更新日: 2023.04.28 その他暮らし

「物流の2024年問題」とは? われわれにどのような影響があるのでしょうか?

執筆者 : 高橋庸夫

「物流の2024年問題」とは? われわれにどのような影響があるのでしょうか?
「物流の2024年問題」とは、2024年4月から自動車運転業務(ドライバー)の時間外労働時間に上限が課されることで影響を受けるであろう、さまざまな問題のことをいいます。上限規制の適用を前に、物流業界ではすでに対応が始まっており、いろいろな取り組みが見られます。
 
本記事では2024年問題の概要や影響、その対応策などについて確認していきます。
高橋庸夫

執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)

ファイナンシャル・プランナー

住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。

自動車運転業務での時間外労働の上限規制

政府の働き方改革によって、働き方改革関連法が改正され、一部の業界を除いた大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、時間外労働の上限を原則で月45時間、年360時間とする規制が導入されています。
 
また、すでに適用が開始されている大企業・中小企業には、さらに以下のような制限も設けられています。


(1)時間外労働は最大で年720時間(臨時的な特別の事情により労使が合意する場合)

(2)時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

(3)時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」で1月当たり80時間以内

(4)時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度

そして、規制の適用が5年間猶予されていた自動車運転の業務など(他に工作物の建設事業、医師、鹿児島および沖縄県における砂糖製造業)では2024年4月から適用が開始され、自動車運転業務(ドライバー)の時間外労働時間の上限が年960時間となります。
 
ただし、自動車運転業務に関しては上記の(2)(3)(4)の制限は適用されないこととなっています。
 
ちなみに、厚生労働省が公表している「改善基準告示見直しについて(参考資料)」によると、全産業平均の超過実労働時間数は月10時間ですが、自動車運転業務では大型トラックドライバーで35時間、中小型トラックドライバーで31時間、タクシードライバーで16時間、バス運転手で28時間となっており、全産業平均と比較して時間外労働が明らかに多いことが分かります。
 

物流の2024年問題として懸念される影響

時間外労働時間の上限規制を国が推進する理由には、物流業界全体の人手不足や高齢化といった課題の解消があります。労働環境を改善し、業務効率を高めることで、より多くの人材を確保できる環境の構築が主な目的となります。
 
しかし、規制に違反した場合には6ヶ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金という罰則もあるため、規制開始後は以下のような影響が顕在化してくることが予想されています。
 

(1)物流会社の売上減少や業績の悪化

ドライバーの時間外労働時間に規制が設けられることで、物流会社が引き受けることができる業務量が制限され、売上減少や業績の悪化につながる可能性があります。
 
物流業界は業務量がそのまま売上に直結する労働集約型の構造となっているため、上限規制がダイレクトに影響することが考えられます。
 

(2)ドライバーの人手不足に拍車がかかる

時間外労働時間の上限規制は、ドライバーの収入に直接影響します。単純に労働時間が減れば収入が減ることとなり、ドライバーの就業意識にも影響を及ぼす可能性があります。
 
状況によっては、より好待遇の会社への転職が増えるなど、これまで以上に人材確保に苦慮する会社が出てくることも予想されます。
 

(3)荷主(一般消費者を含む)に配送運賃の値上げの影響が及ぶ

物流の2024年問題で私たち一般消費者に最も影響が及ぶのは、配送運賃の値上げとなるでしょう。大手物流会社ではガソリン等の燃料費の高騰などを理由としていますが、すでに配送運賃について値上げの報道が始まっています。
 

さまざまな取り組みや対応策

国や物流業界でも新たな取り組みや対応策が検討、開始されています。
 

(1)再配達防止への取り組み強化

再配達を減らすことは、業務効率の向上につながる最も重要な対応策であるといえます。ただし、電車など公共交通機関での通勤が多い都市圏、車で通勤する地方圏、一人暮らしの方などで有効な対応策には若干の違いがあることも確かでしょう。
 
例えば、駅やコンビニなどに設置されている宅配便ロッカーについて、一般の会社、保育所、クリーニング店、カフェといった拠点の拡充を進める、地域で荷物の受け取りを代理する人を配置する、一戸建て住宅への宅配ボックス設置を促進するなどがあります。
 

(2)アプリを活用

こちらはすでに取り組みが開始されていますが、配達時間や配達方法(置き配や宅配ボックス、メーターボックス内など)の指定、配送会社によるプッシュ通知など、専用アプリを活用したサービスは今後も広がる可能性があるでしょう。
 
なお、アプリを通じたポイント付与などのインセンティブだけでなく、逆に再配達の有料化なども検討されているようです。
 

(3)ロボットやドローンなどの活用

自動配送ロボットやドローンを利用した配送サービスなども、人手不足解消のための対策として有効な手段となるでしょう。
 

まとめ

あらゆるものが値上がりし続けている昨今、物流業界の問題解決のしわ寄せがすべて一般消費者に及ぶことは避けたいものです。
 
そのためには、物流業界による労働環境や業務効率の改善に向けた取り組みや努力はもちろんですが、再配達を極力なくすなど消費者一人ひとりの協力も必要となるのではないでしょうか。
 

出典

厚生労働省 改善基準告示見直しについて(参考資料)
 
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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