更新日: 2023.01.21 その他暮らし
「ワニの口」を閉じる方法って? 日本の財政危機について解説
国の財政破綻は、政府の資金繰りが行き詰まることであり、国債などの対外債務の利払いや元本の償還ができなくなることで起こります。1990年代にバブル景気が崩壊してから、財政が悪化し、その度に日本が財政破綻するといわれ続けてきました。ところが、30年たっても財政破綻する気配はありません。
本記事では、日本の財政危機や、「ワニの口」について解説します。
執筆者:古田靖昭(ふるた やすあき)
二級ファイナンシャルプランニング技能士
日本政府の財政危機宣言
1995年11月に武村正義大蔵大臣(当時)が「財政危機宣言」を発しました。日本政府において、財政危機宣言が出された当時の国債残高は約240兆円であり、国と地方自治体を併せた負債残高は約500兆円でした。
財政危機宣言が出されてから28年たった2022年度末になると、国の債務が約1055兆円、地方の債務が約189兆円となっています。国の債務だけ見ても約4倍以上です。しかし国の負債残高がそこまでふくらんでも、財政破綻には至っていません。
日本の財政状況はどうなっているのか
日本の財政状況について、歳出と税収をグラフにすると図表1のとおりです。
図表1 一般会計税収・歳出総額の推移
出典 財務省 我が国の財政事情(令和4年度予算政府案) より筆者作成
財政の危機的状況について、歳出と税収の差を図表1のようなグラフをもとに「ワニの口」と表現することがあります。図表1を見るとワニの口になっている部分は1994年から1999年までであり、その後少しだけ縮みました。その後2008年に起きたリーマンショックによってワニの口が大きく開き始め、2013年以降のアベノミクスによって徐々に縮んできました。
そして2020年には、新型コロナウイルス感染症の影響によって再度ワニの口が大きく開きました。1995年11月に出された財政危機宣言以降から見ても、開いたり閉じたりを繰り返していることが分かります。
政府の借金をGDPで比較する
GDPとは「Gross Domestic Product」の略称で、「国内総生産」のことです。国内総生産は一定期間内に国内において産出された付加価値の総額のことで、国の経済活動状況を表す指標となります。またGDPには、物価変動を考慮に入れた実質GDPと考慮に入れない名目GDPの2つの指標があります。
財務省が算出している国と地方を併せた負債に対するGDP比は220%です。この値は債務の合計に対する比率となります。
次に政府の借金と税収を国全体の経済指標であるGDPで割ることで、いわば所得に対する借金の割合が分かります。政府の借金からGDPで割ったものが図表2です。
図表2 一般会計税収・歳出総額の推移(対GDP比)
出典 財務省 我が国の財政事情(令和4年度予算政府案)、内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA)、内閣府 令和5年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度 より筆者作成
図表2の対GDP比で見ると図表1よりも少しだけ縮んでいるように見えます。GDPで比較しているため分母が大きくなったためです。そして図表2のグラフから、一般会計税収と歳出総額の開き具合を表したものが図表3です。
図表3 一般会計税収・歳出総額の開閉の推移(対GDP比)
出典 財務省 我が国の財政事情(令和4年度予算政府案)、内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA)、内閣府 令和5年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度 より筆者作成
ワニの口は常に開くというよりは閉じようとしている面があることも分かるでしょう。ただ、し日本の財政が悪化していることは間違いがないため、持続可能な財政にするためには対策が必要です。
結局ワニの口はどうすれば閉じるのか
ワニの口を閉じるには、国の所得であるGDPを増やす以外にないでしょう。つまり経済成長です。経済成長しないことを前提にして、政府の負債を減らすために増税すれば経済に悪影響を与えてしまいます。その状態からさらに政府の負債を減らそうとして増税すれば、負のループに陥ってしまうでしょう。
負のループに陥らないようにするためには、経済成長を目指す以外に方法はありません。個人所得や法人収益の増加、消費の拡大を促すために、政府と日銀が連携して金融政策などを行うことで、財政危機を脱することができるのではないでしょうか。
出典
財務省 財政関係基礎データ(令和4年4月) 国及び地方の長期債務残高
財務省 我が国の財政事情(令和4年度予算政府案)
内閣府 2020年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA) 国内総生産(支出側)名目 年度
内閣府 令和5年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度
執筆者:古田靖昭
二級ファイナンシャルプランニング技能士