更新日: 2020.06.17 その他相続
親の介護で働けず、老後の蓄えが不安…介護した分、遺産相続では評価される?
介護などで特別の寄与をした相続人は、民法上は寄与分として遺産を取得できることになっているのですが、苦労に見合う評価を得るのは簡単ではありません。
執筆者:宿輪德幸(しゅくわ のりゆき)
CFP(R)認定者、行政書士
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相続分の修正
民法では、相続人間の公平を図るため、以下のような場合には相続時の相続財産を修正することにしています。
(1)被相続人から生前贈与などを受けている者がいる(特別受益)
(2)相続財産を維持増加することに特別に寄与した者がいる(寄与分)
例)相続人:長男A、次男B
相続財産:5000万円
Aの特別受益 1000万円、Bの寄与分 500万円
法定相続分で分割するとした場合
Aの取得財産=(5000万円+1000万円-500万円)×1/2-1000万円=1750万円
Bの取得財産=(5000万円+1000万円-500万円)×1/2+500万円=3250万円
特別受益は、金額を相続発生時の評価に引き直して計算します。寄与分に関しては、実際に金銭などは移動していませんので、寄与分の金額は共同相続人の協議(遺産分割協議)により決めることになります。協議で決められない場合には家庭裁判所の調停や審判に進むことになります。
寄与分
相続で考慮される寄与は、「事業に関する労務の提供または財産上の給付、療養看護その他の方法による特別の寄与」とされます。特別の寄与ですから、親族の扶養義務範囲内の介護などはあたりません。通常期待される程度を超える貢献であることが、要件となります。
仮に、家族が親の介護をしない場合、民間のサービスを利用することが考えられます。相続人の1人が介護を引き受けて、業者に支払う費用を免れたとすれば、この価格が基準となります。
しかし、民法で「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」となっていますので、基準そのままの評価はされないことが多いようです。
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相続人以外の特別寄与制度
2019年7月の改正相続法施行により、相続人以外の親族が無償で被相続人の療養看護などを行った場合に、特別寄与料が認められることになりました。
特別寄与料は特別寄与者が請求し、相続人は法定相続分で負担します。こちらも金額については協議で決定しますが、協議がまとまらない場合には家庭裁判所に決めてもらうことになります。
請求できる期間は、相続開始および相続人を知ったときから6ヶ月、または相続開始から1年とかなり短いので注意が必要です。
協議で評価額を決めるのは難しい
寄与分・特別寄与料共に、まずは協議で評価額を決めることになります。合意できない場合には家庭裁判所も対応してくれますが、なるべく親族内で解決したいところです。
しかし、寄与を多くすれば他の相続人の取得財産は減るわけですから、合意を形成するのは困難です。
民間業者の費用を基準とするとしても、「通常期待される程度を超える貢献」の考え方は人それぞれです。法務省が公開している「寄与分に関する裁判例」を見ても、その評価の難しさがわかります。
評価でもめないための対策
寄与分や特別寄与料を考慮した遺言を作成しておけば、協議は不要です。遺言者が寄与を評価しますので、相続人も納得しやすくなり、寄与した者も気兼ねなく遺産を受け取ることができます。
介護者に生命保険の死亡保険金を受け取れるようにすることも有効です。保険金は相続財産ではなく、受取人固有の財産となるので確実に取得することができます。遺産分割協議の対象になりません。
すでに本人が遺言や保険の変更をできない状態の場合には、介護の負担を他の推定相続人に理解してもらえるようにしておきましょう。介護日誌や介護にかかった費用の記録などがあると、説明しやすくなります。
参考 法務省 寄与分に関する裁判例
執筆者:宿輪德幸
CFP(R)認定者、行政書士