告をして現金一括で納税しなければなりません。相続財産が高額であれば相続税も高額になりますが、納税資金が自己資金で足りないものの借金をして調達したくない場合には、不動産やその他の遺産を現金化して納税するケースは少なくありません。
 
換価分割は遺産の売却が前提であり、分配された現金は納税資金に充てられるため、借金をしたくない場合には換価分割がおすすめです。
 

不動産・土地の遺産相続で換価分割がおすすめなケース(4)維持管理が難しく自信がない場合

 
維持管理や運営が難しい種類の特殊な不動産を相続する予定がある場合には、相続を機に処分して現金化する場合があります。売却すれば不動産を失いますが、維持管理の手間や時間およびコストから解放されるため、維持管理していく自信がない場合には換価分割がおすすめです。
 

不動産・土地の遺産相続で換価分割がおすすめなケース(5)遺産分割で揉めごとが起こりそうな場合

 
相続財産のなかで人気が集中する財産がある場合や現物の分配では財産の価値に偏りができてしまう場合には、相続人間で相続財産の決定について揉めるケースが考えられます。事前にその気配を感じた場合には、換価分割によってできた現金を公平に分ければ揉めごとを未然に防ぐことができるでしょう。
 

不動産・土地を売却して現金化すれば公平な遺産分割になる

 
相続財産の種類は多岐にわたりますが、その全てがきれいに等分できるものではありません。特に不動産は物理的に分割ができないうえに、価値の評価方法や解釈が分かれやすい難しい財産といえます。そのため、不動産の相続で揉めごとに発展するケースは少なくありません。
 
換価分割は、不動産などの遺産を売却することによって現金化し、相続割合に応じてきれいに分配できるため、不公平感が出づらい遺産分割方法といえます。ただし、納税猶予期間の10ヶ月以内に不動産を現金化するためにはかなりのスピード感が必要になるため、不動産会社や司法書士および税理士などの専門家にサポートしてもらいながら、確実に進めるようにしましょう。
 

出典

国税庁 土地や建物を売ったとき
国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部

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