夫婦間相続より、親子間の2次相続が大変になる
配信日: 2018.11.01 更新日: 2019.05.17
そこで、相続税ゼロなら「まずは全額配偶者へ」と安易に考えてしまうと、その後に起こる子どもたちへの相続で、想像よりも多額の相続税を支払う破目になってしまいます。そのために、節税意識はしっかりと持ちたいものです。
配偶者への相続は特典が増える
父親がなくなり母親が相続するケースを例にとると、相続額の1億6千万円までの控除がある、婚姻期間が20年以上で現在の家に住み続ける「配偶者居住権」が認められる(2019年以降)、自宅は故人からの贈与により遺産分割の対象外にできる、などの特典があり、相続税はほとんどかかりません。
今回の配偶者保護に力点を置いた相続法の改正により「当面は相続税を払いたくない」という気持ちから、子どもへの相続は考えずに、取りあえず「すべて母親が相続!」と考える人がより増えると思います。しかし配偶者が全額相続することは、問題の先送りだけでなく、節税の観点でも問題があります。
通常、人が亡くなると法定相続の比率は、配偶者が5割、子どもが5割(人数に関係なく)となっています。仮に、金融資産がほとんどなく、住んでいる住宅と土地だけというケースでも、配偶者が全額相続すると、子が相続する(2次相続という)時点で、多くの場合、相続税が発生します。
法律の改正により2019年以降「配偶者居住権」が制定され、配偶者が今の家に住み続けることができます。家屋はともかく、土地一部でも子どもたちの名義に変更しておくと、その後の相続が楽になります。
親子間で合意が成立していれば、必ずしも法定分通りに分ける必要はありません。そのためには、多少の相続税を払っても、子どもは相続に加わるべきです。
無税を根拠に配偶者が全額相続をしない
配偶者の相続には、税法上も特典が与えられています。多くの相続財産があっても、相続税はかかりません。それを優先的に実行すると、子どもへの相続時に多額の相続税が発生する危険があります。今回の相続税法の改正で、この危険は高まったと思います。子どもは多少の相続税を支払っても、土地などの一部を相続することが大切です。
例えば、1億6千万円の遺産を、配偶者1人で相続したとします。この時点で相続税を支払う必要はありません。しかし子どもたちが相続する2次相続になると、相続税の控除額は子ども1人では3600万円、2人で4200万円、3人でも4800万円分だけしかありません。
相続税の課税対象額は、こども3人の場合でも1億円以上になり、少なくとも1千万円を優に超える相続税の支払い義務が生まれます。子ども1人では、さらに苦労します。
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小規模宅地の評価減の特例を活用
これは相続の際には大きな援軍となる制度です。一定限度内の土地であれば、配偶者または同居する子が相続する場合は、相続税が80%減額される制度です。この場合、対象となる土地面積は330平方メートル以下で、子の場合は同居が条件で、他に自宅となる不動産を所有している場合は適用されません。
形だけの同居も適用外となります。過去の親の自宅を所有していた、関係のある法人の名義に変更した自宅がある、といったことも適用外です。以前に比べると、適用要件が厳しくなっています。
子どもが何人かいる場合、1人が他に家を持たず親と同居していれば、この要件を満たすことができます。配偶者がすべて相続するのではなく、同居をしている子どもが一定割合でも相続することで、2次相続を楽にすることができます。
仮に8000万円の評価額の土地を相続しても、この特例を適用した財産評価額は20%分の1600万円ですから、その分の相続税を納めるだけで済みます。評価額6400万円分の土地を、課税されることなく相続できます。
居住権と所有権との使い分け
相続時の「配偶者居住権」は、早ければ2019年から運用が開始されます。制度として認められたため、配偶者は極めて有利な扱いを受けます。土地や家屋をすべて相続することも可能です。しかし、先に述べたように2次相続となった時点で、子どもたちに対して相続税がかかってきます。
そのため居住権を認知したうえで、所有権については、すべてではないにせよ子どもたちも相続するのが賢明です。土地の所有権とは関係なく、配偶者は継続して居住できるからです。
親子間で争いになっても、親の居住権は保障されますので、土地を所有していなくても、生涯住み続けることができます。その上で多少の金融資産も相続するのがベストです。居住権イコール所有権とは考えずに、両方を分離して考えれば、将来支払う可能性の高い相続税を少しでも軽減できます。できれば、子どもたちは、法定相続分以上を相続することもできます。
公平になるような遺産配分を
相続に関して忘れてはならないのが、配分方法をなるべく法定相続額に近づけ、相続後に問題が起こらないようにすることです。具体的には、子どもの1人だけが小規模宅地の特例を活用して財産を取得したとします。
実際は相続税額の5倍のものを得ているわけですから、他の資産を主として相続した子どもより、多くの財産を得たことになります。相続資産額が少なかった人から、将来的に不満が出てくることも十分に考えられます。
このようなケースでは、他の子どもが金融資産など他の相続額を増やす、安い価格で土地を相続した子どもが、恩典を受けない子どもへ金銭的な補償をする、などの手段を講じることで、相続財産額が不公平にならないよう調整する必要があります。
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト