更新日: 2020.04.06 その他相続

相続放棄でマイナス財産だけ引き継がない・・これってありなのか

執筆者 : 内宮慶之

相続放棄でマイナス財産だけ引き継がない・・これってありなのか
家族が亡くなると、多くの場合は残された家族や親族が、その財産を相続する運びとなります。その際に遺言書がなく、相続人同志の話し合いで合意しない場合は、法廷相続という方法をとるケースがあることは以前にお伝えしました。
 
今回は、相続人が確定した後の相続の放棄および限定承認について解説します。
 
内宮慶之

執筆者:内宮慶之(うちみや よしゆき)

内宮慶之FP事務所代表
CFP認定者(日本FP協会所属)、ファイナンシャルプランニング

CFP認定者(日本FP協会所属)、ファイナンシャルプランニング技能士1級
会計事務所では、税務会計コンサルティングの他、資産税や相続事業承継の経験も豊富。

現在、相続及びライフプラン全般における相談業務、講演、執筆、非常勤講師などの業務を中心に活動している。高等学校での講演も多く金融経済教育にも尽力している。

平成30年度日本FP協会『くらしとお金の相談室』相談員、大阪市立住まい情報センター専門家相談員、修学支援アドバイザー(大阪府教育委員会)にも就任している。

相続の放棄

「相続放棄」とは、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)もいっさい引き継がない(相続しない)というものです。
 
相続人が確定し、その相続人が財産を相続する場合、プラスの財産がマイナスの財産より多い場合は、そのまま全ての財産を相続することとなります。全ての財産を無条件で相続することを「単純承認」といい、何も手続きしなければこの方法での相続となります。
 
しかし、遺産の内訳が明らかにプラスよりマイナスのほうが多い場合、相続放棄の手続きをすることで、被相続人(亡くなった親族)のプラスおよびマイナスの財産の全てを相続しなくてよくなります。
 
相続放棄には期限があります。相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に、被相続人の住所地の家庭裁判所に申告しなければなりません(民法915、民法918)。また、遺言書に自分が財産を相続する旨が記されていた場合でも相続放棄は可能です。
 

相続の限定承認

「限定承認」とは、相続人が相続する財産のうち、プラス分の範囲内でマイナス分も相続するという制度です。
 
この限定承認も相続放棄と同様に、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に、被相続人の住所地の家庭裁判所に申告しなければなりません(民法915、民法924)。
 
ただし限定承認の場合、相続放棄とは違い、相続人の全員が共同で申請しなければなりません。ただ、複数名いる相続人のうち相続放棄を選択した人がいたとしても、その人以外が同意すれば、限定承認の申告をすることができます。
 
もっとも、限定承認は実質的にマイナスの財産を引き継がない(相続しない)という民法上のメリットが大きくなる半面、税法上のデメリットがあります。被相続人に対して、財産を時価で相続人に渡したとして「みなし譲渡所得税」が課税されるのです(所得税法59)。
 
みなし譲渡所得税とは、譲渡所得があったとみなして所得税が課税されるという制度です。被相続人に対して、全ての財産を時価で売却し収入があったとみなし、その財産の取得費などを差し引いた所得分に対して所得税が課税されます。
 
含み益がある財産(例えば購入したときより値上がりしている株式など)がある場合、限定承認をすると被相続人に対して所得税が課税されることになります。
 
相続人は被相続人の所得税を、準確定申告によって申告・納付しなければなりません(相続の開始後4ヶ月以内)。また、相続人は財産を時価で取得することになります。
 
準確定申告により算出された所得税は被相続人(亡くなった親族)の債務扱いとなりますが、その債務は限定承認した場合は、プラスの財産を超えた場合は切り捨てとなります。
 
被相続人の財産がプラスよりマイナスのほうが多い場合は、基本的に相続人のデメリットはありません。ただし、被相続人の財産が明らかにプラスの場合は、所得税分の損をすることになります。限定承認は、よく考えて専門家の意見も参考にすべき制度と言えます。
 

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まとめ

「相続放棄」と「限定承認」は相続手続きにおいてたいへん重要な制度ですが、その手続きの期限もまた重要です。
 
3ヶ月以内に意思決定を迫られるのは本当に酷だと思います。親族が亡くなり、バタバタした日常の中で遺言書の存在などを確認し、相続人を確定させる作業は大変です(期間は利害関係人または検察官の請求によって家庭裁判所において伸長可能/民法915)。
 
そのさなかに単純承認、相続放棄、限定承認の選択をしなければいけないとなると、ある程度の精度で「遺産の総額」を調べなくてはいけません。被相続人・相続人が生前に財産の詳細を把握していれば問題はなさそうですが、預金通帳の保管場所など、本人にしか分からないことも少なくないようです。
 
次回は「相続財産の総額を知る」という内容で、遺産の相続税評価額等について解説したいと思います。
 
執筆者:内宮慶之(うちみや よしゆき)
内宮慶之FP事務所代表
CFP認定者(日本FP協会所属)、ファイナンシャルプランニング
 

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