更新日: 2022.11.16 その他暮らし

新宿駅からわずか70分! 意外と近くにある大赤字ローカル線とは?

執筆者 : 上野慎一

新宿駅からわずか70分! 意外と近くにある大赤字ローカル線とは?
今年・2022年7月下旬、JR東日本がローカル線の収支状況を初めて公表しました(※1)。JR東海以外のJR旅客各社の区間別収支が出そろったことになります。新幹線や大都市圏路線のもうけでローカル線の赤字を埋めている。そんな話をよく耳にしますが、その赤字状況が数字で明らかになったわけです。
 
ローカル線と聞くと、大都市圏から遠く離れたエリアが思い浮かびます。しかし、新宿駅からわずか70分で到着する、ある駅。こちらを基点にするローカル線の一部は、有数の赤字だったのです。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

そのローカル線の基点駅は、ここ

その駅、実は木更津駅です。新宿駅から在来線を乗り継ぐと早くても100分くらいかかります。しかし、バスタ新宿から高速バスに乗ると早い便で70分。運賃も在来線の1520円に対して1600円とほぼ同じ。ゆったりとしたシートに座れて乗り換えも不要。東京湾アクアライン経由での時間短縮効果を実感できます。
 
この木更津駅から房総半島内陸部に向け、久留里駅を経由して上総亀山駅までを結ぶのが久留里線。全線が非電化で単線の区間です。
 

久留里線の収支状況とは

冒頭の収支状況(※1)ですが、「赤字」とは運輸収入から営業費用を引いた収支がマイナスの状態です。額そのものが大きいのか、赤字の率がすごいのか。スポットの当て方で対象区間が変わります。公表値(2020年度)でのワースト3は【図表1】のとおりです。
 

 
東北地方ばかり(磐越西線の一部区間は新潟県内)の中で、千葉県内の久留里線が目立ちます。ちなみに営業係数のもとになる数字は、久留里線の上記区間で収入100万円、費用2億7600万円。1日のトータル収入が3000円にも届かない計算です。
 

久留里線全体の状況は

久留里線の路線距離(営業キロ)は、木更津~久留里が22.6キロメートル、久留里~上総亀山が9.6キロメートルという構成です。手前の木更津~久留里では、収支が▲8億200万円、営業係数は1367円。赤字の絶対額は大きいものの年間収入が6300万円あり、営業係数はケタ違いに改善されています。
 
JR東日本は、路線別利用状況は以前から公表しています(※2)。久留里線のものを抜粋すると【図表2】のとおりです。
 

 
木更津寄りの区間では、ここ30年ちょっとで4分の1くらいへの減少ですが、奥の区間ではおよそ15分の1と激減しています。先述の収支ともども、距離は全体の3分の1弱の奥の区間が大きな重荷となっている。そんな状況を数字たちが物語っています。
 

収支公表は、廃線への布石?

JR旅客各社(JR東海を除く)の区間別収支公表は、コロナ禍による利用率低下などで鉄道各社の経営体力が低迷する中、廃線(やバス転換)への布石の一端ではないかとよく指摘されます。
 
JR東日本も、先述の資料(※1)の冒頭で、「地域の方々に現状をご理解いただくとともに、持続可能な交通体系について建設的な議論をさせていただくために、ご利用の少ない線区の経営情報を開示することとしました」と述べています。
 
今年・2022年は、鉄道開業150年の節目です。そして木更津駅でも、駅が開業110周年、久留里線(木更津~久留里)が100周年などと大きく表示され、駅構内には久留里線に関して、沿線観光スポットの案内表示板、沿線風景や保線マンの作業状況を紹介するミニ写真展コーナーなどが見られました。
 
利用減少は続くものの、空気のおいしい里山に住みたい人たちから熱い注目を浴びている状況はチャンスにつながるかもしれない。久留里線の未来を真剣に考える時期なので、地元の皆さんの意見を聞かせてほしい。
 
こんなことが記載されたポスター。千葉県、地元沿線各市、そしてJR東日本千葉支社で構成される久留里線の活性化協議会の名前で、木更津駅の構内にも貼ってありました。
 

まとめ

地方の過疎化やクルマ社会の進展などによって、ローカル線は転換期にきているのかもしれません。しかしながら、廃止を「したい」側と「しないでほしい」側。両者のせめぎ合いが折り合うには、かなりの時間と労力が必要でしょう。
 
同じ千葉県内では、山間や海辺を走る私鉄ローカル各線がときどき話題になります。沿線観光資源を掘り起こしていろいろな企画で観光集客をはかったり、関連物品を積極的に販売したり。地元利用客以外にも目を向けて活性化の努力をしているように感じます。
 
ローカル線も、貴重なインフラの1つであることは間違いありません。収支状況の厳しさが“見える化”される中で、生き残り策もどんどん“見える化”していく努力が必要なのかもしれません。
 

出典

(※1)JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)「ニュースリリース」~「ご利用の少ない線区の経営情報を開示します」(2022年7月28日)
(※2)JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)「路線別ご利用状況」(2017~2021年度)
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士