“おひとりさま”の私に万一のことが起きたとき、愛犬に「お金を遺す方法」はありますか?
配信日: 2025.01.22
残念ながら、「法律上」は、ペットは物なのでペットに財産を残すことはできません。もしものときペットの世話を誰に頼むのか早めに対策を考えておきましょう。この記事では、「負担付贈与」「負担付死因贈与」「信託の活用」について紹介します。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
負担付遺贈とは
ペットのための負担付遺贈とは、ペットの世話などを条件に遺言によって財産を無償で与えるものです(民法1002条) 。受遺者にはペットの世話の義務を課すことになりますので、遺贈を拒否されないように、生前に相手とよく話し合って承諾を得ておくことが重要です。
法律で、受遺者の責任の範囲は、遺贈される目的物の価格を超えない限度とされています。ペットフード代、病院代、トリミング代など飼育に毎月いくら必要かを調べ、ペットの平均余命を参考にペットが亡くなるまでにいくら必要かを見積もり、十分な世話をしてもらえる金額を遺贈しましょう。
遺言書は公正証書遺言で作成し、遺言者である飼い主が亡くなった後、遺言を実現してくれる遺言執行者を指定しておくことが大切です。
負担付死因贈与とは
ペットのための負担付死因贈与とは、ペットの世話の義務(負担)を付けた、死亡によって効力を生じる贈与契約です(民法554条)。遺贈と大きく違う点は、遺贈は一方の意思だけでもできますが、契約は双方の合意が必要という点です。また、契約なので、一方的な変更や撤回は原則できません。
契約は、後日のトラブルを防ぐために書面(公正証書)を作成しておくと良いでしょう。なお、死因贈与には「遺贈」の規定が準用されます。
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民事信託の活用
一般に、信託とは、「自分(委託者)の大切な財産を、信頼できる人(受託者)に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう制度です(信託法2条)。最近、さまざまな場面で民事信託が活用されています。
ペットについて応用すると、飼い主(委託者)が信頼できる人(受託者)に財産を託し、自分に万が一のことがあった時に飼育してくれる人(受益者)に飼育費を支払うしくみです。なお、飼育費が正しく管理されているか、ペットが適正に飼育されているかどうかを確認する「信託監督人」を置くこともできます。
飼い主(委託者)と財産管理者(受託者)の間で、信託契約を結ぶことによって成立することになります。飼育費は金融機関に開設した受託者義の信託口の口座で管理し、そこから新しい飼い主さんへ飼育費が支払われます。
負担付贈与や負担付死因贈与では、死後に一定の財産をすべて渡すので、渡した後の財産の使い道について管理するのが難しいというデメリットがあります。また、ペットの死亡後、残った財産について新しい飼い主が自由に使えてしまいます。しかし、民事信託を使えば財産の使い道を委託者の思いどおりに設計することが可能です。
たとえば、新しい飼い主の方に万一のことがあった場合に、さらにその次の飼い主も決めておくことができます。これができるのは信託だけです。
また、飼い主が認知症になった場合、財産は凍結されますが、民事信託を使えば認知症になっても財産は凍結されません。また、成年後見人が付いたとしても、信託財産には成年後見人の権限は及びません。
民事信託の設定には、信託法などの法律と税金の高度な専門知識が必要です。専門家に依頼する場合、信託の設定から契約書の作成まで、高額の手数料が必要になります。財産を管理する手数料も必要です。したがって、民事信託は財産に余裕のある人向けといえます。
出典
国立社会保障・人口問題研究所 将来推計人口・世帯数
一般社団法人 信託協会
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。