配偶者の相続が大幅に優遇される「配偶者居住権」とはナニ?
配信日: 2019.01.23 更新日: 2019.07.03
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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なぜ、「配偶者居住権」が創設されたのか?
日本の平均寿命は、女性87.26歳、男性81.09歳です(平成29年簡易生命表)。亡くなった方の配偶者の多くは高齢です。高齢の配偶者としては、相続開始後も住み慣れた自宅に住み、一定の生活資金も確保したいと思うでしょう。
例えば、相続人が妻と子のケースで、遺産が自宅(2,000万円)及び預貯金(3,000万円)だった場合を考えてみましょう。このケースで子どもが法定相続分の相続を主張すると、子どもに2,500万円渡さなければなりません。
預貯金が3,000万円あるので、妻に自宅(2,000万円)と預貯金500万円、子どもに預貯金2,500万円を渡すことができます。妻は住み慣れた自宅に住み続けることができますが、生活費が不足しそうで不安でしょう。
しかも、預貯金が少なければ、妻は自宅を売却して現金を用意しなければならない場合もあります。これでは、住む場所を失ってしまいます。
そこで、改正法では、自宅の権利を「配偶者居住権」と「負担付所有権」に分け、妻が「配偶者居住権」を相続することによって、自宅に継続して住むことができ、さらに、一定の生活資金も確保できるようにしました。
上記のケースで、「配偶者居住権」の評価額を1,000万円とすると、妻は、「配偶者居住権」1,000万円と預貯金1,500万円、子どもは負担付所有権1,000万円と預貯金1,500万円を相続することになります。これで、妻は安心して暮らせるでしょう。
「配偶者居住権」の取得方法や効力
「配偶者居住権」の取得方法は、「遺産の分割によって取得する方法」「遺贈の目的とする方法」「遺産分割の審判により取得させる方法」があります。「配偶者居住権」の存続期間は、遺言などによる別段の定めがなければ、配偶者の終身の間となります。
「配偶者居住権」を得た配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物を使用及び収益しなければなりません。「配偶者居住権」を第三者に譲渡できないので、例えば、自宅を売却して介護施設の入所資金を捻出すること等はできません。
所有者は、「配偶者居住権」の設定の登記を備えさせる義務を負います。「配偶者居住権」を登記したときには、建物について所有権などを取得した者に対抗(主張)することができます。また、登記を備えると第三者に対し妨害排除請求等をすることができます。その他、必要費及び有益費の負担や自宅の修繕等についても規定があります。
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「配偶者居住権」の消滅
「配偶者居住権」は、存続期間の満了、配偶者の死亡、用法順守義務違反等により消滅します。消滅した場合には、原則として、自宅を返還して、相続開始後に自宅に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた損耗ならびに経年変化を除く)を原状に復する義務を負います。
「配偶者短期居住権」とは?
最後に、「配偶者短期居住権」について簡単に触れます。配偶者は、相続開始時に被相続人の居住建物に無償で住んでいた場合には、一定の期間、居住建物を無償で使用できます。「配偶者居住権」と違い、登記できません。
一定の期間とは、(1)配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住用建物の帰属が確定する日までの間(ただし、最低6か月間は保障)(2)居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄した場合には居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6ヵ月、をいいます。
「配偶者短期居住権」の創設によって、第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合や、被相続人が反対の意思表示をした場合であっても、配偶者の居住を最低6か月間は保護できます。
「配偶者居住権」「配偶者短期居住権」について詳しく知りたい方は、法務省HPにある「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の概要」を参考にしてください。なお、改正法の施行日は2019年1月1日から段階的に施行されます。「配偶者居住権」及び「配偶者短期居住権」の新設等の施行日は2020年4月1日です。
参照
法務省HP「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の概要」
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー