更新日: 2022.12.08 その他暮らし

国の借金を「1人当たり1000万円」と表現するのは適切か?

執筆者 : 北川真大

国の借金を「1人当たり1000万円」と表現するのは適切か?
国の借金を分かりやすく(?)表現するために「1人当たり1000万円」などといわれることがあります。
 
しかし、国の借金を「1人当たり●●円」と表現するのは、会計上明らかに不適切です。ここでは、国の借金について解説します。
北川真大

執筆者:北川真大(きたがわ まさひろ)

2級ファイナンシャルプランニング技能士・証券外務員一種

2級ファイナンシャル・プランニング技能士
証券外務員一種

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国には膨大な資産がある

個人にもいえる話ですが、借金だけを見て財務の健全性を判断する人はいません。例えば、4人家族で住宅ローンの残債が2000万円ある家庭で「1人当たりの住宅ローンが500万円」と表現する人は誰もいないでしょう。
 
財務の健全性を判断するなら、資産と負債双方に目を向けなければいけません。実は、国には膨大な資産があります。

<海外に保有している資産と負債(2021年末時点)>

資産:1249兆8789億円
負債:838兆6948億円
純資産:411兆1841億円

<国有財産(2021年度末時点)>

126兆5000億円(道路や河川を除く)

 
道路や河川は、国の負担率が一定でないため国有財産として計上していません。ただし、高速自動車国道(高速道路)や一般国道では、新設や改築時に費用の半分以上を国が負担しています。
 
仮に道路や河川の価値を0円として計算しても、国の資産は537兆6841億円あります。国の借金から資産を引いた金額は700兆円前後で、ここから国道を資産に含めれば事実上の借金はさらに少なくなるでしょう。
 

借金のほとんどは国内で循環している

日本では国の借金をひとくくりに考えていますが、国内の借金と海外(国外)の借金は性質が異なります。
 
国内の借金は、万が一国の財政が破綻しそうになれば、国民や企業が保有する財産に税金を課せば調達できます。一方で海外の借金は、このような調達はできません。2つの性質の違いから、「対外債務」などと表現して純粋な借金と区別されることがあります。
 
日本の場合、2022年6月末時点で国債の海外保有額はわずか167兆円にすぎません。日本国債(個人向け国債)の利率が10年変動債でも0.17%(2022年11月時点)しかないのは、ほとんど借金が国内で循環していて対外債務が少ないからです。
 
日本政府が、資産がある上に借金が国内で循環しているにもかかわらず返済しないのは、低金利でお金を借りて資産を保有した方が利益になるからだと考えられます。
 

「1人当たり●●円」の表現は不適切

国の借金は2022年9月末時点で1251兆円あるので、「1人当たり1000万円」という表現は一見正しいように思えますが、そもそも国の借金を1人当たり●●円と表現すること自体が不適切でしょう。
 
海外から見れば、日本の借金は国債の海外保有額である167兆円しかありません。これは日本の国内総生産(GDP)の30%程度にとどまります。あえて1人当たりの借金として表現するなら「1人当たり140万円」です。
 
国内で循環している借金については、万が一国が破綻する状況になっても国民や企業から財産税を徴収すれば返済できます。国民が保有している金融資産は2022年6月末現在で2007兆円、負債を差し引いても1634兆円あります。日本企業(金融・保険業以外)の利益剰余金は450兆円以上です。
 
1人当たりの借金を強調することで「日本は借金大国で破綻するかもしれない」という実際とは異なる印象を与える恐れがあります。国の借金については、借金の総額が注目されて偏った表現をされることがあるので、正しい知識を持ちましょう。
 

出典

財務省 国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和4年9月末現在)
財務省 令和3年末現在本邦対外資産負債残高の概要
財務省 国有財産(国の保有する財産)
財務省 法人企業統計調査からみる日本企業の特徴
日本銀行 資金循環統計(速報)(2022年第2四半期)
 
執筆者:北川真大
2級ファイナンシャルプランニング技能士・証券外務員一種

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