70代の親が今からでも保険に加入するか悩み中。保険は必要?何から検討すれば良い?
配信日: 2021.03.27
「万が一のとき、子どもに迷惑をかけたくない」「今は元気だが、入院・通院をするかもしれないし、そのときに備えたい」などと考えるようになり、今からでも保険に加入するべきか悩んでいます。
70代の保険加入(生命保険、医療保険など)はどのように考えたら良いか、子の立場から、アドバイスします。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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民間医療保険は必要?
年を重ねるごとに体の機能は衰えていきます。70代となると、今まで考えもしなかった健康への不安が頭をもたげてくるかもしれません。
「入院通院するかもしれないし、そのときに備えたい」場合は、民間医療保険を検討しましょう。しかし、検討する前に、公的医療保険によって、70歳以上の方が実際にどれくらいの医療費を賄うことができるのかを知っておく必要があります。
まず、公的医療保険の自己負担の仕組みを確認しましょう。
70歳から75歳未満の方が、医療機関の窓口で支払う自己負担額は、原則として医療費の2割です。後期高齢者医療制度が適用になる75歳以上の自己負担は原則として1割です。ただし、70歳以上のうち、「現役並みの所得」のある方の自己負担は3割になります。
次に、自己負担の軽減制度について見てみましょう。
長期の入院など医療費の窓口負担が高額になった場合には、高額療養費の支給があります。医療機関や薬局の窓口で支払った1ヶ月(同じ月の初日から末日)の医療費が、年齢や所得に応じた一定の上限額を超えた場合には、上限額を超えた額が還付されます。70歳以上の場合は、申請しなくとも医療機関の窓口の支払いが自動的に負担上限額までとなります。
例えば、70歳以上の自己負担限度額は、一般の世帯であれば、入院や手術、通院にかかった1ヶ月の医療費5万7600円(世帯単位)を超えた分について戻ってきます。低所得者の場合はさらに負担が軽くなります。
さらに、高額療養費の払い戻しを受けた月が直近12ヶ月以内に3回以上あったときは、4回目からは多数回該当として自己負担限度額がさらに引き下げられ、4万4400円となります。
このように日本の医療制度は充実しています。どこまで公的医療保険で医療費がカバーされるかを確認したうえで、民間医療保険の必要性や保障内容について考えるようにすることが大切です。一般的には、高額療養費制度によって、医療費の自己負担額はそれほど高額にはなりません。また、70歳代の保険料は高いので、民間医療保険の加入は慎重に検討しましょう。
ただし、差額ベッド代や先進医療の技術料は高額療養費の対象となりませんので、これらに備えて民間医療保険に加入するという考えはあるかと思います。健康状態に不安のある方は、まずは通常の医療保険に加入できるかを検討し、難しい場合は、「限定告知型保険」を検討すると良いでしょう。
民間介護は必要?
2019年の日本人の平均寿命は、女性が87.45歳、男性が81.41歳と世界でもベスト3に入る長寿国です(簡易生命表)。長生きは良いことですが、介護のリスクが高まっています。2019年の人口に占める要介護認定率は、70歳代前半で5.7%、70歳代後半で12.8%、80歳代前半で27.9%、80歳代後半で30.2%と加齢に伴い上昇します(厚生労働省)。
介護が必要になったとき、頼りになるのが公的介護保険です。公的介護保険は、公的医療保険と異なり、要介護認定を受け、サービスを提供する事業者と契約しないと、サービスを利用できません。
介護サービスを支給限度額の範囲で利用した場合、65歳以上の自己負担は所得に応じてサービス費の1~3割になります。支給限度額を超えてサービスを利用した場合、超えた部分は全額自己負担です。
1~3割の自己負担が高額になった場合、高額介護サービス費制度により、限度額を超えた部分が申請により払い戻されます。例えば、一般世帯の世帯限度額は月4万4400円となっています。
では、介護費用はいくら準備しておけば良いでしょうか。
生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」によると、介護経験のある人が実際に支払った費用は次のようになっています。
住宅のリフォーム費用や有料老人ホームへの入居一時金などの「一時的な費用」は平均69万円、「月々の費用」は平均7万8000円です。介護期間は平均54.5ヶ月」(4年7ヶ月)です。単純計算で約500万円の介護費用がかかります。介護はいつ終わるかわからないので、もっとかかるかもしれず、不安に思う人も多いでしょう。
まずは、日頃から健康に気を配り、健康寿命を延ばすことが介護費用の節約になります。家族に介護を頼れない場合、公的介護保険サービスの支給限度額以上のサービスを利用せざるを得ない場合もあるでしょう。場合によっては民間の保険外サービスの利用を必要とするかもしれません。
これらの介護費に使える年金や預貯金が十分でなければ、民間介護保険や認知症保険を検討すると良いでしょう。
死亡保険は必要?
死亡保険は、一般的には、万が一のときに家族が生活に困らないようにするために加入します。70代の子どもは独立しているでしょうから、子どものための教育費や養育費を考える必要はありません。
高齢世帯では配偶者が亡くなった場合、遺族基礎年金は、高校卒業までの子どもがいなければ受給できませんが、遺族厚生年金は一定の要件を満たせば、子どもの有無に関係なく受け取れます。
遺族基礎年金の受給額は、亡くなった方が受け取っていた厚生年金の年金額の4分の3です。したがって、万一のときに配偶者が受け取る年金額を確認して、預貯金などで配偶者や独立していない子どもの生活費をカバーしきれないようであれば、死亡保険でお金を残すことも検討すると良いでしょう。
また、生活費を残す必要がない場合でも、死亡保険でお葬式費用など200万~300万円程度準備しておけば、残された家族も安心です。
さらに、死亡保険は相続税対策としても利用できます。相続人が死亡保険金を受け取る場合、500万円×法定相続人数が非課税金額になります。現預金のままだと相続税がかかる場合、一時払いの終身保険に現預金を組み替えることで、現預金を非課税で相続人に承継できます。
まとめ
子どもとしては、親がどのような目的で保険に加入しようと考えているか確認しましょう。また、多くの場合、公的保険制度がありますので、ある程度預貯金があれば、お金の心配はそれほどしなくて良いでしょう。むしろ、高い保険料を払い続け、預貯金を大きく減らし生活が困窮するリスクもあります。
保険に加入する場合は、親の資産状況も確認しておくと良いでしょう。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。