更新日: 2022.01.14 その他暮らし

購入したマイホームが引き渡しを受ける前に地震で全壊に! 代金は誰が負担する?

購入したマイホームが引き渡しを受ける前に地震で全壊に! 代金は誰が負担する?
せっかく購入したマイホームが、地震や水害といった自然災害、火災などで全壊または大きな損害を受けた場合、すでに契約済みの代金債務を購入者(買い主)が負担しなければならないのでしょうか?
 
近年の大規模自然災害の発生や大地震の発生予測などを見ると、決してひとごとではないと感じます。ここでは、民法における「危険負担」の考え方について確認してみたいと思います。
高橋庸夫

執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)

ファイナンシャル・プランナー

住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。

売買契約などの双務契約とは

マイホームなどの不動産の売買契約は、契約当事者の双方が義務を負担する「双務契約」といわれます。
 
つまり、売買契約をすると、売り主(不動産会社など)には物件を引き渡す義務が発生し、買い主(購入者)には物件代金を支払う義務が発生しますが、前述のとおり、物件が地震などで全壊となった場合、売り主は物件を引き渡す義務を果たせなくなります。
 
ここで問題となるのは、一方の債務者(売り主)が責任のない(帰責性がない)理由により履行不能となった場合に、他方の債務者(買い主)は自らの義務(代金支払義務)を負担する必要があるのかどうかという点です。
 
このような問題を「危険負担」といいます。
 

「債権者主義」と「債務者主義」

危険負担の捉え方には、債権者主義と債務者主義があります。
 
債権者主義とは、例えばマイホームの売買契約後、買い主への引き渡しの前に、売り主に帰責性のない理由で物件が滅失したような場合、債権者(買い主)が代金支払義務を負担するいう考え方です。逆に、同様のケースで債務者がリスクを負担することを債務者主義といいます。
 
民法においては、基本的には債権者主義が原則であるとされていました。ただし、一般的には弱い立場である買い主(個人の一般消費者など)が自分に責任がないにもかかわらず、建物が滅失した場合に代金支払義務を負わなくてはならないのは常識的ではないとされています。
 
そのため、一般的には売買契約書の中に、当事者間で合意した基準時点(例えば、引き渡し時、決済時)の前までに建物が滅失した場合には、代金支払債務を消滅させるとの取り決めが記載され、民法とは別に特約によって買い主を保護する方法がとられていました。
 

民法改正後の対応

このような危険負担の取り扱いについては、2020年4月施行の改正民法において、あらためて定められています。改正の主なポイントは以下の2点です。
 

(1)反対給付債務の履行拒絶権

前述のとおり、危険負担の取り扱いは債権者主義を基本としながらも、売買契約書などの特約によって、一定時点までのリスクは債務者(売り主)が負担することを記載して運用していました。
 
これを改め、民法において「債務者の危険負担等」について、債権者の反対給付債務(代金支払債務)の履行を拒むこと(履行拒絶権)ができると規定されました。
 
つまり、売買契約書などに記載がない場合であっても、買い主は代金支払債務の履行を拒むことができます。さらに、買い主は売り主の債務不履行に基づく契約の解除権を行使できることになります。
 

(2)危険の移転は「引き渡し時」

これまでは、売買契約書において当事者双方が合意した基準時点で危険が移転することが一般的でした。
 
改正民法では、売り主から買い主への危険の移転時期を「引き渡し」があったときとすると規定しました。つまり、買い主への引き渡し以後に発生した当事者双方に帰責性のない理由の損傷については、売り主はリスクを負わないこととなります。
 

まとめ

不動産の売買取引などにおいては、契約締結時、決済時、物件の引き渡し時などが別日に設定されるケースも多く、それぞれタイムラグが生じます。その間に万が一、当事者双方に帰責性のない理由で物件が損傷した場合のリスク負担の考え方を危険負担といいます。
 
日本は、さまざまな自然災害がいつどこで起きても不思議ではない状況です。万が一の事態に備え、危険負担の考え方や売買契約書の記載内容を理解しておくことは、不動産を購入する上では極めて重要な心得となるでしょう。
 
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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