弁護士が解説。離婚したときに行うお金の手続き
配信日: 2022.06.22
離婚をするときには、さまざまな手続きが必要となります。家庭の状況により行う手続きは変わりますが、財産分与や年金分割、住宅ローンなどお金に関する話題を中心に、いくつかの主な手続き・ケースを、FP兼弁護士がご紹介します。
執筆者:佐々木達憲(ささき たつのり)
京都市役所前法律事務所弁護士
相続・事業承継を中心とした企業支援と交通事故が主要対応領域。弁護士としての法律相談への対応だけでなく、個人投資家兼FPとして、特に米国株投資を中心とした資産運用に関するアドバイスもご提供。京都を中心する関西圏に加え、毎月沖縄へも通っており、沖縄特有の案件も数多く手掛けている。
結婚期間中に作った財産の分配 ―財産分与―
(1)財産分与とは
夫婦が結婚し、共同生活をしていた間に形成された財産を分配することで、離婚をした当事者のうち、一方(夫または妻)がもう一方に対して、自身の取り分を請求することによって、分配が実現されます。
ちなみに、相続が発生した際の相続財産を分け合うことについて、誤って財産分与という言い方をする方がいらっしゃいますが、それは「遺産分割」の間違いです。
(2)どうやって手続きをすればよいか
まずは協議をして内容を決します。協議が調えば、財産分与の協議書を作成します。協議が調わない場合は、家庭裁判所での調停、あるいは審判という手続きで決することになります。
また、財産分与の点だけでなく、離婚の可否自体を争って裁判をしている夫婦の場合は、離婚裁判の中で財産分与について取り決めるケースもあります。
財産分与の比率については、多くのケースでそれぞれ2分の1ですが、事案によっては、さまざまなことを総合考慮した結果、異なる比率となることもあり得ます。
(3)財産分与をすると、どのようなことができるか
財産分与は、結婚期間中に形成された夫婦の共同財産すべてが対象ですので、積み重なった預貯金などのお金だけでなく、結婚期間中に購入した不動産なども対象とされます。
通常、名義が夫婦の共有、あるいは夫婦のうちいずれか一方となっているはずですが、財産分与の結果、名義を変える必要がある場合は、協議書や調停・審判等の結果が記載された書面を基に、法務局で登記の手続きをします。
(4)いつまでにすればよいのか
離婚の際に条件の1つとして、財産分与に関し定めておくこともできますし、離婚をした後に改めて、財産分与について請求することも可能です。ただし、離婚から2年間が経過すると、家庭裁判所への申し立てはできなくなりますので、ご注意ください。
(5)税金について
財産分与でもらった財産については、基本的に贈与税等の税金はかかりません(不動産の名義変更をした場合の登録免許税などは別)。
ただし、税金逃れのためにあえて離婚と財産分与をしたようなケースはもちろんとして、通常分け合うべき財産を大きく超えてもらい過ぎているようなケースでは、贈与税が課されることもあります。
(出典:国税庁 No.4414 離婚して財産をもらったとき ※2)
結婚した時期によって手続きが異なる ―年金分割―
(1)年金分割とは
夫婦が離婚する際に、結婚していた期間中に支払っていた年金保険料に応じて、厚生年金や共済年金の、結婚期間中に比例する部分を分け合う制度です。
会社員が加入する厚生年金や公務員が加入共済年金という、いわゆる2階部分だけが対象となり、国民年金(1階部分)や確定給付企業年金、確定拠出年金、国民年金基金、厚生年金基金(3階部分)は、対象とはならないことにご注意ください。
(2)合意分割と3号分割
手続きについては、2008年4月以前に結婚しているか、それ以降に結婚しているかによって、大きく変わってきます。
前者は、2008年4月以前に支払ってきた保険料に対応する部分については、夫婦の合意により分け方を定める必要があります。これを「合意分割」といいます。一般的に0.5ずつに分けることが多いですが、話し合いで合意をすることができない場合、調停や審判で分け方を決めなければなりません。
後者は、国民年金第3号被保険者[専業主婦(夫)や、扶養の範囲内のパートタイマーなど]であれば、合意が調わなくても、所定の必要書類を年金事務所に提出さえすれば、0.5の割合で年金分割を請求できることになります。
(3)いつまでにすればよいのか
年金分割についても財産分与と同様、離婚時に取り決めておくこともできますし、後から合意・請求もできます。
ただし、離婚をした日の翌日から2年間を経過すると請求できなくなりますので、ご注意ください。
悩ましい問題 ―住宅ローン―
離婚をした後の、住宅ローンの問題はとても悩ましいものです。財産分与により、ローン名義人とは異なる側が住宅を所有し住み続けるケースで、特に問題となります。
住宅をもらって所有することになる側が、十分な収入を有するのであれば問題は解消するかもしれません。この場合は、ローンを組んでいる金融機関がローン名義人の変更に応じると思われるからです。
問題は、十分な収入を有しない人物へ名義を変えるケースです。この場合、金融機関はローン名義人の変更に同意をしてくれない可能性が高くなります。
例えば、金融機関に黙って名義を変更、あるいは名義を変えずに相手方当事者を住宅に住まわせ、従前どおりに住宅ローンを元来の名義人が支払っている、というケースもあるかもしれません。
しかし、住んでもいない住宅のローンを支払うというモチベーションがいつまで続くかわからず、元来の名義人がローンの支払いをしてくれなくなるという可能性も考えられます。十分な収入もないのに住宅に住む側としては、いつローンの支払いが滞り、自宅を追い出されるかわからない、とても不安定な地位におかれることになります。
また、金融機関の承諾なく名義あるいは所有者・居住者を変更することは、ローンを組んだ際の金融機関との約束に反することが一般的です。ローンの支払いが滞りなく続く限り、金融機関は何もいわないかもしれませんが、弁護士としては、約束に反する行為をするのは是とすることができず、推奨はできません。
やはり、離婚後も十分な収入があることを前提として、住宅の財産分与は執り行うべきだと思います。
出典
(※1)生命保険文化センター 離婚件数が増えているというのは本当?
(※2)国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問)より No.4414 離婚して財産をもらったとき
執筆者:佐々木達憲
京都市役所前法律事務所弁護士