更新日: 2024.04.22 その他相続

【2023年に法改正】土地を相続放棄する手順や注意点、相続できないケースも解説

執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部

【2023年に法改正】土地を相続放棄する手順や注意点、相続できないケースも解説
田舎に住む親が山林や田畑を持っているが、相続ではどうすればよいだろうと、相続に不安を抱える方は少なくありません。
 
「相続」は不要な財産だけを相続放棄することはできません。とはいえ、活用や処分が難しい土地を相続しても、単に土地の管理にかかる「時間・コスト・労力」が増えるだけかも知れません。また、固定資産税を払い続ける義務を自分の子ども世代へと引き継がせてしまう可能性もあります。
 
このような場合には、土地の相続放棄制度もしくは法改正によって生まれた「相続土地の国庫帰属制度」を検討してみましょう。
 
この記事では、土地の相続や相続放棄制度の概要を紹介し、相続放棄手続きの方法や流れ、メリット・デメリット、相続土地の国庫帰属制度について解説しています。
FINANCIAL FIELD編集部

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土地だけの相続放棄はできない?

 
遺産相続では原則として、「価値がある遺産だけをもらって価値のない遺産は相続放棄する」ことはできません。マイナス財産だけを相続放棄できるなら、全ての相続人が世代交代の際に借金だけを帳消しにできてしまい、債権者だけが損害を被ることになるからです。
 
つまり、遺産相続は自分の都合だけを優先することはできないのです。
 
例えば、Aさんの親が亡くなり田舎の実家付近の荒れた田畑がある場合に、その田畑を活用する予定も意思もなく管理するのが面倒であれば、相続したくないと思うのも無理はありません。しかし、預貯金や株式だけ相続して荒れ果てた田畑は相続放棄するという選択はできません。この場合には、次のいずれかを選択することになります。
 

・預貯金や株式と同様に、田畑も相続する
・遺産分割協議で「Aは田畑を相続しない」と全ての相続人から同意をもらう
・一切の遺産を相続放棄して、始めから相続人ではなかった状態にする

 
相続放棄を行うと最初から相続人ではなかったと見なされるため、借金や支払義務などのマイナスの財産を引き継がなくて済む反面、プラスの財産も引き継ぐことができなくなります。
 
次に、通常の相続および、相続放棄制度の基本的な概要について解説します。
 

2つの遺産相続の方法

 
相続とは、亡くなった故人(被相続人)が生前に持っていたプラスの財産(預貯金や不動産その他の資産)とマイナスの財産を引き継ぐことです。
 
相続方法は、被相続人が残した遺言書があればそれにしたがって、遺言書がなければ原則として法定相続割合に応じて分配します。なお、法定相続や遺言書とは異なる割合で相続したい場合には、遺産分割協議で全ての相続人が合意すれば合意結果に沿った内容で遺産を分配できます。
 
遺産を相続する者は次の順位のとおりであり、相続に関する意思表示をするのもその順番です。
 

配偶者 :常に相続人になる

第1順位:被相続人の子ども
第2順位:被相続人の両親
第3順位:被相続人の兄弟姉妹

 
もしも、遺産を相続すると決めた場合には、次の2つのいずれかを選択します。
 

・単純承認
・限定承認

 
それぞれについて解説します。
 
<単純承認>
単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も、全て相続人のあいだで分配する方法です。相続が発生して、そのまま相続の手続きに入った場合には、相続方法に単純承認を選択したことになります。なお、一般的には次の限定承認よりも単純承認を選ぶほうが多いといえます。
 
<限定承認>
限定承認の相続は、プラスの財産の金額を最大限度としてマイナスの財産も相続し、借金を背負わなくてもよい(相殺してマイナスにならない)ようにする方法です。財産する遺産が最悪でも±0で済み、借金だけを背負うということがなくなります。
 
全ての遺産が把握できていない場合や、マイナスの財産が多そうな場合に選択する相続方法です。なお、限定承認を選んだ場合には、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、相続人の全員が協力して家庭裁判所での手続きをしなければなりません。
 

相続放棄とは?

 
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという意思表示で、認められれば相続開始時点から相続人ではなかったものとして扱われます。
 
相続放棄の手続きは、自分に遺産の相続があることを知ったとき(多くの場合は相続発生時点)から3ヶ月(熟慮期間という)以内に、相続放棄をする者が単独で家庭裁判所へ手続きを行います。
 
マイナスの財産を嫌って相続放棄を行い相続人でなくなった者が、その後に大きな遺産が発見されたと知っても相続放棄を撤回することはできません。そのため、3ヶ月の熟慮期間内に徹底的な遺産調査を行わなければ後悔することになります。
 
また、始めから相続人でなくなることでその他の相続人への遺産分配割合が変化し、場合によっては他の相続人が負担するマイナスの財産(借金)が増加する恐れがあります。
 
また、相続放棄によってその順位の相続人がいなくなった場合には、次順位の推定相続人が正式な相続人として繰り上がるため、それによる影響も考慮しなければなりません。例えば、相続人が妻と子どもの合計2人だった場合に、子どもが相続放棄すればその順位の相続人がいなくなって、次順位である被相続人の両親が新たな相続人に繰り上がります。
 
相続放棄を行った結果、義理の親子間で遺産相続について協議しなければいけない場合もあるのです。
 

土地の相続放棄ができないケースと対処法

 
土地の相続放棄は相続人全員の協力がなくても、相続放棄したい者が単独で行えます。しかし、相続放棄ができないケースもあるため、相続放棄ができない3つのケースについて解説します。
 

土地の相続放棄ができないケース1:見なし単純承認により相続放棄できなくなった

 
単純承認とは、相続するとの意思表示をしていなくても行動によって相続意思があると見なされる次のような場合を指します。ただし、最終判断は家庭裁判所の個別の判断に委ねられ、次の状況でも単純承認にならない場合もあります。
 

・相続財産を勝手に消費する
・相続財産で被相続人の債務を支払う
・被相続人の遺品を持ち帰る
・被相続人への未支給年金を受け取る
・被相続人の契約を解除する

 
それぞれについて解説します。
 
<相続財産を勝手に消費する>
相続財産を勝手に使用する行為が、すでに遺産を受け取って消費しているのと同じであると見なされると、相続放棄はできなくなります。
 
ただし、葬儀費用(通夜、告別式、火葬)の一式で100万円以上のお金をすぐに用意しなければならない場合があります。これについては「預貯金の仮払い制度」が新設されたことで、遺産分割前でも、被相続人の預貯金を葬儀費用のために単独の相続人が引き出すことができるようになりました。
 
<相続財産で被相続人の債務を返済する>
被相続人の債務(借金や支払義務)の支払を適切に行う目的だとはいえ、相続財産を勝手に持ち出して支払に充てる行為は、相続財産の一部の処分にあたります。ただし、相続財産からではなく相続人自身のお金を使って支払った場合には、みなし単純承認には該当しません。
 
<被相続人の遺品を持ち帰る>
遺品を勝手に持ち帰ると、相続財産の「隠匿」といわれる財産隠しであると判断され、みなし単純承認になる可能性があります。ただし、被相続人との思い出の品を譲り受けるなど「形見分け」は例外です。形見分けかどうかの判断基準に「財産的価値の大きさ」があり、宝石や毛皮や高級バッグなどの高価なものは形見分けとはいいがたいでしょう。
 
<被相続人への未支給年金を受け取る>
年金は後払いであり、被相続人が亡くなったあとに年金が支給されることはよくあります。通常は、被相続人が亡くなったあとの支給は、年金機構は受給者の口座へ振り込まずに「未支給年金」を相続人へ支給します。この未支給年金は相続財産ではなく、相続人固有の権利であるとの判断があるため、相続人が受給しても見なし単純承認にはあたりません。
 
ただし、受給できる相続人は「被相続人と2親等までの関係で、死亡当時に生計が同一だった者」に限られる点に注意しましょう。
 
<被相続人の契約を解除する>
被相続人が生前に締結していた契約の解約は、その契約解約により何かしらの権利を失う場合、財産の処分にあたる可能性があります。生前に住んでいた賃貸住宅を解約する行為は、一見して賃借権や居住権を失う処分に見えますが、実体が保存行為と見なされるなら処分にはあたらないと判断する場合もあります。
 
前述した5つのシチュエーションのように、相続放棄ができない要因を行動だけで分けるのではなく、そこに至る状況や得られる効果などの実体によって判断されると理解すべきです。そのため、単純承認のような行為をしてしまった場合でも、相続放棄ができる余地が残されている場合があります。
 
相続放棄の意思があるなら、自己判断で諦めずに司法書士や弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
 

土地の相続放棄ができないケース2:相続放棄の熟慮期間を経過してしまった

 
相続放棄は、熟慮期間(自己の相続を知ってから3ヶ月)内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなかった、もしくは限定承認の手続きを行った場合には、相続放棄の権利がなくなります。
 
なお、熟慮期間内に「単純承認、限定承認、相続放棄」のいずれを選択すべきか結論が出せそうにない場合は「相続の承認または放棄の期間の伸長の手続き」を家庭裁判所へ行うことができます。ただし、この伸長手続きも熟慮期間内に申し出る必要があるため期間には注意が必要です。
 
残り日数が少ないなかで確実に伸長手続きを行う場合は、専門家に依頼するほうがよいでしょう。
 

土地の相続放棄ができないケース3:他の相続人に対して故意に遺産を隠した

 
遺産を故意に隠す「隠匿」行為は、被相続人に対する債権(支払を求める権利)を持つ債権者への裏切り行為とされています。隠匿行為を行うと、単純承認したものと見なされてしまい、相続放棄ができなくなるので注意しましょう。
 

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土地を相続放棄したほうがよいケース

 
土地を相続放棄するかどうかは、相続放棄のメリットとデメリットおよび影響を考慮して判断しなくてはなりません。
 
土地を相続放棄したほうがよいのは、次のような場合です。
 

・土地を適切に管理できない
・土地を活用する見込みがない
・その土地に特段の思い入れがない
・被相続人に多額の借金があるのを知っている
・他の相続人と遺産について話し合いたくない

 
それぞれについて解説します。
 

土地を相続放棄したほうがよいケース1.土地を適切に管理できない

田舎の土地は放っておくと草木が茂って動物が居つき、不衛生です。古家が建っている土地なら建物が荒廃して崩れていきます。土地を所有しているあいだは、近隣トラブルになるリスクや建物を解体する義務が常にあり、土地を使用していないからといって固定資産税が免除されることはありません。
 
もしも、今の住まいがその土地から遠くて管理が難しい場合には、相続放棄するほうがよい場合があります。
 

土地を相続放棄したほうがよいケース2.土地を活用する見込みがない

自分でマイホームを購入して暮らし、それ以外の不動産を保有する必要がない場合があります。また、不動産は欲しいものの相続する土地の場所が遠すぎて活用するに値しない場合もあります。
 
この先も活用する見込みがないなら、相続放棄するか相続人全員の同意で売却してしまうほうがよいかもしれません。
 

土地を相続放棄したほうがよいケース3.その土地に特段の思い入れがない

特に思い入れがなく価値が見いだせない土地なら、無理に相続するとかえって義務ばかりが増えて不満に感じます。その土地を疎ましく思う可能性があるなら、早い段階で見切りを付けたほうがよい場合があります。
 

土地を相続放棄したほうがよいケース4.被相続人に多額の借金があるのを知っている

被相続人が生前に多額の借金を負っていて、相続財産がマイナスになることを知っている場合には、相続放棄がよい場合があります。実質的に借金を背負うための相続になることが明白なら、むしろ相続放棄を選択すべきでしょう。
 

土地を相続放棄したほうがよいケース5.他の相続人と遺産について話し合いたくない

遺産に特段の関心がなく、他の相続人と遺産分割について話し合いたくない場合には、相続放棄がよい選択肢になります。普段から他の相続人と折り合いが悪い、もしくは強く主張してくる相続人の心当たりがある場合には、相続人をやめ、遺産分割協議をしなくて済むように相続放棄の検討もしておきましょう。
 

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相続放棄手続きの流れ

 
相続登記手続きの流れは次のとおりです。
 

(1)被相続人の遺産を調査する
(2)相続放棄に必要な書類を揃える
(3)相続放棄の手続き費用を用意する
(4)相続放棄申述書を作成する
(5)相続放棄申述書を提出する
(6)相続放棄の証明書を受け取る

 
それぞれについて解説します。
 

相続放棄手続きの流れ(1)被相続人の遺産を調査する

まずは、相続放棄をすべきか判断するために遺産の調査を行います。相続放棄を申請すると撤回ができないため、慎重で正確な遺産調査が肝心です。遺産を見つけ損ねることがないように、司法書士や弁護士などの専門家に依頼する方法もあります。
 

相続放棄手続きの流れ(2)相続放棄に必要な書類を揃える

相続放棄を決めたら、手続きに必要な書類を集めます。相続放棄必要書類は、誰が申述するかに応じて若干異なります。
 

<申述の基本書類>

・相続放棄の申述書
・被相続人の住民票の除票もしくは戸籍の附票
・申述人の戸籍謄本

 
前述の書類の他に、申述人によって次のように書類が加わります。
 

<申述人が配偶者>

・被相続人の死亡が記載された戸籍(除籍)

 

<申述人が子または孫>

・被相続人の死亡が記載された戸籍(除籍)
・被代襲者(配偶者または子)の死亡が記載された戸籍(除籍)

 

<申述人が親もしくは祖父母>

・被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)
・配偶者(または子)の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)
・被相続人の親の死亡が記載された戸籍(除籍)

 

<申述人が兄弟姉妹または甥・姪>

・被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)
・配偶者(または子)の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)
・被相続人の親の死亡が記載された戸籍(除籍)
・兄弟姉妹の死亡が記載された戸籍(除籍)※ただし、死亡している場合

 

相続放棄手続きの流れ(3)相続放棄の手続き費用を用意する

次のとおり、相続放棄の手続きの実費を用意します。集める戸籍などの通数によって金額が変動します。
 

相続放棄の申述:収入印紙代800円分
戸籍謄本の入手:1通ごと450~750円
書類の郵送切手:裁判所によって変動

 

相続放棄手続きの流れ(4)相続放棄申述書を作成する

相続放棄申述書のひな形を、裁判所のホームページから入手して、必要事項を記載して作成します。ひな形は、申述者が成年もしくは未成年によって記載内容が異なるためご注意ください。次の図表1、2は成年用です。
 
図表1


 
図表2

 
※裁判所 相続放棄申述書(成年用)より引用
 
ご覧のとおり、相続放棄申述書は住所・氏名および理由などの記載だけであり、特に難しくはありません。
 

相続放棄手続きの流れ(5)相続放棄申述書を提出する

作成した相続放棄申述書を、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。提出方法は、家庭裁判所の窓口で直接手渡すか、家庭裁判所の担当部署へ宛てて郵便します。
 
なお、管轄裁判所を探すには「裁判所の管轄区域」という裁判所のサイトをご覧ください。
 

相続放棄手続きの流れ(6)相続放棄の証明書を受け取る

相続放棄の申述書を提出してから約2週間経つと、裁判所から「照会書」が届きます。照会書にある質問に回答し、署名捺印後すみやかに家庭裁判所へ返送しましょう。
 
照会書の内容に問題がなければ、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これで相続放棄の手続きは完了です。なお、相続放棄受理後に交付される「相続放棄申述受理証明書」は、その後の不動産の相続登記などで使用するため無くさないように保管しましょう。
 

土地の相続放棄手続きにかかる費用

 
土地の相続放棄手続き費用を、自分で行う場合と専門家に依頼する場合について解説します。
 

自分で相続放棄手続きを行う場合

 
相続放棄手続きの実費は集める戸籍などの通数によって金額が変動します。実費総額は3000~5000円を目安にするとよいでしょう。
 

相続放棄の申述:収入印紙代800円分
戸籍謄本の入手:1通ごと450~750円
書類の郵送切手:裁判所によって変動

 

司法書士や弁護士に相続放棄手続きを依頼する場合

 
相続放棄の手続きを司法書士に依頼する場合の費用相場は3~5万円、弁護士の場合は5~10万円です。弁護士は相続放棄申述の代理人になれるだけでなく、相続争いなどの揉めごとの仲裁まで依頼できるため、手続きを一任したい場合や相続人同士が揉めそうな場合には、弁護士に依頼するのがよいでしょう。
 
なお、上記報酬に加えて収入印紙、戸籍、郵便切手などの申述の実費がかかります。
 

相続放棄を専門家に依頼する手順

 
相続放棄の手続きを依頼する専門家は、司法書士か弁護士が一般的です。
 
いずれの専門家も始めは相続人の状況の聞き取りや相談から行います。そして、相続人の確定や被相続人の遺産調査の結果が出たあとは、相続放棄をするかどうかを決めます。相続放棄をするなら、次は必要書類を集めて相続放棄申述書の作成です。
 
なお、司法書士と弁護士ではその役割が次のように異なります。
 

相続放棄を依頼できる専門家1:司法書士

相続放棄の相談から相続放棄申述書の作成を代行するものの、申述手続きの代理や相続人同士の揉めごとの仲裁はできません。申述書が完成したあとは自分で家庭裁判所へ申述して、手続きの完了までの対応も自分で行います。
 
司法書士は、揉めごとがなくサポートだけでよい場合に依頼するとよいでしょう。
 

相続放棄を依頼できる専門家1:弁護士

相続放棄手続きの全てを代理人として一任できます。申述書が完成したあとも、弁護士は相続人の代理人として、家庭裁判所への申述や途中の対応も全て一任できます。
 
弁護士はさらに、揉めごとの仲裁や訴訟代理ができるため、トータルで任せられて万一の場合も全て対処してほしい場合に依頼するとよいでしょう。
 

土地を相続放棄するメリット

 
土地を相続放棄するメリットは次のとおりです。
 

・土地の面倒な管理から解放される
・被相続人の借金を背負わずに済む
・遺産分割協議への参加が不要となる
・固定資産税の支払をしなくて済む

 
それぞれについて解説します。
 

土地を相続放棄するメリット1:土地の面倒な管理から解放される

土地が遠方にある場合は定期的に見に行くだけでも時間・お金・労力がかかります。例えば、遠方へ2ヶ月に1回の定期巡回で草刈りなどをする場合には、土地の管理にかかる時間・お金・労力は決して小さいとはいえません。
 

土地を相続放棄するメリット2:被相続人の借金を背負わずに済む

土地を相続放棄するということは、全ての相続財産を放棄するということです。遺産は何も得られませんが、マイナスの財産(借金や支払義務)を相続する可能性がゼロになるため、気分的な安心感は得られます。
 

土地を相続放棄するメリット3:遺産分割協議への参加が不要となる

仲のよくない相続人を相手に遺産を取り合うような分割協議に参加したくない場合があるかも知れません。相続放棄をすれば始めから相続人ではなくなり、遺産分割協議にも参加しなくて済みます。
 

土地を相続放棄するメリット4:固定資産税の支払をしなくて済む

土地を所有すると、今使用しているか否かにかかわらず延々と固定資産税を支払い続けなければなりません。また、バブル崩壊から下落して底値の土地価格が今後上昇し始めれば、固定資産税も上昇していくでしょう。利用しない土地なら相続しないという選択は、無駄を省くために必要な場合があります。
 

土地を相続放棄するデメリット

 
土地を相続放棄するデメリットは次のとおりです。
 

・他の遺産も相続できなくなる
・相続人メンバーや相続割合が変わる場合がある
・土地の相続人決定までは土地の管理義務が残る

 
それぞれについて解説します。
 

土地を相続放棄するデメリット1:他の遺産も相続できなくなる

欲しい遺産だけ相続することはできず、全ての遺産の相続を諦めて何も引き継がないのが相続放棄です。思い入れのある実家や、利用価値が高い預貯金や金融資産も、相続放棄によって相続できなくなるのです。
 

土地を相続放棄するデメリット2:相続人メンバーや相続割合が変わる場合がある

自分が相続することでその順位の相続人がいなくなると、次順位の相続予定者が正式な相続人として繰り上がります。もしも、ほとんど面識もない遠い間柄の複数の相続人が増えると、既存の相続人の遺産分割協議の労力や、全員から合意を取りつける難易度が上がる可能性があるのです。
 
また、自分が受けるはずだった借金などのマイナスの財産は他の誰かが相続するため、借金の負担が増える相続人が出てきます。したがって、相続放棄をする場合には、他の相続人へひと言通知すると、思わぬトラブルを防ぐことができます。
 

土地を相続放棄するデメリット3:土地の相続人決定までは土地の管理義務が残る

土地の相続放棄をすると土地を管理する必要はなくなります。ただし、その放棄した土地を占有している場合に限っては、次の相続人もしくは相続財産清算人が決定するまでは管理義務が続く点に注意が必要です。
 

2023年に施行された「相続土地の国庫帰属制度」とは?

 
所有者のいない不動産は国庫に帰属します。この場合の国庫とは国が管理する財産のことであり、相続する人が誰もいないなら、その土地は国のものになります。ただし、生前に不要な土地を国の所有にする方法はこれまではありませんでした。
 
2023年4月27日からはじまった「相続土地国庫帰属制度」は、一定要件を満たす土地は所有権を放棄して国のものにできる制度です。ここでいう土地とは相続したものに限り、売買や贈与で入手した土地は含みませんが、制度開始以前の相続で入手した土地は含まれます。
 
制度への申請は共有者全員で行いますが、土地が国庫に入るかどうかは法務大臣(法務局)が要件を審査して承認しなくてはなりません。放棄の申請ができない土地は次のとおりです。
 

・建物が建っている
・担保に入っているもしくは賃貸されている
・他人が使用することが決まっている
・すでに公共の用途になっている(墓地、寺の境内、通路や水路など)
・土壌汚染があるもしくはその可能性が高い
・隣地との境界が確定していない
・所有権で争っている

 
また、承認されないことが明らかな土地は次のとおりです。
 

・勾配や落差があって管理に多大な労力がかかる
・管理や処分を邪魔する物体が地表もしくは地中にある
・隣地との争いが解決しなければ処分できない

 
つまり、おおむね平坦で地中に何もなく、境界がはっきり分かっている状態でなければならないため、放棄したい不要な土地のなかで制度の対象になる土地はそれほど多くないのが現状です。そのため、申請前に法務局で相談するとよいでしょう。
 
また、法務大臣の承認が得られた場合に、10年分の負担金(土地管理費用のこと、目安は面積を問わず約20万円)を納めます。なお、国への所有権移転登記は国が職権で行います。
 
申請費用(審査手数料)は、土地1筆につき1万4000円の収入印紙が必要で、不承認でも審査手数料は返還されません。1枚の土地に見えても4つの土地が集まったものなら5万6000円の印紙代がかかります。
 
制度活用手順は次のとおりです。
 

(1)相続土地国庫帰属制度を法務局へ申請
(2)法務局が関係官庁と連携して調査および審査
(3)審査承認なら国庫に帰属

 
相続土地国庫帰属制度はまだ新しく承認事例が少ないため、審査承認が下りる状況の見極めや土地条件の改善などは専門家に任せるべきでしょう。
 

土地の相続放棄についてよくある質問

 

Q.利用価値や市場価値がない土地だけ放棄できますか?

A.
遺産は相続するか相続放棄するかしか選べません。つまり、借金だけを相続放棄して預貯金や不動産やその他の価値ある財産は相続するということはできません。
 

Q.相続放棄ができない人はいますか?

A.
遺産の一部を消費するなどで単純承認に該当すると相続放棄の権利を失います。
相続開始後3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄手続きをしなかった場合や、欠格相続人(遺書の破棄や被相続人の殺害をした者)にも相続放棄は認められません。
 

Q.家庭裁判所への相続放棄の手続きは自分でもできますか?

A.
自分で「相続放棄申述書」を記載することができます。費用は実費のみで3000~5000円です。
ただし、故人の財産調査や他の相続人への説明を自分で行い、3ヶ月の熟慮期間内に間違いなく確実に手続きを完了させるには専門知識や経験が必要です。忙しいなかで周辺知識を付けて3ヶ月間のあいだに自力で行うのは困難といわざるを得ません。お金がかかっても専門家に依頼するのが安心でしょう。
 

土地の相続放棄は他の親族への影響を十分考慮して決めよう

 
土地の相続放棄は、他の相続人の同意や手続きの協力は不要で、自分の意思だけで行えます。家庭裁判所の手続きは実費3000~5000円で自力でできますが、手続き期間が3ヶ月と短期間です。遺産調査や手続きを安全で確実に終わらせるためには、専門家に依頼するほうがよい場合があります。
 
相続放棄は、自分が遺産相続できなくなるだけではなく、新たな相続人が増えたり他の相続人の借金の負担が増えたりする場合があります。そのため、事前に相続放棄による影響を確認して、既存の相続人が対応しやすいように「自分がこれから相続放棄をする」という通知をしてあげるとよいでしょう。

 

出典

裁判所 相続放棄申述書
裁判所 裁判所の管轄区域
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部

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