相続のキホン(1) 「相続対策」と「相続税対策」の違い
配信日: 2019.04.07 更新日: 2020.04.07
「あまり資産はない」とおっしゃられている方でも、全く何もない人はいません。貯金や不動産だけではなく、身の回りの物も相続財産です。なかには借金の方が多い、という方もいらっしゃいます。
今回から5回に分けて「相続のキホン」と題し、相続の仕組みをわかりやすくお伝えしたいと思います。
これまで、私のところにも多くの方が相続に関するご相談にいらっしゃいました。間違って理解している人も少なくありません。勘違いしやすいポイントなども併せてまとめていきます。相続に関する基本的なことをご理解いただくことで、ご自身やご家族の相続が起きた時、資産が円満に次の世代に継承されるよう、お役に立てば幸いです。
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
http://www.nishiyama-ld.com/
「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。
西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/
相続対策は全ての人に必要です
私が「相続についてのご相談をお受けしています」とお話しすると、多くの方が「うちにはそんなに資産がないから」「我が家は家族円満なので大丈夫」などとお話しされる方がほとんどです。
「資産がないから大丈夫」とおっしゃられる方は、「相続税対策」をイメージされたのではないかと思います。あるいは「相続でもめるのは資産がある人だけ」と勘違いされているのかもしれません。
「我が家は家族円満だから」とおっしゃられる方は、相続が原因でそれまで仲の良かった家族が骨肉の争いに発展することもあることをご存じないのかもしれません。
しかし、実際には相続財産の多少にかかわらず、もめるときはもめてしまうのが相続です。
年間で家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割に関する事件数は、1万5千件程度にのぼります。裁判所に持ち込まれるのは、相続でもめるケースのうちほんの一部でしょう。もめるケースはかなりの件数になるはずです。
下図は平成29年に家庭裁判所で扱われた遺産分割協議に関する事件の遺産額の分布です。5000万円以下が80%を占めています。相続でもめるのは財産の額とは関係ないといえます。
相続対策と相続税対策は違う
「相続対策」と「相続税対策」は違います。
「相続対策」では、「円満に資産を次の世代に継承すること」を最優先に考えます。「相続税対策」は、支払う相続税を少なくし、少しでも多くの資産を次世代に継承する、あるいは、相続税の支払いのために手放したくない資産を手放さなければならなくなることのないよう、納税資金を確保しておくためのテクニックのようなものです。
「相続対策」は、以下の3つを考えなければいけません。
・円満な相続…もめないようにすることが相続対策の最大の目的
・納税資金の確保…不動産など分割しにくい資産が財産の中心の場合は事前の対策が必要
・節税方法の検討…様々な節税方法があるが、相続資産を減らす事が基本
最も大切なのが「円満な相続」であり、他の2つが「相続税対策」ということになります。
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相続税を収める人が増えている
平成27年(2015年)から相続税の基礎控除が下がり、事実上「増税」になりました。
基礎控除額
平成26年まで 5000万円+(法定相続人の数×1000万円)
平成27年以降 3000万円+(法定相続人の数×600万円)
例えば、ご主人が亡くなり、配偶者と子2人が相続人だった場合の基礎控除額は、
平成26年まで 5000万円+1000万円×3=8000万円
平成27年以降 3000万円+600万円×3=4800万円
と、6割に減少しています。これにより相続税の対象となる人が増えました。
全国で亡くなった方のうち、相続税の課税対象となった方の年ごとの割合は、この基礎控除の減少で(図2)ように平成27年以降跳ね上がり、割合は4%台前半から8%台になりました。特に、東京国税局管内(東京都、神奈川県、千葉県、山梨県)では、7%台から13%程度にまで上がっています(図3)。
東京都内だけで見ると平成29年度の課税割合は16.2%に上ります。
(図2)(図3)国税局発表「平成29年分の相続税申告状況」より西山ライフデザイン作成
相続対策と相続税対策は違うのですが、相続税が絡んで相続を複雑にするケースもあります。「我が家には相続税はかかるのか」を把握することも重要です。
まとめ
相続で大切なのは「円満に資産を次の世代に継承すること」です。自分の財産をめぐって家族が不仲になることを望んでいる人はいないでしょう。しかし、資産状況や家族の状況などは十人十色。亡くなる人の数だけ異なるパターンがあると言っても過言ではありません。
もめない相続のためには相続の仕組みを正しく理解し、準備することが大切です。次回からは、相続対策の基礎となる「相続の基本的な考え方」をお伝えしていきます。
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー。宅地建物取引士。