4月からの介護保険料が大幅にアップ? 一体どういうこと?

配信日: 2020.06.05

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4月からの介護保険料が大幅にアップ? 一体どういうこと?
先日の日本経済新聞に、「介護保険料4月上げ 年1万円超の負担増、大企業で続出」という見出しで、「主に大企業で働く会社員の介護保険料が4月から大幅に上がる。年収が高い人に多く払ってもらう仕組みが全面施行され、年1万円を超える負担増になる人が続出する。大企業が中心の健康保険組合の保険料は前年度より700億円増える見通しだ。」と記載されていました(※1)。
 
これは一体どういうことなのでしょうか?そこで今回は、介護保険制度がどのように変わるのかについて解説していきます。
中村将士

執筆者:中村将士(なかむら まさし)

新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー

私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
 
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。

原因は介護納付金における「総報酬割」の導入

平成29年介護保険法改正において、「各医療保険者は、介護納付金を、2号被保険者である『加入者数に応じて負担』しているが、これを被用者保険間では『報酬額に比例した負担』とする。(激変緩和の観点から段階的に導入)」とされました(※2)。
 
「加入者数に応じて負担」を加入者割、「報酬額に比例した負担」を総報酬割といいます。
 
「段階的に導入」とは、介護納付金の負担額のうち総報酬割が占める割合を、平成29年度8月から平成30年度までは「2分の1」、平成31(令和元)年度は「4分の3」、令和2年度は「全面」と、順次導入していくということです。つまり、令和2年4月より総報酬割が完全導入されるということになります。
 
しかし、これだけを見ても、まだあまりピンとこないかと思います。とりあえず分かったのは、どうやら関係してくるのは第2号被保険者のようだ、といったところでしょうか。
 
ちなみに、介護保険の第1号被保険者とは65 歳以上の方をいい、第2号被保険者とは40歳以上65歳未満の方で、医療保険(国民健康保険など)に加入している方をいいます(※3)。国民年金の“第〇号被保険者”とは区別して考える必要があります。

介護納付金の仕組み

そもそも、介護給付費の財源や仕組みって、どうなっているのでしょう?
 
介護納付金とは保険料として支払うお金を指し、介護給付費とは保険金として受け取るお金のことです。厚生労働省によりますと、介護給付費の財源と負担割合は第1号被保険者の保険料22%、第2号被保険者の保険料28%、国庫負担25%、地方自治体負担25%となっています(※2)。
 
そして、第2号被保険者の保険料28%については、全体の介護給付費の28%を第2号被保険者数で割り、1人当たりの保険料額を算出したのち、各医療保険者(国民保険、健康保険組合、共済組合、全国健康保険協会)が被保険者(保険加入者)数に応じて納付金を負担する、というのが、これまでの加入者割の流れでした。
 
加入者割の場合、1人当たりの保険料額の平均に差は生じない、ということになります。この仕組みは一見平等のようにも見えますが、なぜ総報酬割を導入する必要があるのでしょう?

負担割合是正のための総報酬割

厚生労働省の「費用負担(総報酬割)」によりますと、平成26年度の介護保険料率は、全国健康保険協会は1.72%、健康保険組合は1.40%となっています(※4)。「?」となった方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 
先ほど、「1人当たりの保険料額の平均に差はありません。」と述べたばかりです。お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、負担金を分配するとき、考慮されていなかったものがあります。それは加入者の報酬額です。
 
1人当たりの保険料額の平均が同じだとしても、総報酬額が違えば保険料率も変わります。総報酬額が多ければ保険料率は下がり、総報酬額が少なければ保険料率は上がります。それが、先に挙げた「1.72%」と「1.40%」という差を生み出しているのです。
 
つまり、公平性の観点からいえば、不公平である、ということになります。そして、この不公平を是正するために導入したのが、総報酬割ということです。総報酬割を導入すると、保険料率が統一され、経済力に応じた負担となるのです。

負担が増える人、減る人

厚生労働省の資料「平成29年介護保険法改正」の中には、【全面総報酬割導入の際に影響を受ける被保険者数】と題して、平成26年度実績ベースではありますが、「負担増」となる被保険者約1300万人、「負担減」となる被保険者約1700万人とあります(※2)。
 
内訳を見ると、負担増となるのは健康保険組合923万人、共済組合349万人の計1272万人であり、負担減となるのは健康保険組合215万人、共済組合1万人、全国健康保険協会1437万人の計1653万人となっています(※4)。
 
このことから、「4月に保険料が上がって負担が増える!」といっても、それは一部の方の話であり、一方では負担が減る方もいるということが予想されます。

まとめ

メディアはときとして不安を煽るような見出しや記事を書くことがあります。
 
もちろん内容は事実だとは思います。実際、健康保険組合では負担が増える方が多くなっています。ただし、健康保険組合に加入しているのは大企業が中心。総報酬額が多い場合があり、負担増の対象となるのはそういった一部の方です。
 
見落としてはいけないのが、負担が増える方よりも負担が減る方の方が多いということです。では、ご自身はどうでしょうか?
 
メディアやインターネットに記載されたことを鵜呑みにして不要な心配をすることはありません。仕組みをきちんと理解して、情報を正しく取り入れていきましょう。
 
[出典]
(※1)日本経済新聞「介護保険料4月上げ 年1万円超の負担増、大企業で続出」(2020年2月17日)
(※2)厚生労働省「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律のポイント」
(※3)厚生労働省 老健局「公的介護保険制度の現状と今後の役割 平成30年度」
(※4)厚生労働省「費用負担(総報酬割)」(平成28年11月25日)
 
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー


 

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