更新日: 2022.08.03 その他暮らし

家庭への増税の可能性あり? 世界的に取り組まれる脱炭素に向けた取り組み

家庭への増税の可能性あり? 世界的に取り組まれる脱炭素に向けた取り組み
地球環境を保護するために、二酸化炭素の排出量に価格をつける「カーボンプライシング」が、先進国を中心に取り組まれています。
 
カーボンプライシング制度には、炭素税があり、二酸化炭素の排出量に応じて課税する税金が制度の1つに入っています。つまり、家庭で使われている電気やガス、水道、灯油、ガソリンなどに課税される可能性があります。
 
本記事では、脱炭素に向けた世界的な取り組みや日本におけるカーボンプライシング導入の可能性について解説します。
古田靖昭

執筆者:古田靖昭(ふるた やすあき)

二級ファイナンシャルプランニング技能士

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングは、炭素に価格をつけて、排出している人の行動を変えるために行う仕組みです。
 
地球の気候変動の要因は、温室効果ガスの発生によるもので、温室効果ガスは二酸化炭素やメタンなどの排出によって発生しています。世界では温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みが行われています。
 

カーボンプライシング制度の各国の導入状況

2021年4月現在の世界銀行の調べによると、世界64の国と地域において、カーボンプライシング制度が導入され、そのうち、炭素税は35の国と地域、排出量取引制度は29の国と地域で導入されています。EU加盟国など先進諸国を中心に導入の動きが広がっています。
 

カーボンプライシングの分類

カーボンプライシングは、明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングの2種類があります。
 
明示的カーボンプライシングには、「炭素税」と「排出量取引」があり、どちらも「明示的」、つまり目に見えるように価格をつけることによって、炭素の排出量に応じた負担をさせる手法となります。
 
暗示的カーボンプライシングは、化石燃料などに課税する「エネルギー課税」や特定の製品などに関する「補助金や税制優遇」、電気事業者に一定期間に一定の価格の買い取りを義務付ける「固定価格買取制度」があります。
 

炭素税とは?

炭素税は、炭素を排出した企業などに対して、排出量に応じた課税をする税金です。もし企業だけではなく、家庭にも導入される場合、家庭で使われている電気やガス、水道などに課税されることになります。
 
もし、炭素税が導入されれば、脱炭素に向けた政策推進の財源として活用されることになるでしょう。
 

カーボンプライシングの日本の導入は?

世界の先進国を中心にカーボンプライシング制度が導入されている中、日本では「議論」が展開されている段階です。
 

経済産業省と環境省の議論

日本では、経済産業省に2021年2月から研究会が設置され、環境省では2019年7月から小委員会を設け、2021年8月にそれぞれの省から中間整理として発表されています。
 
中間整理では、経済産業省が排出量取引やクレジット取引に関する内容が中心で、環境省は、炭素税や排出量取引の必要性について整理しました。
 

内閣官房に設置された気候変動対策推進室

脱炭素を主導的に行うのは環境省で、産業界を説得する役割が経済産業省になりますが、カーボンプライシング導入に向けては2つの省の「溝」が深くなったことで、政府の気候変動対策を統括するために2021年3月、「気候変動対策推進室」を内閣官房に設置しました。
 
室長は、財務省から新川浩嗣(しんかわ・ひろつぐ)財務大臣官房総括審議官(当時)が兼務し、経済産業省と環境省の中立的立場の財務官僚として起用されたものとされます。
 
内閣官房において同じく2021年3月に「気候変動対策推進のための有識者会議」が設置されました。2021年10月に有識者会議の報告書が出され、気候変動対策の世界の事例や、脱炭素に向けた取り組みの必要性などを報告しています。
 
カーボンプライシング制度は、世界銀行の報告によれば、世界の温室効果ガスの約21.5%をカバーしており、炭素税のみを導入する国や排出量取引制度のみを導入する国、または両方を導入している国もある状況です。
 
ヨーロッパでは、2005年に世界で最初となる欧州連合(EU)域内の排出量取引制度が導入されました。業種は、発電や石油精製、製鉄などで、導入にあたり試験的導入期間、目標値の設定、排出権取引をオークションでの市場購入形式の強化、排出枠の年間削減率の引き上げといった段階を踏んで行っています。
 
中国でも、石炭や火力発電を行う発電事業者のみを対象に排出量取引制度を2021年から開始しました。
 

脱炭素に向けた政策

脱炭素に向けた政策として、日本銀行が「気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション」の実施をしています。また、内閣府に設置されている経済財政政策について審議する経済財政諮問会議において、「経済財政運営と改革の基本方針2022」が策定され、2022年6月7日に閣議決定されました。
 
経済財政運営と改革の基本方針2022では、岸田内閣総理大臣が掲げる「新しい資本主義」の重点投資分野として、脱炭素社会の実現に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)への投資が盛り込まれています。
 
世界の国々で導入されているカーボンプライシング制度の日本国内での導入は、現在のところ議論はされているものの、導入するまでには至っていないといえるでしょう。
 

出典

環境省 カーボンプライシング
国際連合広報センター 気候変動とは?
独立行政法人日本貿易振興機構 世界で導入が進むカーボンプライシング(前編)炭素税、排出量取引制度の現状
環境省 カーボンプライシングの意義
環境省 炭素税について
経済産業省 「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」の中間整理を取りまとめました
環境省 カーボンプライシングの活用に関する小委員会
内閣官房 気候変動対策推進のための有識者会議
日本銀行 気候変動対応を支援するための資金供給オペ
内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2022について
 
執筆者:古田靖昭
二級ファイナンシャルプランニング技能士

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