更新日: 2023.09.13 その他相続
2020年4月から施行!配偶者居住権を知ってますか?現行制度との違いは?
それを受け、昨年2018年12月に発表された平成31年税制改正大綱でも、「配偶者居住権」の評価方法が規定されています。実際に施行されるのは2020年4月からで、まだ1年以上の期間があります。
この「配偶者居住権」、長年連れ添ってきた配偶者の貢献に見合う権利を設定したということですが、施行するまでに、まだまだ解決しなければいけない問題がありそうです。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
「配偶者居住権」には2種類ある
「配偶者居住権」には2種類あります。
(1)配偶者短期居住権
これは、「配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で住んでいた場合、最低6ヶ月は居住建物を無償で使用する権利を有する」というもので、配偶者の権利を短期的に保護するための方策です。これは当然に認められる権利となっていますが、6ヶ月という暫定的なものでもあります。
(2)配偶者居住権
今回新設される配偶者居住権で、配偶者の居住権を長期的に保護するための方策です。これは、「配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認める法定の権利」です。
この権利を取得するためには、協議や遺産分割における相続人の合意、もしくは被相続人(この場合は亡くなった配偶者)からの「配偶者居住権を遺贈する」旨の遺言が必要になります。また、登記をすることにより、第三者に対抗することが可能となります。
現行制度の問題点
現行制度では、配偶者が居住建物を取得する場合、ほかの財産を受け取れなくなってしまうという問題がありました。
相続人が妻と子で、被相続人(亡くなった夫)の遺産が仮に、自宅が2000万円、預貯金が2000万円であった場合、妻と子の法定相続分は1:1です。そのため、妻が自宅を相続すると、預貯金は1円も相続することができません。
また、妻が預貯金を相続すると、自宅は子の財産になってしまいます。子との関係がうまくいっている場合は、家を共有にすることも考えられますが、そうでない場合は、共有にすること自体が今後のトラブルの原因になりかねません。
「配偶者居住権」は、妻が自宅に住みながら、ほかの財産も相続できるようにした制度なのです。
例えば、自宅の「配偶者居住権」の評価が1000万円、「負担付所有権(配偶者居住権がついた所有権)」の評価が1000万円となれば、次のように相続すれば問題は解決するというわけです。
配偶者
配偶者居住権 1000万円
預貯金 1000万円
子
負担付所有権 1000万円
預貯金 1000万円
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「配偶者居住権」とは、どんな権利?
本来の居住建物の所有権を相続すると相続財産の価値評価額が大きいため、ほかの財産が相続できなくなるのですから、「配偶者居住権」は価値的には居住建物の所有権より小さいものにしないと問題は解決しません。
そこで、建物の所有権を「配偶者居住権」と「負担付所有権」の2つにわけ、前者を配偶者に、後者を子またはほかの相続人に相続させることで、問題の解決を図るのです。
「配偶者居住権」とは、使用収益権で、夫婦どちらか一方の持ち家に住んでいる配偶者について、相続によって家の所有権が他の相続人や第三者にわたった場合でも、原則として亡くなるまで、そのまま無償で住み続けられる権利です。
「負担付所有権」とは、「配偶者居住権」という「負担」付の所有権をいい、これが子またはほかの相続人に相続されることになります。
そして、「配偶者居住権」と「負担付所有権」を合わせて、本来の所有権になるというわけです。ですから、財産的価値の評価の点から見ても、両者の価値を足すと、ちょうど「1」ということになります。
本来1つの権利であるものを、2つに分割したのですから、それぞれの権利を相続した側も、さまざまな制約を受けることになります。
「配偶者居住権」の評価と実務的な問題点
今回の税制改正大綱では、「配偶者居住権」の財産的価値を評価する方法が定められています。簡単にいうと、建物の残存年数と配偶者の平均余命を使って、「配偶者居住権」の価値を算出し、差額を子またはほかの相続人が相続する「負担付所有権」の価値としています。
一応、価値評価の方法は決まったようですが、それでも、次の点をどう解決するのか疑問が残ります。
●「配偶者居住権」は年の経過とともに減価していくのか?
●もし配偶者の推定平均余命とともに減価するなら、実際に亡くなった時点で残存価値がある場合、それは第二次相続の対象となるのか? それとも、今までの減価の経緯にかかわらず、配偶者居住権は配偶者の死亡とともに一挙にゼロになるのか?
●配偶者が介護施設に移るようになった場合は、どうなるのか?
●上記の場合、家の処分権はだれが持つのか?
●処分した場合の売却価格の取り分はどうなるのか?
などなど、税制改正が成立した後も、実務上きちんとワークするために詰めなければいけない点がまだまだあるように思えます。
まとめ
今回の税制改正では、長男の妻などの特別寄与者に、特別寄与料を認める案も盛り込まれており、現実的な問題が徐々に法律に織り込まれることで、今までの相続の枠組みが少しずつ変わっていくことになりそうです。
「配偶者居住権」については、今後細則が決まっていく段階で、状況をご報告したいと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー