更新日: 2023.04.06 子育て
国のデータからは、少子化なのに大学などへの進学にお金がかかる可能性が高いことが透けてみえる
今回は、政府の「こども政策の強化に関する関係府省庁会議」で参照された資料のうち、18歳人口と進学率の推移のデータから、子どもの教育費について考えていきたいと思います。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移
今回、少子化対策に関するデータとして確認するのは、令和4年5月に開催された、「教育未来創造会議」で用いられた「18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移」という資料です。
「18歳人口」と「進学率」についての定義は次のようになっています。
(1)18歳人口
3年前の中学校および義務教育学校卒業者数、ならびに中等教育学校前期課程修了者数
(2)進学率1
当該年度の大学・短大・専門学校の入学者、高専4年次在学者数/18歳人口
(3)進学率2
当該年度の大学・短大の入学者数/18歳人口
簡単に理解するために、18歳人口は高校3年生の数と考えてみてください。また、進学率は2つに分類されていますが、大学・短大・専門学校、高専4年次を対象としたものが「進学率1」、大学と短大だけを対象にしたものが「進学率2」です。
図表1
出典:内閣官房こども家庭庁設立準備室 「こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識」
図表1では18歳人口について、平成21年から令和2年までほぼ横ばいで推移しているものの、令和3年以降は再び減少に転じ、令和22年は約88万人にまで減少すると予測されています。
すでに令和4年で出生数が80万人を割り込んだため、この予測はおそらく成り立たないように思いますが、あくまでも推計として話を進めていきます。
18歳人口に占める進学者数の割合である進学率は、令和3年時点で進学率1が83.8%、進学率2が58.9%となっています。データをみるだけでも8割以上が高校卒業後に進学しており、そのうち、大学と短大では約6割に上っていることを考えると、家計に占める教育費の割合が増加している傾向にあることは容易に推測できます。
要するに、多くの子どもが大学などに進学するようになったため、昔と比べると、全体として教育にお金を割くようになっているという意味です。例えば塾代などがその典型といえるでしょう。
興味深いのが、こうした状況にもかかわらず「収容力」が91.8%と、100%を下回っていることです。上記のデータで用いられている収容力とは、現役の大学・短大志願者数のうち、進学した者の数のことです。
収容力が100%を切っているということは、つまり、定員割れの可能性があることを意味します。進学率が上昇傾向にあるにもかかわらず、18歳人口が少ないため、大学や短大が定員割れを起こしているというのが現状のようです。将来的には18歳人口がさらに減っていく可能性が高いと指摘されているため、今後ますます定員割れが増加することが想定されます。
18歳人口の減少と進学率の増加で、子育て世帯の経済環境は悪化?
ライフプランを考えるうえで、子どもの教育費や進学資金についてどう準備すればいいのか悩む方も多いでしょう。
18歳人口と進学率についてのデータからは、単純に大学や短大、専門学校などへの進学率が高まっていることで、塾などの費用を含めた教育費や進学資金が増加するようになったという推論ができるかと思います。
一方、進学率は高まっているものの、将来的に18歳人口の減少が予測されるため、定員割れが増える可能性が高いという問題もはらんでいます。この点から進学資金について考えるならば、大学や短大側としては、長年かけて学費などを少しずつ引き上げてきたことは想像に難くありません。
つまり、少子化の一側面として、進学率の高まりと定員割れの増加という相矛盾する現象が起こっている可能性が高く、また、家計において収入が長年伸び悩んできたことも併せて考えると、昔と比べてより一層、相対的には子育てを取り巻く経済環境が悪化していることが伺えるのではないでしょうか。
まとめ
とはいえ、国の制度としては児童手当が拡充され、幼児教育・保育が無償化、高校も実質無償化となっているほか、大学などの高等教育過程においては所得や学力の要件はあるものの、一部が無償化されています。また、教育資金の一括贈与の特例により、数年前よりも祖父母世代から孫世代へ財産を移転しやすくなっているのも事実です。
データから何を読み込むのか。今回確認してきた18歳人口と進学率の推移は、経済的に何を物語っているのか示してくれるデータといえるでしょう。
出典
厚生労働省 人口動態統計速報(令和4年12月分)
内閣官房こども家庭庁設立準備室 こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)