更新日: 2021.11.10 その他暮らし
返済に行き詰まったら、任意整理と自己破産どちらを選ぶべき?
本稿では、借金の清算の選択肢である任意整理と自己破産の比較を試みてみたいと思います。
執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)
株式会社fpANSWER代表取締役
専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。
選べる任意整理と選ぶ余地のない自己破産
任意整理は“任意”というくらいですので、その対象を選ぶことができます。例えば、貸金業者A社とB社は任意整理の対象とするが、クレジットカードC社は対象とはしない、ということができます。
一方、自己破産は任意整理のような選択の余地はありません。債務も資産も、すべてを金銭に換えて債権者に公平に分配することです。ただし、分割払いを続けている携帯電話は日用品として利用できますし、また今後の生活に必要とされる一定額の現金は残せます。自己破産では、選択というよりも、限られた物を手元に残し負債を整理します。
弁護士(司法書士)報酬の比較
弁護士報酬の一例として、国が設置した日本司法支援センター「法テラス」の埼玉事務所の金額を見てみましょう
貸金業者など、貸金業者5社を任意整理の対象とする場合、実費2万5000円・着手金11万円。同じく20社の場合、実費3万円・着手金17万6000円です。
自己破産は、貸金業者5社の場合、実費2万3000円・着手金13万2000円。20社では、実費2万3000円・着手金15万4000円です。
上記の例ですと、数が多いと任意整理のほうが弁護士(司法書士)報酬が高くなります。しかし、法テラスの費用の一覧には、自己破産の管財事件の費用については触れていません。
管財事件とは、自己破産の申し立てをした人が、家などの資産をお持ちの場合に、裁判所が管財人を選任します。管財事件は、先述の法テラスの弁護士報酬とは別に管財人費用がかかります。管財人とは弁護士です。つまり、自己破産でも管財事件の場合は、弁護士報酬が二重にかかるイメージです。
参考までに、これまでの筆者のご相談に基づく弁護士(司法書士)報酬のイメージ(一例)は、任意整理は「着手金2万円+成功報酬2万円」、自己破産は「着手金20万円+成功報酬+管財人費用」です。
自己破産に比べ、裁判所が関わらない任意整理のほうが少額で済む傾向にあるようですが、数が増えると、むしろ自己破産のほうが安くなるようです。
手続きを始めてから、終わるまでの間
任意整理も自己破産も、手続きを始めてから終えるまでの間、返済の請求や督促などを受けることはありませんし、もちろん返済も不要です。
任意整理の場合、手続きを始めてから終えるまでの間は、日常生活において特に制約はありません。しかし、自己破産の場合、手続きが終わる、すなわち免責許可の決定が下りるまでの間、職業選択や住所移転などに制約が生じたり、手紙が届くのに時間を要したりするなど、生活に変化を伴うことがあります。
手続きを終えた後
任意整理の場合、将来の利息が生じることのない、元本のみの新たな返済が始まります。
自己破産の場合、免責許可の決定が下りれば、本人は返済から解放されますが、同時に貸金業者等の債権者は(保証人がいれば)保証人に対し返済の請求が行われます。
そして、任意整理の場合、新たな返済を終えてから、5年または10年もの間、いわゆるブラックリストといわれる、指定信用情報機関に信用情報・信用事故についての記載が載ることになります。
自己破産の場合、免責許可が下りてから、5年または10年間、やはり指定信用情報機関に情報が載ります。しかし、載るのは指定信用情報機関だけではありません。官報にも掲載されてしまいます。皆さんの身近に官報を愛読されている方は少ないかもしれませんが、官報は誰でも閲覧できるため、掲載された情報により影響がまったくないとは言い切れません。
まとめに代えて
本稿では任意整理と自己破産を比較しました。任意整理と自己破産は、それぞれに特徴があります。肝心なのは「手続きを終えた後」ではないかと筆者は思います。お一人おひとりにとってのデメリットも踏まえながら検討してください。
出典
法テラス「弁護士費用・司法書士費用の目安」
裁判所「自己破産の申立てを考えている方へ」
最高裁判所「自己破産の申立てをされる方のために」
裁判所「倒産手続」
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役