父に続き母も他界。遺言書に「遺産1200万円はすべて長男に」と書かれていたけれど、ほかの兄弟にもいくらか払う必要はある? 3人兄弟の「長男」のケースを解説
配信日: 2024.11.12
親が遺言書を残していれば、遺族間で揉めることもないと考えがちですが、実は遺言書どおりに遺産を相続できない場合もあり、トラブルに発展するケースがあります。
本記事では、遺言書どおりに遺産を分割できないケースやその理由を解説します。1200万円の遺産全額を遺言書により受け取った3人兄弟の長男を例に挙げながら紹介しますので、参考にしてください。
執筆者:松尾知真(まつお かずま)
FP2級
遺言書どおりに遺産を相続できないケースとは?
相続財産の分割について、故人の意思が示されている遺言書が作成されていれば、遺族は原則として遺言書に従わなければなりません。しかし、有効な遺言書であっても、場合によっては、それ以上に優先される相続人の権利があります。それが「遺留分」と呼ばれる権利です。
遺留分は相続人の最低限の権利として保証されており、遺言書の内容が相続人の遺留分を下回っていれば、相続人は遺留分を侵害しているほかの相続人に対し、遺留分を請求できます。
ほかにも遺言書と異なる遺産分割の手法に「遺産分割協議書」の作成がありますが、遺産分割協議書が相続人全員の合意で成立するのに対し、遺留分は相続人単独で請求可能です。
一見、故人の意向である遺言書を優先していいように感じますが、故人に近い遺族の立場に立てば、必ずしもそうではありません。例えば、もし遺言書が「友人に全て相続する」といった内容なら、故人の配偶者や子どもは到底納得できないかもしれません。そのため、遺留分は故人と関係が近い遺族に対してのみ、最低限の権利として保証されているのです。
遺留分は誰がどれくらい請求できる
遺留分の請求について、具体的にどの相続人がどういった割合で請求できるのでしょうか? まず、遺留分が保証されているのは、相続人の中でも「配偶者、子ども、直系尊属(父母など)」に限定され、兄弟姉妹には権利がありません。
また、請求可能な遺留分は、故人の配偶者や子どもであれば法定相続分の2分の1、両親など直系尊属のみであれば法定相続分の3分の1です。法定相続分とは、相続人が複数存在する場合の相続の割合を示したもので、民法で定められており、遺言書がない場合などは遺産分割の基準となります。
そこで相続人のパターンから法定相続分と遺留分、さらには1200万円の相続財産に対し、遺留分として請求可能な相続財産を示したものが図表1です。
図表1
政府広報オンライン 知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】より筆者作成
今回のように子どもが3兄弟であれば、それぞれの法定相続分が3分の1、遺留分は6分の1となるため、200万円が兄弟各人の遺留分となります。故人の意向とは違う配分に違和感があるかもしれませんが、故人に関係の深い相続人には最低限の権利があると認識しなければなりません。
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遺留分を請求された場合はどうすればいいか?
ほかの相続人の遺留分も含めて相続を受けていた場合、遺留分の侵害として正当な請求を受けると、その支払いは拒否できません。遺留分の請求が過大になっていないか、あるいは権利がある人からの請求なのかなどには注意が必要ですが、そもそも遺留分は法律上認められた相続人の権利です。
現金が手元にないなどやむを得ない事情があれば、裁判所に支払い時期の猶予などを求めることは可能です。しかし、遺留分の請求を無視するような行為は、故人に近い遺族間の大きなトラブルに発展しかねません。可能であれば、遺留分の請求に至る前の段階で、遺族間でコミュニケーションを図ることも大切です。
まとめ
遺言書が残されていたとしても、その内容が相続人の遺留分を侵害していれば、遺産の分割にあたっては遺留分が優先されます。本来は、故人の生前に遺産の取り扱いを親族間で共有できれば望ましいですが、現実には難しいことが多いでしょう。
親族間にもさまざまな事情があり、一概にどのような対応がいいとは言えませんが、できればトラブルは避けたいものです。そのため、遺留分を主張する相続人がいる場合は、正当な遺留分の請求は拒めないことも念頭において、遺族間で冷静に話し合ってみてはいかがでしょうか。
出典
政府広報オンライン 知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】
e-Gov法令検索 民法
執筆者:松尾知真
FP2級