更新日: 2021.04.01 その他保険

外貨建保険の販売資格試験の実施と販売者の登録制度について

外貨建保険の販売資格試験の実施と販売者の登録制度について
2020年10月から生命保険協会の主催で、業界統一試験として「外貨建保険販売資格試験」が実施されています。また、2022年4月から「外貨建保険の販売者資格登録制度」が始まります。
 
なぜ、生命保険の新たな販売資格試験が始まり、登録制度が設けられるようになったのか? 消費者に、どのような影響があるのかを見ていくことにしましょう。
大泉稔

執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)

株式会社fpANSWER代表取締役

専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。

外貨建保険の販売資格試験の実施と販売者の登録制度が始まる背景

外貨建保険の販売資格試験の、実施と販売者の登録制度が始まる背景として挙げられるのが、銀行での「苦情の増加」です。保有件数に対する苦情発生率は下がっているようですが、苦情の件数は増える傾向にあるようです。
 
そして、その苦情の内訳として、およそ7割が「説明不十分」であり、説明不十分の中で最も多いのが「リスクや元本割れ」に対するものです。苦情が生じる背景として挙げられているのが、「販売員の知識・スキルに格差」と「商品知識・説明力不足」に不満を持っている顧客が多いという点です。
 
そこで、生命保険業界内で、販売員の知識・スキルの格差解消、商品知識・説明力不足を補うための外貨建保険の販売資格試験の実施と、販売者の登録制度を開始したということです。
 
なお「外貨建保険の販売者資格登録制度」に先駆けて「外貨建保険販売資格試験」が行われていますが、「登録制度」が始まるまでの移行期間ということで、販売資格試験の合格の有無にかかわらず、外貨建保険の提案や販売を行うことができます。
 

「保険」ということで、無条件に安心していないだろうか?

筆者が以前、相談者と投資のお話をしていた際、「つみたてNISA」に関してはあまり興味を持ってもらえていない印象でした。しかし、「変額保険」に話題を切り替えると相談者は熱心に耳を傾けた、という経験があります。
 
保険の中でも外貨建保険に関心のある方は、「保険」という言葉に対して無条件に安心していないでしょうか? 現在(2021年2月時点)は、円建の保険に比べると外貨建保険のほうが利回りが有利であり、外貨建保険に魅力を感じてしまうのかもしれません。
 
しかし、なぜ、外貨建保険なのでしょうか? 外貨建保険に限らず、そもそも外貨建の商品には、円建の商品にはあり得ないリスクが存在します。その最も代表的なリスクが「為替変動」です。
 
ご自身が買おう(契約しよう)としている商品が、為替変動によってどのように影響を受けるのかを知っておくべきでしょう。最近では為替変動を抑える特約が付いた外貨建保険もあるようですが、その分コストが生じることもありますので、さまざまな側面を理解しておく必要があります。
 
また、外貨建の商品は保険に限った話ではありません。銀行の場合は外貨建預金や外国投資信託、証券会社の場合は外貨建MMFや外国株式などの取り扱いもあります。
 
ひと口に外貨建商品といっても選択肢は多数あります。その選択肢の中でなぜ外貨建保険を選ぶのか、その理由や目的を、今一度振り返ってみてはいかがでしょうか?
 
そもそも、保険は「保険事故」に備えるのが目的です。契約しようとしている、あるいは契約した外貨建保険は、どのような保険事故に備えるためのものなでしょうか?保険商品は定められた期間(長期の場合が多い)契約を継続することで、商品本来のメリットが活かされます。
 
それゆえ、短期で売却をする際には、ペナルティとして解約控除等、ほかの外貨建商品には運用されない仕組みがあります。
 
ちなみに、外貨建MMFや外国投資信託等は、もともと運用が目的であり、その成果として「インカムゲイン(保有期間中の収益)」と「キャピタルゲイン(売却益)」を期待できます。
 
保険とは異なり、運用実績に応じて保有か売却かを判断します。ただし、運用できる時間をある程度確保した資金で運用する必要はあります。外貨建保険には、外貨建保険に特有の難しさがあります。例えば、MVA市場価格調整。
 
解約控除は円建の変額保険などにもありますが、むしろ保険以外の商品ではほとんど耳にすることがありません。MVA市場価格調整とは、「市場金利の動向」によって解約返戻金の額が増減する仕組みのことです。
 
外貨建保険の解約時の市場金利が、契約時の市場金利と比べて上昇していた場合には、解約返戻金額は減少します。逆に、解約時の市場金利が契約時の市場金利と比べて下落した場合には、解約返戻金額が増加することがあります。
 
したがって、市場金利の変動により解約返戻金が払込保険料の総額を下回ることがあり、損失が生ずるおそれがありますので注意が必要です。
 

まとめに代えて

外貨建保険の販売資格試験の実施と販売者の登録制度が始まるということは、生命保険業界において均一が保たれた知識とスキルを持つ販売員による、説明やアドバイスを提供してもらえるという安心感を得ることできるではないかと思います。
 
今後は、前述のような苦情の発生率も件数も、ともに減っていくことが期待できるかもしれません。その一方で、消費者は今も、そしてこれからも、「なぜ、外貨建保険の契約をしようとしているのか」という点を明確にしておかなくてはならないことに変わりありません。
 
保険だからといって無条件に安心せず、「何のための保険なのか? どのような保険事故に備えるのか」という点を振り返るのです。そして、数ある外貨建商品の中で、外貨建保険を選ぶ理由は何でしょうか?
 
外貨建保険には、外貨建保険特有の理解が必要だということを忘れずにいてほしいと思います。
 
(参考)
生命保険協会「外貨建保険販売資格試験の実施要領等について」
生命保険協会「背景・課題認識(銀行等代理店における外貨建保険苦情の動向)」
 
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役

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