【相談実例】「5歳下の妻が認知症に。相続が心配だけど、どうすればいいですか?」
配信日: 2019.06.29 更新日: 2020.09.09
回答:「認知症の方は、法律行為ができなくなりますので、家族のためにも対策は必要です。」
執筆者:宿輪德幸(しゅくわ のりゆき)
CFP(R)認定者、行政書士
宅地建物取引士試験合格者、損害保険代理店特級資格、自動車整備士3級
相続専門の行政書士、FP事務所です。書類の作成だけでなく、FPの知識を生かしトータルなアドバイスをご提供。特に資産活用、相続トラブル予防のため積極的に「民事信託(家族信託)」を取り扱い、長崎県では先駆的存在となっている。
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何もしないとどうなる
奥さんは相談者より5歳下ですので、相談者より10年くらいは長生きすると予想しています。自分の財産で、最後まで穏やかに過ごせるようにしたいとの相談でした。まず、対策しないとどうなるかを考えます。
(1)遺産分割協議ができない
相続財産の分割は、相続人全員の合意で決めることになります。そして、この遺産分割協議は重要な法律行為ですので認知症の妻は参加できません。意思表示ができないので、仕方ありません。
遺産分割協議ができないので、相談者の遺産は使うことができません。(預金については改正相続法により、一定金額までは仮払いできるようになります。)
妻が亡くなった後に、遺産分割協議をすることになります。
(2)法定代理人と遺産分割協議
妻の法定代理人を遺産分割協議に参加させれば、遺産分割はできます。認知症患者の法定代理人は、成年後見人です。
家庭裁判所に成年後見人選定を申請し、裁判所に指定された成年後見人(司法書士など)を妻の代理人として遺産分割協議を開催し、分割方法を決定します。成年後見人の使命は被後見人(妻)の権利を守ることですので、妻が法定相続分以上の財産を取得する内容でなければ成立しません。
その後、成年後見は意思表示ができない被後見人を守るため、亡くなるまで継続します。遺産分割協議が終了したからといって終了することはできないのです。妻の取得した財産は妻が亡くなるまで、裁判所の下で成年後見人によって管理処分されることになります。
なお、被後見人の親族が後見人に指定されることもあります。
この場合、利益相反の関係になる可能性があり、多くの場合、遺産分割協議のための法定代理人(特別代理人)として弁護士などが裁判所から指定されます。
※2018年親族後見人の割合=26%(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」)
遺言
遺言をすれば、自分の意思で財産を分割できます。しかし、認知症の奥さんに財産を取得させても自分で管理できず凍結状態になってしまいます。成年後見人を付けなければ使えません。
「長男に財産××を相続させるので、妻の生活の面倒をみること」といった負担付き遺言をすることができます。
この場合、長男がきちんと妻への援助をしてくれれば問題ありません。しかし、相続させた財産は、長男の固有財産となりますので実際に妻のために使うかは長男に任せられていますし、兄弟など他の相続人はチェックできません。
負担の不履行がひどい場合には、他の相続人が家庭裁判所に取り消しを請求することは可能ですが、なかなかできることではありません。
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民事信託
平成19年の信託法改正までは、上記「負担付き遺言」で受贈者の善意を期待するしかありませんでしたが、今は家族で信託を設定することができます。
妻の豊かな生活を確保するだけの財産を、「信託財産」」として別分けにします。
他の相続人には、受託者や受益者代理人などとして信託に参加してもらうことで、妻の利益の確保と相続人間に不公平感が発生しない財産管理が可能になります。遺言と違い、財産の管理処分方法の希望を細かく設定できます。
執筆者:宿輪德幸(しゅくわ のりゆき)
CFP(R)認定者、行政書士