がんになったらどのくらいお金がかかる?備えるにはどうすればいいの?
配信日: 2022.04.19
そこで今回は、もしがんになったら治療や通院にどのくらいお金がかかるのか、またその備えについても最近のがん治療の傾向を踏まえてお伝えしたいと思います。
がん治療の現状
日本人のがん罹患率と生存率
国立研究開発法人国立がん研究センターによると、がんの発症の要因はさまざまですが、日本人の男性のがんの53.3%、女性のがんの27.8%は、喫煙などの生活習慣や感染が原因と考えられています。
がんの部位別では、日本人男性は前立腺がんの罹患率が最も高く10.8%で、9人に1人の割合となり、年齢別では50代から急激に増えはじめて70歳代後半くらいまで高齢になるほど罹患率が高くなります。
日本人女性については、乳がんの罹患率が10.9%で最も高く、生涯で乳がんに罹患する割合は2003年には30人に1人でしたが、現在は9人に1人にまで増えています。
このようにがんに罹患する人は増えているものの、昨今では治療によって多くの命が救われ、5年相対生存率(=がんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。100%に近いほど治療で生命を救えるがんであることを意味する)は前立腺がんが99.1%、乳がんは92.3%と高い値を示しています。
多様化する最近のがん治療の傾向
がんの治療法には、三大治療と呼ばれる「手術(外科治療)」、「薬物療法」、「放射線療法」があり、より高い治療効果を得るため、これらの治療法を組み合わせた集学的治療も行われるようになってきました。
よく耳にする「先進医療」は、厚生労働大臣が定める高度の医療技術で、体への負担が少なく、回復も早い治療といわれていますが、患者が希望し、医師がその必要性と合理性を認めた場合に行うことができるものです。
「患者申出療養」という制度もあって、未承認薬や海外で行われている治療法などを希望する場合は、担当医に相談し、臨床研究中核病院で計画書を作ってもらい、それを基に国の会議で実施の可否を検討してもらうことができます。
また、がんに伴う心と体の痛みを和らげる「緩和ケア」が、それぞれの医療の専門家が連携して治療や支援を行うチーム医療として、がんと診断された早い段階から取り入れられています。
最近のがん治療では入院期間が短くなり、薬物療法や放射線療法は通院しながら治療を続けることが多くなっているようです。
がん治療にかかる費用と備え
がんの三大治療では、標準的な治療についてはほとんどが保険診療になります。
公的医療保険などが適用になるお金
例えば、血液検査、CT、レントゲン、エコーや生検といった検査費用や、診察費用、手術費用、放射線治療費、調剤薬局で支払う薬代、病院で支払う抗がん剤治療などの薬代、入院費用、訪問介護利用料金などは公的医療保険が適用になります。
日本の医療保険では、70歳未満は3割負担、70歳以上75歳未満は原則として2割負担で、現役並み所得者に関しては3割負担です。また、75歳以上(後期高齢者医療制度の対象)は原則として1割負担、現役並み所得者は3割負担になります。
また、多額の費用がかかったとしても、高額療養費制度があるため自己負担額は比較的少額で済みます。例えば協会けんぽに加入している場合なら、月の総医療費が100万円だったとしても、年収370~770万円(標準報酬月額28~50万円)であれば、自己負担額は8万100円+(医療費-26万7000円)×1%で算出されますので、自己負担は8万7430円となります。
自己負担するお金
しかし、先進医療にかかる費用や患者申出療養での未承認薬や医療機器を使った治療費や自由診療の費用は健康保険適用外になり、全て自己負担です。
他にも通院のための交通費(ガソリン代を含む)、診断書や生命保険会社への証明書の作成代、入院時の日用品や寝衣代、入院時の個室代や差額ベッド代、入院時の食事代については自分で支払わなければなりません。さらに、医療用ウィッグ、家族の交通費や宿泊費、お見舞いのお返しなどが必要な場合もあるでしょう。
また、がんは治療後の療養生活が長引いたり、進行の具合によっては治療が難しく、補完代替療法として健康補助食品やサプリメントを取り入れたりすることも少なくありません。これらも健康保険の適用外で、月額で数万円単位になる場合もあるようです。
経済的にがんに備えるために
まずは早期発見を
がんになってしまっても、早期に発見し適切な治療を速やかに受けることができれば、それだけ生存率も高まり、早く完治することができます。
がんにならないよう生活習慣を整え、健康に気を配ることはもちろんですが、定期的に検診を受け、早期発見を心がけることは何よりも重要であるといえます。
民間の保険で備える際のポイント
もしがんになったら、最も納得できる治療法を選べるよう、公的な保険以外にも民間の保険で備えておく方法もあるでしょう。
がん保険の選び方としては、多様化するがん治療に対応した保障内容かどうかが大きなポイントです。昔は長期入院によるがん治療が一般的だったため、古いタイプのがん保険には入院給付金が手厚くなっているものがあり、通院による治療が増えている現在では、治療に応じた給付金が得られないケースもあるようです。
また最近のがん保険は、がん診断一時金や入院を伴わない通院治療に対する給付を重視しているものも増えています。診断一時金については、転移による治療を想定して再発についての保障として一定期間経過すれば複数回受け取れるタイプの商品もあります。
さらに、自由診療や緩和ケアなど選択肢が増えている治療に対して保障する商品もありますので、すでにがん保険に入っているので安心だと思っていても、保険内容をしっかり確認し、場合によっては再検討をおすすめします。
相談できるところは?
治療の選択肢の多いがん治療では、かかるお金もケースバイケースといえます。必要になるお金や利用できる制度について、治療が始まる前に調べておくことで、お金に関する心配を軽くすることができれば、より治療に専念できると思います。
公的医療保険などで負担が軽減できるほか、就業や収入の状況に合わせた支援制度もあるので、まずは全国の「がん診療連携拠点病院」や「小児がん拠点病院」、「地域がん診療病院」に設置されている、「がん相談支援センター」に相談したり、各医療機関の相談窓口やソーシャルワーカー、各自治体の相談窓口に尋ねたりしましょう。
まとめ
今回は、最近のがん治療の傾向を踏まえて、がんになったらかかるお金と、その対策についてお伝えしました。
コロナ禍でがん検診を受けるのを控えているという人も多いかもしれませんが、国内の施設では感染症対策に力を入れ、ガイドラインに則って対策をした上でがん検診などを実施しています。まずは定期的にがん検診を受けるところから備えたいですね。
出典
がん情報サービス がんの発生要因
がん情報サービス がんとお金
がん情報サービス 「がん相談支援センター」とは
全国健康保険協会 高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)
執筆者:藤丸史果
ファイナンシャルプランナー