更新日: 2020.08.07 その他暮らし

コロナで会社が倒産。一般の人も利用できる“未払賃金の立替払制度”って?

執筆者 : 辻章嗣

コロナで会社が倒産。一般の人も利用できる“未払賃金の立替払制度”って?
新型コロナウイルスの影響で会社が倒産し、退職を余儀なくされた労働者も少なくないでしょう。そのような労働者に対して賃金が支払われなかった場合、その未払い賃金の一部を政府が事業主に代わって立替払いする制度があります。

今回は、「未払賃金の立替払制度」について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

会社が倒産、賃金が未払いに!! 労働者を支える「未払賃金の立替払制度」とは?

会社の倒産で退職した労働者。賃金が未払いになったときには、「未払賃金の立替制度」を利用して生活の安定を図りましょう!

1.「未払い賃金立替制度」とは

賃金が未払いとなったときは、本来、労働者本人が事業主に対して支払いの請求を行います。しかしながら、企業が倒産した場合、労働者が直接事業主に請求することは、極めて困難です。
 
そこで、「未払賃金の立替払制度」は、労働者の請求に基づき、独立行政法人労働者健康安全機構(以下「機構」)が事業主に代わり未払い賃金の一部を立替払いし、その後、機構が労働者に代わり事業主に求償する制度です(※1)。
 
【図表1】

2.制度を利用できる人と請求できる期間は

《制度を利用できる人》
この制度を利用できる労働者は、以下の要件をすべて満たしている方が対象となります(※1)。
 
(1)一定の条件を満たす事業主(注1)に雇用され、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者(注2)であった方
 
(注1)労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業で1年以上事業活動を行ってきた事業主
(注2)パートやアルバイトなどを含みます。
 
(2)企業が倒産した日(注3)の6ヶ月前の日から2年間の間に当該企業を退職した方
 
【図表2】

したがって、退職後6ヶ月以内に事業主が倒産手続きをしない場合は、立替払いの対象とはならないことになります。
 
(注3)企業が倒産した日とは、次の日のことをいいます。
法律上の倒産の場合:裁判所へ破産手続開始等の申し立てをした日
事実上の倒産の場合:労働基準監督署長に事実上の倒産認定を申請した日
 
(3)未払賃金などについて証明や確認(注4)を受けた人
(注4)法律上の倒産の場合は破産管財人等の証明、事実上の倒産の場合は労働基準監督署長の確認を受ける必要があります。
 
《請求できる期間》
立替払いを請求できる期間は、企業の破産手続開始日(注5)の翌日から起算して2年以内で、この間に未払賃金の立替払請求書を機構に提出しなければなりません。この期間を過ぎると、立替払いを受けることができませんので注意してください(※1)。
 
【図表3】

(注5)破産手続開始日とは、次の日をいいます。
法律上の倒産の場合:裁判所の破産手続の開始等の決定日または命令日
事実上の倒産の場合:労働基準監督署長が倒産の認定をした日

3.立替払いの対象となる未払い賃金と立替払いされる金額は

《立替払いの対象となる未払い賃金》
立替払いの対象となる未払賃金は、退職の6ヶ月前の日から機構に立替払請求をした日の前日までの間に支払期日が到来している定期賃金(注6)および退職手当(注7)となります。ただ、未払賃金総額が2万円未満のときは対象外となります(※1)。
 
(注6)定期賃金とは、毎月1回以上定期的に決まって支払われる賃金(基本給、家族手当、通勤手当、時間外手当など)のことで、税や社会保険料などを控除する前の額となります。
(注7)退職手当とは、労働協約や就業規則などに基づいて支払われる退職金をいいます。
 
【図表4】

《立替払いされる金額》
立替払いされる金額は、未払賃金総額の100分の80の額となります。ただし、立替払いの対象となる賃金総額には、退職日の年齢によって限度額が設定されており、その限度額を超えるときには、未払賃金総額ではなく限度額の100分の80になります(※1)。
 
【図表5】

退職日における年齢 未払賃金総額の限度額 立替払上限額
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

(※1より抜粋)

4.立替払いの請求手続方法は?

立替払いの請求手続きは、「法律上の倒産の場合」と「事実上の倒産の場合」で異なります(※1)。
 
(1)法律上の倒産の場合の請求手続き
1、立替払請求者は、破産管財人等証明者(注8)に対して、立替払請求に必要な事項についての証明を申請します。
(注8)倒産の区分に応じた以下の証明者を指します。
 
【図表6】

倒産の区分 証明者
破産 破産管財人
特別清算 清算人
民事再生 再生債務者(管財人)
会社更生 管財人

(※1)より抜粋
 
2、破産管財人等の証明者から「証明書」(※2)が発行されたら、立替払請求者は「立替払請求書」(※2)および「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」(※2)に必要事項を記入して、機構に送付します。
 
3、破産管財人等証明者から立替払請求に必要な事項の全部または一部について、証明を得られなかった場合は、立替払請求者は、労働基準監督署長に対して証明を得られなかった事項について確認を申請することができます。
 
【図表7】

(2)事実上の倒産の場合の請求手続き
1、立替払請求者は、労働基準監督署長に対して、当該事業場が事実上の倒産状況にあることの認定を申請します。
 
2、労働基準監督署長から、事実上の倒産状況にあるとの「認定通知書」が交付されたら、立替払請求者は、労働基準監督署長に対して、立替払請求に必要な事項についての確認を申請します。
 
3、労働基準監督署長から確認通知書が発行されたら、立替払請求者は「立替払請求書」(※2)および「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」(※2)に必要事項を記入して機構に送付します。
 
【図表8】

5.立替払金はどのように支払われる?

機構は提出された「立替払請求書」を審査し、支払いが決定した場合には、請求者が指定した請求者本人名義の普通預金口座に、立替払金が振り込まれます(※1)。
 
なお、立替払金は、退職所得として取り扱われて分離課税されますが、「立替払請求書」とともに提出した「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に記入・押印がある場合は退職所得控除を受けることができます。

まとめ

「未払賃金の立替払制度」は、働いていた企業が倒産して、退職を余儀なくされた労働者の生活を維持するための制度です。倒産に伴う未払賃金がある方は、この制度を積極的に利用されることをお勧めします。なお、請求手続などの相談は、機構の「未払賃金立替払相談コーナー」(※1)を利用されると良いでしょう。
 
〈出典〉
(※1)独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払制度のご案内」
(※2)独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金立替払請求書・証明書及び立替払請求における各種届出一覧」
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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