更新日: 2021.05.10 生命保険
専業主婦(夫)に生命保険は不要ですか?
あるご相談では、相談者さまが専業主婦(夫)の配偶者を被保険者とする生命保険について、検討することすら忌避なさっていました。果たして、配偶者が専業主婦(夫)の場合、専業主婦(夫)を被保険者とする生命保険は不要なのでしょうか?
あってはならないことですが、専業主婦(夫)の配偶者に「万が一」が起きたことを想定して、どのように家計が変わるのか考えてみましょう。
執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)
株式会社fpANSWER代表取締役
専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。
父子家庭も遺族基礎年金の対象に
専業主婦(夫)は、国民年金の第3号被保険者です。国民年金の被保険者である専業主婦(夫)の配偶者に、万が一のことがあり、遺族が要件に該当すれば遺族基礎年金の対象となります。遺族基礎年金の要件とは、『子または子のある配偶者』です。つまり、父子家庭も遺族基礎年金の対象です。
遺族基礎年金の受給額は、2021年度については、お子さまが1人の場合は100万5600円です。なお、遺族基礎年金は非課税ですから、この額がそのまま手取りと考えて差し支えありません。
しかし、1人でご家族を養っていらっしゃる方の場合、遺族基礎年金を受け取れない可能性があります。遺族基礎年金には、遺族の年収要件があります。遺族の年収が850万円を超えると、遺族基礎年金を受け取ることができません。
配偶者控除がなくなる
専業主婦(夫)の配偶者に万が一のことがあった場合、配偶者控除がなくなります。配偶者控除の額は38万円です。配偶者控除がなくなれば、その分所得が増えますから、所得税や住民税の増税となり、手取り額が減る可能性が生じます。
寡夫控除もあるが……
寡婦控除だけでなく、寡夫控除もあります。しかし、寡夫控除の要件の1つに「合計所得金額が500万円以下」というものがあります。この要件に該当しなければ、寡夫控除は受けられません。
寡夫控除の要件にあてはまったとして、その控除の額は27万円です。配偶者控除のそれに比べると控除額が少なく、手取り額が減る可能性は否めません。
学資保険の保険料
学資保険の主な特徴の1つとして挙げられるのが、契約者である保護者に万が一のことが起こった場合、保険料の支払いが免除になり、保障がそのまま継続され、契約満期時などに保険金が受け取れるということです。
例えば、学資保険の契約者が夫で、専業主婦の妻に万が一のことがあった場合、その後も同じ保障を受け続けるためには、保険料を払い続けなくてはなりません。
そもそも学資保険は、子どもの学資金を準備する目的で加入していますので、子どもの将来のために途中解約をためらうかもしれません。また、なかには途中解約をすると元本割れすることもあります。
このようなことから、途中解約をせずに保険料の支払いを継続し、状況によっては、家計等に影響をおよぼすかもしれません。
住宅ローン
住宅ローンの返済者が夫で、専業主婦の妻に万が一のことがあった場合、団体信用生命保険(団信)が効力を発揮することがなく、ローン返済を続けることになります。
住宅ローンの返済額によっては、先述の遺族基礎年金を住宅ローンの返済にあてることが可能かもしれません。これは、先の学資保険の保険料にも同じことがいえますが、「妻が存命の時とまったく同じ状況で支払いができる」という保障はありませんので注意が必要です。
家事と子育て
これまで専業主婦(夫)の配偶者に任せていた家事や子育てにかかる実務を、以後は1人で担うことになります。これまでと変わらず仕事をこなしながら、です。
もし、家事代行サービスやベビーシッターサービスなど、プロの手を借りるのでしたら、その対価となる費用を払わなくてなりません。
お子さまが18歳になったら
遺族基礎年金の受給期間は、「子どもが18歳になった年の最初の3月31日まで」です。お子さまが“3年制の高等学校をスムーズに卒業するまで”というイメージです。
もし、お子さまが大学や専門学校などに進学する場合、「遺族基礎年金の終わり」と入れ替わるように、高等教育機関の教育費が発生することになります。
まとめに代えて
いかがでしたでしょうか?専業主婦(夫)の配偶者を被保険者とした生命保険が必要か否かは、各ご家庭の判断になります。
しかし、ご自身が加入している保険の状況や保障内容によっては、専業主婦(夫)の配偶者の死後に状況が変わり、身体的・経済的負担が増える可能性がありますので、万が一の事態を想定して備えておくことが必要かもしれません。
(参考)
日本年金機構「遺族年金ガイド 令和3年度版」
生命保険文化センター「公的な遺族年金の仕組みについて知りたい」
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役