「健康保険証」と「マイナ保険証」はどちらがお得? 来年の秋に向けてメリットとデメリットを解説
配信日: 2023.07.19
また、2024年の秋以降、従来の健康保険証は廃止とされていますが、マイナ保険証に登録している人はまだ国民の半数程度です。
このまま来年秋になって紙保険証が廃止されると、マイナ保険証を持たない人の窓口負担が増えるだけでなく、毎年わざわざ資格確認書(従来の保険証に変わるもの)を発行してもらう手間もかかります。本記事では、マイナ保険証のメリットとデメリットを解説します。
執筆者:二角貴博(ふたかど たかひろ)
2級ファイナンシャルプランナー
マイナ保険証がないとどうなる?
毎年資格確認書の申請が必要になる
マイナ保険証の登録をしていないと、従来の健康保険証が廃止された際には医療機関や薬局窓口でどの健康保険に加入しているかの資格確認ができません。このため窓口では、資格確認書が必要となります。
これは自動で送付されてくるものではなく、原則として本人が申請する必要があるものです。申請の手間がかかる上に、郵送の場合は手元に届くのに時間がかかってしまうので、必要なときにすぐ使用できない場合があります。
窓口で全額負担を求められる可能性がある
マイナ保険証や資格確認書を窓口で提示できないと、かかった医療費全額の負担を求められる場合があります。政府は全額負担しないですむような対策を検討していますが、それでも支払いの際に時間がかかるなど、不安になることもあるでしょう。
マイナ保険証でできること
マイナ保険証がないと困ることを前述しましたが、ここではマイナ保険証でできることを整理します。
従来の保険証より窓口負担が安い
2024年1月からは、図表1のとおりマイナ保険証を使用すると窓口負担が安くなります(3割負担の場合)。
図表1
初診 | 再診 | 調剤 | |
---|---|---|---|
マイナ保険証 | 6円 (6円) |
0円 (0円) |
3円 (3円) |
従来の健康保険証 | 12円 (18円) |
0円 (6円) |
9円 (12円) |
( )内は2023年4~12月までの診療報酬
厚生労働省 マイナンバーカードの健康保険証利用についてを基に著者作成
マイナ保険証を使うと、従来の健康保険証よりも初診と調剤の際の窓口負担が安くなります。
保険証の受け渡しが不要
マイナ保険証は、窓口に設置してある専用システムに本人が置いて手続きするので、受付にマイナカードを手渡す必要がありません。人の手を経由しないので、感染症の防止にもつながります。
診療・薬剤処方情報を医師や薬局に伝えられる
本人の同意があれば、マイナ保険証の機能を使って医師や薬局に対してこれまでの診療内容や薬剤の処方情報を正確に伝えられます。
マイナポータルから自身の医療情報が確認できる
マイナポータルを利用すれば、自身の薬や特定健診などの情報が閲覧できます。
限度額以上の一時支払いが不要になる
従来の健康保険証で一定の限度額以上の負担をしないようにするには、別途、限度額適用認定証の発行を受ける必要があります。マイナ保険証では発行申請をする必要がないので、手続きをすることなく限度額のみの支払いが可能です。
確定申告の医療費控除手続きが楽になる
マイナ保険証を利用すれば、確定申告の際に医療費控除のデータを引用できるので手続きが簡単です。控除に必要な情報は他にもありますが、大部分の情報が反映されるため、かかった医療費等の集計が容易になります。
健康保険証の切り替えが簡単になる
就職や退職しても、その都度、健康保険証を返納して新たに取得する必要がなくなります。マイナ保険証があれば、健康保険制度が変更になっても同じカードをかざすだけで使えます。
マイナ保険証は何が不安?
ここまでメリットを述べましたが、次にマイナ保険証の不安な点を整理します。
使える人が少ない
マイナンバーカードを健康保険証として登録している人は、約6470万人です(2023年7月2日時点)。現時点では日本の人口の半数程度しか登録していないので、制度が浸透していくか、注意していく必要があります。
他人の情報がひも付けられるかもしれない
最近、「マイナ保険証のデータに他人の情報がひも付けられた」と報道されています。他人の情報が閲覧できる状態は不安な上に、誤った情報により医療機関や薬局で正しく手続きできないと困ります。
窓口で読み取れない可能性がある
医療機関や窓口でマイナカードをかざしても、マイナカードの内容が読み取れずに本人と認識されない場合があります。顔写真で認識できなければ4桁の暗証番号や目視での確認を行うことになっていますが、時間がかかってしまうのは避けたいところです。
紛失すると再発行に時間がかかる
マイナカードを紛失すると再発行が必要です。即日の再発行はできない上に、カードの申請時や交付時のいずれかに必ず市区町村の窓口に出向かなければなりません。現在カードの再発行には数ヶ月必要ですが、政府は数日で発行できるように準備を進めています。
5年に1度、更新が必要
マイナ保険証は約5年に1度、更新が必要です。カード自体は10年間有効ですが、健康保険証として利用するための電子証明書は5回目の誕生日ごとに更新が必要となっています。
誰ひとり取り残されない対策を
マイナ保険証は医療事務の効率化と国民の利便性向上などをはかるために導入された制度です。しかし、全国民の利用率が低い状態では、デジタル庁がミッションに掲げる「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」は実現しません。次に挙げるような課題に対し早急な対策が求められています。
従来の健康保険証との併用
2024年秋以降に従来の健康保険証が廃止されると、それ以降は使用できないとされています。医療機関への受診に関わる問題なので、マイナ保険証への移行がすんでいない人やマイナカードの取得が難しい高齢者に対して、廃止の影響を踏まえた対策が必要です。
資格確認書
資格確認書は、マイナ保険証をもたない人が保険証の廃止後も保険診療を受けるために交付される書類です。原則本人による申請が必要で、1年ごとに更新しなければなりません。保険者が必要と認めるときは申請なしでも交付できるとされていますが、必要な人に対してどのように資格確認書を届けるのか、具体的な対策に注目です。
介護施設などでの取り扱い
これまで介護施設などで、従来の健康保険証を保管し必要に応じ通院を介助するサービスを行っている場合がありました。マイナ保険証に切り替わると、これまでどおり施設に預けられるのか、緊急搬送の際はどうするか、受診が必要な際に家族がマイナ保険証を持ってすぐに駆けつけられるのか、検討すべきことが多い状態です。これらは現在、厚生労働省が対策を検討しているとのことです。
また、マイナカードを持っていない高齢者が、介護施設などでどのようにカードの申請を行うのかといった課題に対しても対策を見守っていく必要があります。
マイナ保険証で誰一人取り残さないで
マイナ保険証を利用すると2024年から医療機関や薬局での窓口負担が安くなるのでお得です。持っていないと、窓口負担が高くなるだけでなく、毎年資格確認書の申請が必要で受け取りも面倒になることが予想されます。現状ではマイナ保険証を利用できない人や介護施設に入所している高齢者などが取り残される恐れがあります。政府にはきめ細かい対策が求められています。
出典
厚生労働省 マイナンバーカードの健康保険証利用について
厚生労働省 マイナンバーカードの保険証利用でみんなにいいことたくさん!!
デジタル庁 よくある質問:マイナンバーカードの健康保険証利用について
執筆者:二角貴博
2級ファイナンシャルプランナー