相続のキホン(14) 亡くなってからもめないために、生前からコミュニケーションをとろう
配信日: 2019.11.26
そして、相続対策は相続“税”対策とは違うこともお伝えしました。もめないための相続対策は資産家だけに求められるものではなく、全ての人が知っておくべきことです。
今回は「相続のキホン」シリーズの最終回として「コミュニケーションの大切さ」についてお伝えしたいと思います。
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
http://www.nishiyama-ld.com/
「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。
西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/
親族間のコミュニケーションが減っている
これから相続にかかわることになる人も多いでしょう。高齢化が進行し、被相続人も相続人も高齢というケースも増えてきます。判断能力が低下してしまうと相続手続きもスムーズに進められなくなることがあります。
また、最近は核家族化が進行しました。以前は二世代、三世代が同居し、盆や正月には一族が全員そろい、日頃からコミュニケーションが取れている家庭もたくさんありました。
今は、結婚すれば家を出て、両親とは離れて住むことのほうが当たり前になりました。兄弟姉妹も、遠方に住んでいて、もう何年も会っていないというご家族もあるでしょう。核家族化の進行で親族間のコミュニケーションを機会は非常に少なくなっています。
さらに、相続は当然のことながら「死」に関することになるため、久しぶりに会ったときに子から親に「相続」に関する話題を切り出す事にも抵抗があります。
仮に切り出すことができたとしても、元気な親は「まだまだ先のことだよ」「これから考える」とついつい先延ばしし、いざというときには「もう対策のしようもない」という状態になってしまうケースは少なくありません。
相続発生後にやらなければいけないことは多い
これまでにお伝えしてきたように、相続が発生したことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄・限定承認の申述、10ヶ月以内に相続税の申告・納付を行わなければいけないのが原則です。
10ヶ月というと期間は十分あるように感じますが、実際に相続手続きを始めようとすると、あっという間です。自筆の遺言などで裁判所の検認が必要な場合、検認手続きは裁判所に検認の申し立てをしてから1~2ヶ月程度かかります。
特に相続放棄や限定承認を選択する場合などは早急に資産リストを作り、行うべきか否かを決めなければいけません。相続放棄は相続人のうちの一人が単独でもできますが、部分承認は相続人全員が共同して行う必要もあります。
相続人調査(相続人の確定をするための調査)での戸籍の収集も、思った以上に時間がかかることがあります。
被相続人や相続人が本籍を何度も移している場合や、子がなく兄弟姉妹あるいは代襲相続によってその子(甥・姪)が相続人になる場合などは、被相続人の父母のものも含めて複数の役所で住民票、住民票の除票、戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍などを合わせて何十通も取り寄せなければならなくなるケースもあり、かなりの時間を要します。
遺産分割協議を行う場合も資産リストを作成したうえ、分割方法について話し合い、全員が合意しなければなりません。相続人同士が日頃から顔を合わさない、場合によっては一度もあったことのない遠縁の親族が共同相続人になることもあり、そのような場合はコンタクトを取るだけでも時間がかかり、もめればさらに時間がかかってしまいます。
以前にもお伝えしていますが、こうした現実を知っていれば、自分にもしものことがあった時に遺された人が困らないようできることはやっておく、ということの重要性もご理解いただけるのではないでしょうか?
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エンディングノートの活用
もめないようにする最も有効な方法は、生前から「もし自分が死んだときにはどのような遺産を残すことになるか、その遺産をどのように分割すべきか」について相続人になる人たち全員と話しておき、それに基づいた遺言書を作っておくことです。
このような話し合いができていれば、生前からの故人の思いを相続人同士が同じように認識し、悲しみを感じながらも手続きはスムーズに進むでしょう。
しかし、離れて住む家族同士が頻繁に話をするのは困難です。ご家族と密なコミュニケーションをとれない方に活用を考えていただきたいのが「エンディングノート」です(もちろん、日ごろからコミュニケーションが取れている方でも活用できます)。
以前に「エンディングノートを活用しませんか?」というコラムを書かせていただきました。詳しくはそちらのコラムをご覧いただきたいと思いますが、エンディングノートは遺言書のような法的効力はありません。形式が決まっているものでもないので、どのように書いても大丈夫です。
預貯金の通帳や印鑑、不動産の権利証(登記識別情報等)などは本人しかわからないところに置いておくと、もし相続が発生してしまった場合に探すのに苦労します。自筆の遺言書などは見つけられなければ意味がありません。
もし、遺産分割が終わった後に遺言書が出てきてしまったような場合には大事にもなりかねません。金庫に大事にしまってあるのは知っていたけれど、金庫の開け方を誰も知らず、開けるのに苦労したなどということもありました。
そうしたこともエンディングノートに書き記しておき、いざというときには親族の誰かがすぐに取り出せるようにしておく。生前に書いたエンディングノートを披露しながら、自分の生い立ちや価値観を家族に披露しても良いでしょう。
そうすることで、親族はいざというときにエンディングノートの存在を必ず思い出すはず。きっと相続手続きをスムーズに進めるバイブルになるはずです。
まとめ
相続が発生した時にどのような状況になるかは人それぞれです。取り巻く家族の環境や、資産の状況はそれぞれ異なるため「こうしておけば絶対大丈夫」という王道はありませんし、相続人間の話し合い方や、遺産分割の方法も正解は一つというわけではありません。
これまでにお伝えしてきたのは「相続のキホン」。前提条件として覚えておきたい内容です。あくまでも基本であって、より複雑な対策を要する場合もあるでしょうし、どんなにもめないようにと思ってももめてしまうことがあるのも現実です。
まず、「人はいつかは亡くなり、相続は誰の身にも必ず訪れる」「相続対策と相続税対策は違う」「資産が少なくてももめることがある」ということを認識し、「円満に相続するための分割対策」「相続税がかかる場合の納税資金対策」「納税額が多額になる場合の節税対策」の順で検討していくべきであることをあらためてご確認いただき、そのためには生前からの親族間のコミュニケーションが非常に大切であることを知っておいていただきたいと思います。
そして、一気にいろいろやろうとせず、できるところから少しずつ始めていただければと思います。
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役