更新日: 2022.06.30 その他暮らし
企業は「値上げ」をためらっている? 日本の現状と資産防衛の必要性
円安や物流混乱による材料価格などの高騰が経済活動の重しとなる状況下、コスト上昇分をどの程度、販売価格に転嫁するかについては企業ごとに方針が分かれているのが現状です。
本記事では企業による価格転嫁が足元でどの程度まで進んでいるのかを紹介した上で、企業が値上げに踏み切った場合と、価格を維持した場合とで消費者生活への影響にどのような違いが生じるかについて解説していきます。
執筆者:北川真大(きたがわ まさひろ)
2級ファイナンシャルプランニング技能士・証券外務員一種
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
証券外務員一種
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企業の物価と消費者物価の動向
日本銀行が公表する企業物価指数と総務省が公表する消費者物価指数を比べてみますと、両者の間に乖離が見て取れます。
図表1 企業物価指数と消費者物価指数(2022年4月)
出典:日本銀行、総務省の資料より筆者作成。輸出入物価指数は円ベース
図表1の通り、輸入物価指数は円安の影響を受け、契約通貨ベースで前年同月比+29.7%となっています。原材料を輸入して商品を提供している企業にとっては負担が特に大きくなっている現状が伺えます。
一方、消費者物価指数は前年同月比で+2.5%にとどまります。企業物価指数と消費者物価指数の比較からは、企業が売り上げの悪化を恐れて値上げをためらっている状況が読み取れます。
価格維持が消費者に与える影響は
ここで注意したいのが、「企業努力」によって値上げを見送ることが、消費者の生活を守ることにつながるかということです。
企業が値上げに踏み切った場合と、価格を維持した場合とで、消費者の生活にどのような影響があるかについて考えてみましょう。
値上げした場合
企業が値上げしますと、原材料コストの一部は価格に転嫁されます。日本は2022年6月5日現在、1ドル=130円84銭まで円安が進んでいるため、状況変化が生じない限り輸入物価は高止まりが予想されます。
一口に値上げと言っても、重要なのはその幅です。いきなり数十%の規模で価格を引き上げることは現実的ではないため、円安が急激に進行した足元の状況では、値上げ幅がコスト上昇分を十分に吸収するのに相当の時間がかかると考えられます。
したがって、たとえ企業が値上げに踏み切ったとしても、従業員の給料水準を引き上げることは簡単とは言えません。給料が上がらないまま値上げが進めば、結果的に消費者の生活は圧迫されることになります。
値上げをためらい続けた場合
企業が値上げをしなかった場合には、企業努力によるコスト削減の効果には限界があるため、コスト高は収益悪化に直結します。
最終的には、従業員の減給や賞与カットといった方法が、財務状況を維持するための現実的な選択肢となります。収入減少により生活が苦しくなる消費者が増えれば、モノが売れなくなり、値上げしづらい状況が続くという悪循環に陥ります。
値上げ対策は自己防衛が基本
「コストプッシュ型」の物価上昇が続く状況下では、ここまで解説した通り、企業が値上げに踏み切る場合も価格維持を図る場合も、消費者が将来的な生活状況について楽観視することは難しくなります。
商品価格が上がりながら給料水準が変わらないのであれば、自主的な資産防衛によって対策する必要性がいっそう高まります。節約によって支出を見直したり、副業などによって収入源を増やしたりといった工夫で、経済状況の変化に関わらず生活水準を維持できるよう、できるだけ早い段階から対策を始めましょう。
出典
日本銀行 企業物価指数の公表データ一覧
総務省統計局 2020年基準 消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)4月分(2022年5月20日公表)
大和証券 金融・証券用語解説 [コストプッシュインフレ]
執筆者:北川 真大
2級ファイナンシャルプランニング技能士・証券外務員一種