更新日: 2022.06.09 その他暮らし

あと4年でなくなる方向らしい。「約束手形」って、そもそも何?

あと4年でなくなる方向らしい。「約束手形」って、そもそも何?
「約束手形」と聞いても、今やピンとくる人は多くないかもしれません。あまり身近な存在ではないうえに、2026年までに利用廃止する動きがここのところ進んでいます。約束手形とは何か、そしてどうして廃止の方向なのか。おさらいしてみましょう。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

「約束手形」は、どんなものなの?

個人の日常生活で約束手形に関わるような機会は、たぶんないでしょう。「小切手」ならば触れたことがある人がいるかもしれません。どちらも、それ自体は“紙切れ”ですが、現金の代わりになります。
 
違うのは現金化できるタイミングで、小切手はすぐなのに対して、約束手形は一定期間先になります。どちらも銀行の口座を通して現金化することになりますが、法律(手形法や小切手法)で銀行間(=手形交換所)を介した資金決済機能を付与している。だからこそ、“紙切れ”が現金の代わりになりうるのです。
 
資金決済できる権利があるからには、もちろん所定の要件(必要的記載事項)を漏れなく記載するなどの義務があります。
 
では約束手形とは、具体的にどんなものなのか。【図表1】をご覧ください(※1)。
 


 
【図表1】が、振出人(キツツキ工務店)が材木の仕入れ代金支払いのために受取人(ゴリラ木材)に対して発行(振り出し)したものだと仮定してみましょう。手形振り出しによって仕入れ代金は支払った形になりますが、実際に資金を用意するまで3ヶ月ちょっとの猶予期間が生まれます。
 
この材木仕入れ代金を銀行から借り入れてすぐに支払おうとすれば、金利がかかります。一方、もしもこの期間内に、例えば完成した住宅の建築工事代金が入金されてくる予定が決まっていれば、約束手形を振り出しても将来の資金決済に懸念はなく、金利もかかりません。このように資金繰りを効率化できるわけです。
 

受取人の視点では、どうなの?

逆に、約束手形を受け取った立場ではどうか。【図表1】で1000万円もの大金は3ヶ月以上も先まで手にすることができません。
 
「裏書」という手続きをすることで受取人がこの約束手形を別の相手先への支払いに使うこともできますが、万が一振出人が資金決済できなかった場合には、代わりに決済しなければならないリスクがあります。
 
また、支払期日前に銀行などに買い取ってもらう「手形割引」というやり方もありますが、金利や手数料がかかるため、手取り金額は額面よりもかなり目減りすることになります。
 
かなりざっとした説明ですが、振出人にとって支払い自体は済ましたことになる一方で、実際に資金を用意して決済するタイミングを遅らせることができる。しかし、受取人にすれば、満額を手にするには時間がかかる。その前に処分や現金化をするためには、リスクや目減りが付きまとう。
 
もちろん、逆に振出人のデメリットや受取人のメリットがないわけではありませんが、約束手形の上記のような特徴は、やはりどちらかといえば振出人には都合よくて受取人には不都合のように感じられませんか。
 
振出人と受取人の両者が合意しているからこそ、約束手形の受け渡しがされている。形のうえでは確かにそうですが、約束手形での支払いが取引してもらう条件だった。それを了解してくれないと今後の仕事を出せなくなるかもしれないよ。こうした両者の“力関係”の結果だった場合だってあるでしょう。
 

まとめ

「大企業と下請中小企業との取引の更なる適正化」をキーワードにした「取引適正化に向けた5つの取組について」(※2)。今年・2022年2月22日に首相官邸で開催された中堅企業・中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議で審議されました。
 
この中で「約束手形の2026年までの利用廃止への道筋」の方針が確認されて、具体的に動き出す方向となったのです。
 
今や約束手形(小切手もそうですが)は、資金決済や資金調達のツールやネットワークが現在のように整備され充実していなかった頃の遺物といった印象があります。一部電子化されているとはいえ、金融の世界での古い「紙媒体」の代表格の1つなのかもしれません。
 
かつての時代劇スター。悪役か善玉かはともかく、このところ出演機会はめっきり減り、視聴率(=取引所での流通高)の数字もあまり稼げない。そこに新しいテーマ(=「ペーパーレス」や「下請けいじめ排除」など)が追い打ちをかけて、引退を余儀なくされる。これも順送り、世の流れなのか……。
 
今回のニュースを聞いたとき、そんなイメージが頭をよぎりました。
 

出典

(※1)一般社団法人全国銀行協会「手形・小切手のはなし」~「手形・小切手の基礎知識」(引用などの箇所は、11ページおよび12ページの各一部)
(※2)首相官邸「政策会議」~「中堅企業・中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」~「第3回 中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ 議事次第」~「取引適正化に向けた5つの取組(2月10日)について」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士
 

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