更新日: 2022.06.09 その他暮らし
教師は「残業代未払い」でもストライキ「禁止」!? 公務員の「人権保障」は不十分?
ここでは公務員の労働基本権がどのように制約されているのか、人権保障が不十分なのかを解説していきます。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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労働基本権とは
労働基本権とは日本国憲法第28条で定められている労働者の権利で、「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の3つの権利です。「労働三権」とも呼ばれています。
団結権は、労働組合を作ったり加入したりできる権利です。労働組合があると雇用者と対等の立場で話し合いができるようになります。団体交渉権とは、労働組合が雇用者と労働条件の相談をし、取り決めたことを文書に残すことができる権利です。
団体行動権はストライキをする権利のことです。雇用者と労働組合の間で労働条件の合意が見られない場合、労働者が団結して仕事をしないことで抗議をすることが認められています。
公務員の労働基本権は制限されている
警察職員・消防職員・海上保安庁職員・自衛隊員・刑務所職員には団結権もなく、労働三権が認められていません。国家公務員や地方公務員の多くは、労働基本権のうち団結権は認められているものの団体行動権はなく、団体交渉権では制約を受ける人もいます。
教職員の場合、団結権と団体交渉権はありますが、団体行動権はありません。団結権については認められていますが、人事院や人事委員会に登録をした団体のみが申し入れを行えることになっています。
また、団体交渉権には保障されていますが、団体協約を締結できません。団体行動権については、国家公務員法や地方公務員法で禁止されていて、万が一教職員がストライキを起こした場合には行政処分の対象となります。
公務員の労働基本権が制限されている理由
日本で公務員の労働基本権が制限されている理由は、日本の主権は国民であって公務員は国民や公共の利益のために働く全体の奉仕者だからです。公立の学校は日本国憲法第26条にある国民が教育を受ける権利や、親が子どもに教育を受けさせる義務を遂行するために欠かせない存在と言えますし、ストライキを起こせば住民に大きな影響を及ぼしてしまいます。
公務員の労働基本権への考え方を示した判例として最も有名なのが、1973年の全農林警職法事件の判決です。この事件は、警察官職務執行法の法案に反対する全農林の労働組合の職員が、当時の農林省の職員に対してデモへの参加を強く求めたことが、公務員が争議行為を起こすのをあおる行為を禁止している国家公務員法に反するとして、全農林の労働組合の職員が起訴された事件です。
最高裁判所は判決の中で憲法28条に定めている基本権は公務員にも及ぶものの、地位や職務の特殊性を考えると公務員は私企業に勤めている労働者と同じように労働基本権が認められるのではなく、労働基本権の制約を受けるとの考えを示しました。また、公務員の争議行為を禁止している国家公務員法や地方公務員法の規定は、憲法第28条には反しないという立場を示しています。
一方、世界的に見ると、警察職員や消防職員を除いて、公務員に労働基本権を認めている国が増えつつあります。ILO条約には公務員の労働基本権に言及したものがあり、ILOはこれまでに条約批准国である日本に対し、数回にわたり、公務員の労働基本権を求めるよう勧告を出しています。
公務員にも労働基本権の保障は及ぶが制約を受ける
ヨーロッパには公務員に団体行動権を認めている国もありますが、日本では公務員に団体行動権を認めていません。判例では、労働基本権は公務員にも保障されることを認めつつも、国民や公共の福祉のために働く公務員は労働基本権の制約を受けるとしています。なお、残業代が未払いなどの不服がある場合は、国家公務員の場合は人事院、地方公務員の場合は人事委員会に申し立てを行います。
出典
ABCニュース 教職員ストライキの和歌山南陵高校理事長が退任の意向未払いの給与は「新理事長の寄付をもとに支払う」
日本労働組合総連合会 働く人の権利とは?
連合ダイジェスト 公務員の労働基本権を考えよう
総務省 公務員の労働基本権
滋賀県 公務員の労働基本権の制約
人事院 労働基本権と人事院勧告の意義
国際労働機関 1949年の団結権及び団体交渉権条約(第98号)
文部科学省 日本国憲法(条文抜粋)
日本自治体労働組合総連合 公務員の労働基本権でILOが10度目の勧告 公務員の労働基本権の保障を「重ねて強く要請する」
人事院 諸外国の国家公務員・地方公務員の労働基本権について
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部