更新日: 2019.01.11 その他暮らし

身近な電気の話㉝ 陸上から洋上へ、風力アラカルト

執筆者 : 藤森禮一郎

身近な電気の話㉝ 陸上から洋上へ、風力アラカルト
風力発電に対する期待が高まっています。日本では太陽光に比べ、開発のスピードが遅い感じもしますが、政府も再生可能エネルギーの主軸に位置づけ、風力発電に熱心に取り組み始めました。

しかし、まだまだ近くて遠い風力です。
藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

風力発電のエネルギー

風力ではどのくらいのエネルギーが得られるのでしょうか。風のエネルギーは、空気の移動エネルギーです。専門家によると、大きさは風が通過するプロペラの面積(回転翼面積)に比例し、風速の3乗に比例します。
 
数式で表すと、、、風のエネルギー=空気密度×風の通過面積×風速の3乗×1/2となります。
 
風の運動エネルギーを風車の回転エネルギーに変換して取り出す際の効率は「風車効率」と呼ばれ、理論上は0.583を超えないことが知られています。
 
これらを前提に計算すると、年間平均風速が毎秒7m程度の場所に2000kW級の風車を1台建てると、年間の発電量は約500万kW時となり、一般家庭1000世帯分の消費電力量に相当します。
 
風力発電は風況が通年で安定しているところで、大きなプロペラを回すと風のエネルギーをたくさん受け止められ発電の効率が良いのです。1980年代当初は数百kWの小型風車でしたが、技術も向上し年々スケールアップ、最近ではメガワット(1000kW)級の風力が主流になってきました。
 
しかも、数十基以上が集中立地するウインドファーム型の発電所群が多いです。
 
立地場所が、陸上から洋上に移行して、この傾向はさらに拍車がかかっています。太陽光に次ぐ、再生可能エネルギーの主役として期待されている、風力発電に関する情報をアラカルトで紹介しましょう。
 

世界の風力発電

世界風力協会のデータによると、世界の風力発電は2016年末で、33万台・4億8700万kWの設備が運転しています。これは、単純に比較すると日本の全部の発電設備量の2倍以上に相当します。
 
16年に新しく建てられた風車は約3万台・5500万kWで、米国でペースがスローダウンしたこともあり、前年より年間着工量が減りましたが、それでも風力開発熱は旺盛で、3年連続して年間500万kW以上の着工となっています。
 
世界規模では、過去15年間で発電設備量は20倍に増えました。これだけの風車が回っていますが、世界で発電された全体の発電量のなかで、風車が供給した電力量は4%に達しています。
 

世界で一番大きい風力発電所

ナンバーワンは中国甘粛省にあるGansu Wind Farmで、現在設備出力は合計795万kW(将来は2000万kWを目指している)です。発電設備の規模だけで比較すると、日本で一番大きな発電所(東京電力・柏崎刈羽発電所821.2万kW)とほぼ同じ大きさですね。
 
立地条件などが異なりますから、単純な比較に意味はありませんが、日本で最大の発電所は2017年に完成した三重県にある青山高原ウインドファームで、設備容量は8万kW、世界最大規模の100分の1の規模で、風車の数は40基です。それでも壮観です。
 
立地場所が陸上部から洋上へ移行するに従い、機器の大型化・集中化が進んでいます。そのほかはどうでしょう。
 
中国以外では米国カリフォルニア州のAlta Wind Energy Centerの159万kW(600台)、米国オクラホマ州Wind Catcher projectの200万kW(800台 2020年運開)、などがあります。
 
日本は三重県にある青山高原ウインドファームの8万kW(40台)です。
 
近年急成長している洋上風力発電は、いずれもイギリスの発電所で、1位はLondon Arrayの63万kW(175台)、計画中ではHornsea1の120万kW(174台)、Hornsea2の180万kW(台数未定)などがあります。
 
風車の回転翼(ブレード)の大きさで見ると、陸上では60mが主流になっていますが、最大のものは洋上用のものです。フランスのAD180向け回転翼は直径が180mで、ブレードの長さは88.4mで世界一ですが、まだ実用にはなっていません。ベースロード電源の原子力発電用のタービンの直径がおよそ10mですから、本当に大きいですね。
 

陸は飽和状態 欧州では海へ

風力発電が、再生可能エネルギーとして本格的に登場してきたのは1990年代からです。オイルショック後、新エネ開発で日本は太陽光に、ドイツは風力に的を絞り技術開発が進められてきました。
 
欧州では、風力が石油に代わる地域エネルギーとして産業振興に役立つ電源と着目し、チェルノブイリ原発事故や福島原発事故の影響もあって、風力開発に拍車がかかっています。オランダの水車に象徴されるように、緯度が高く、日照時間が少ない欧州では太陽光より風力の方が利用しやすいのですね。
 
初期の段階は陸上で実用化が進められてきました。しかし、陸上での用地取得が困難になり、機器輸送の面からも大型化が限界に近づいてきたので、欧州では開発の主力は「洋上風力」に移行しつつあります。ドイツ、デンマーク、イギリスなど北海とバルト海に面した国々で盛んです。
 

石油・ガス田の20世紀、風力の21世紀

穏やかな偏西風が、年間を通じて吹き抜けている北海は欧州にとっては宝の海です。広大な大陸棚で数十km先まで水深が15〜30mの遠浅で、風力開発には打ってつけです。
 
残念ながら、日本にはこのような遠浅の海域はありません。海溝が迫っています。北海の面積は日本国土面積の2倍以上もある広さです。
 
イギリス、フランス、オランダ、ベルギー、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーが北海を取り囲んでいて、それぞれ国が風力発電基地として活用し始めています。
 
石油危機後の20世紀は、北海といえばイギリス、ノルウェーで石油・ガス田開発が盛んでした。しかしピークは過ぎてしまい、いま北海は、欧州の風力エネルギー基地に変容しつつあります。
 

洋上風力には、着床式と浮体式が

風力の発電能力(出力)は風車の回転面積と風速の3乗に比例しますから、地形や障害物の影響を大きく受けない洋上は、大規模開発に向いているのです。
 
欧州で普及してきた洋上風力は、基礎部分を海底に固定してそこに風車を固定する着床式と呼ばれる方式です。
 
この方式は、北海のように水深が30〜50mの遠浅の洋上に向いています。それ以上の水深では建設コストが増大するため、風車を海底に固定せずに係留する浮体式が適しているといわれ、欧州ではノルウェー、ポルトガルなどで開発が進んでいます。
 
水深の深い日本では、規制緩和も進み、今後進められる洋上開発は浮体式が中心になると見られています。
 

スピードは新幹線並み

風車を遠くから眺めると、風を受けゆったり優雅に回っている姿は、太陽から注がれる自然のエネルギーを利用しているのだな、と実感できます。
 
再生可能エネルギーとして利用していくためには、発電コストが課題です。まだ初期の段階ですから高コストですが、実用化が進みコストは着実に下がってきており、すでに欧州や中国では火力発電所より安くなってきています。
 
風力発電では発電能力の指標として、一般的には設備利用率が用いられます。1年間、定格出力で運転した場合の電力量(理想電力量)に対する実際の発電電力量の比率のことです。設備利用率が高くなればその分、発電量も増えてコストも安くなります。
 
浮力の泣き所は気象によって運転が左右されることです。風力の設備利用率は一般的には20%程度といわれています。
 
火力発電や原子力発電の70〜80%に比べると低いですが、夜間でも発電するので、昼間しか発電できない太陽光(12%程度)よりも設備利用率は良く、安定感があります。
 
しかし、電力需要が少ない夜間発電に特別な対応が求められます。供給過剰の心配があるからです。
 
ところで優雅に見えるブレードですが、回転速度を想像したことがありますか。ブレードの先端部速度は定格運転時では時速300kmほどに達します。
 
新幹線並みです。このため風車音やバードストライクなど、環境問題も発生してきています。それらが住宅密集地域での実用化が困難な理由でもあります。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト

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