雇用保険の一部改正は副業・兼業では不十分?
配信日: 2021.05.19
このようなことを配慮して、労災保険(労働者災害補償保険)では令和2年9月1日以降、けがをした労働者や病気になった労働者がいた場合、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等が決定することになりました。しかし、雇用保険ではまだまだ不十分なようです。
執筆者:北山茂治(きたやま しげはる)
高度年金・将来設計コンサルタント
1級ファイナンシャルプランニング技能士、特定社会保険労務士、健康マスターエキスパート
大学卒業後、大手生命保険会社に入社し、全国各地を転々としてきました。2000年に1級ファイナンシャルプランニング技能士資格取得後は、FP知識を活用した営業手法を教育指導してきました。そして勤続40年を区切りに、「北山FP社会保険労務士事務所」を開業しました。
人生100年時代に、「気力・体力・財力3拍子揃った、元気シニアをたくさん輩出する」
そのお手伝いをすることが私のライフワークです。
ライフプランセミナーをはじめ年金・医療・介護そして相続に関するセミナー講師をしてきました。
そして元気シニア輩出のためにはその基盤となる企業が元気であることが何より大切だと考え、従業員がはつらつと働ける会社を作っていくために、労働関係の相談、就業規則や賃金退職金制度の構築、助成金の申請など、企業がますます繁栄するお手伝いをさせていただいています。
現行の雇用保険
雇用保険は労災保険とは違い、働く人すべてが被保険者とはなれません。1つの企業で、1週間の労働時間が20時間未満の人、継続して31日以上雇用されることが見込まれない人は被保険者とはなれないのです。
つまり、1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う方は、雇用保険の被保険者にはなれません。例えば、ある労働者がA企業で週16時間、B企業で12時間の計28時間働いても、いずれの企業でも20時間未満であるため雇用保険は適用されないのです。
65歳以降の雇用保険
上記のような不都合を起こさないために、複数就業者等に関するセーフティネットの整備が行われています。これにより、65歳以上の高年齢労働者を対象として、1つ目の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、2つ目の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されます。
この改正が令和4年1月から施行されます。次に挙げる要件のいずれにも該当する者が申し出た場合に、本制度の被保険者となります(今後省令で定める予定)。
(1) 一の事業主における1週間の所定労働時間が20時間未満であること
(2) 二以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること
(3) 二の事業主の適用事業(申し出を行う労働者の1週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間数(5時間とする予定)以上であるものに限る)における1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること
この制度は、あくまで「労働者からの申し出」により適用されるものです。要件に該当する高年齢労働者であれば、自動的に全員雇用保険に加入となるわけではないことに注意が必要です。
もちろん、労働者側から希望があった場合には、事業主はその申し出を不当に拒んだり、申し出をした労働者に不利益な取り扱いをしたりすることは認められません。
しかし、この制度は、60歳未満の方への適用がありません。これが今後の課題となっています。
被保険者期間の算定方法の変更
雇用保険で失業等の支給を受けるためには、離職をした日以前の2年間で「被保険者期間」が通算して12ヶ月以上(特定受給資格者または特定理由離職者は、離職日以前1年間に、被保険者期間通算して6ヶ月以上)あることが必要です。この被保険者期間の参入方法が令和2年8月1日以降次のように変わりました。
改正前は、週の所定労働時間が20時間以上あり、かつ、雇用見込み期間が31日以上ある雇用保険の被保険者の要件を満たしているにもかかわらず、賃金支払いの基礎となった日数が11日に満たないことにより、被保険者期間に算入されないケースがありました。
しかし、改定以降は日数だけでなく労働時間による基準も補完的に認めることになりました。つまり、離職日から1ヶ月ごとに区切った期間に、賃金支払いの基礎となる日数が11日以上ある月、または、賃金支払いの基礎となった労働時間が80時間以上ある月も1ヶ月として計算するようになったのです。
例えば、1月に、1日8時間で10日働いた場合も条件を満たすようになったのです。雇用保険については、今後の改正に注目する必要がありそうです。
(参照)
厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)の概要」
執筆者:北山茂治
高度年金・将来設計コンサルタント