更新日: 2023.08.07 その他暮らし
社会保険料は「払い損」なの? 損しないために知っておきたい「制度のしくみ」について解説
本記事では、社会保険料の負担は果たして「払い損」なのかどうか、社会保険料の基本的な仕組みを踏まえて考えてみましょう。
執筆者:石井麻理子(いしい まりこ)
FP2級・AFP
「月給30万円」の社会保険料は月いくら? 払いたくない場合は?
社会保険料の負担額は年齢などによって異なりますが、仮に40歳以上で月給30万円の場合、毎月支払う厚生年金と健康保険(東京都の協会けんぽの場合)、雇用保険の合計保険料は下記のとおりです。
厚生年金保険料:2万7450円
健康保険料:1万7730円
雇用保険料:1800円
合計:4万6980円
毎月の給与の15%以上を支払うルールとなっている社会保険料は、「適用事業所」で働き、一定の条件を満たす従業員は強制的に加入、負担をしなくてはなりません。
「社会保険」は5つの保険の総称
そもそも、社会保険料はなぜ支払う必要があるのでしょうか。
社会保険は、将来受け取る老齢年金に加え、現役で働いている間も多くのリスクに対して保障をする制度です。広義の解釈として、具体的には下記5つの保険の総称となります。
このうち労災保険以外の保険料は、会社と従業員で既定の割合ずつ負担しています(労災は100%会社負担)。
厚生年金保険
会社員や公務員などが加入します。給与の金額により支払う保険料も変動し、次の3つの年金給付が受けられます。
●老後に受け取れる「老齢年金」
●一定の障害を負ったときには「障害年金」
●亡くなったときには一定範囲内の家族に「遺族年金」
給付される年金額は、厚生年金の加入期間、加入期間中の平均の給与額により計算されます。
健康保険
会社員や公務員などが加入します。勤務先の規模などに応じて、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入するか、健康保険組合に加入するかが決まります。保険料率はどの健康保険かによって異なります。
健康保険では、主に下記のような給付が受けられます。
●病気やけがをしたときに「療養給付」
●出産したときに「出産育児一時金」
●けがや病気で働けないときに「傷病手当金」
●その月の治療費が高額になったときに「高額療養費」
●海外で急なけがや病気をしたときに「海外療養費」など
また、健康保険組合によっては独自の付加給付制度があり、病気やけがに対して手厚い保障をしている場合があります。高額な医療費がかかっても、付加給付制度により最高自己負担額が約2万円(自費治療は除く)という健康保険組合もあります。
介護保険(40歳以上)
健康保険、国民健康保険加入者が40歳以上になると加入します。40歳以上の被保険者が、要介護・要支援と認定されたときに介護サービスを受けることができる制度です。
介護サービス自体は有料で、訪問介護や訪問看護といった指定の介護サービスを利用した場合、サービスの対価として発生した費用の一部が給付されます。
雇用保険
会社員などが加入します。次のような場合などに給付を受けられます。
●失業したとき(失業給付)
●育児休業期間中(育児休業給付)
●一定の家族の介護で休業するとき(介護休業)
●厚生労働大臣の指定した教育訓練講座を受講したとき(教育訓練給付)
各給付額は、勤務期間や給与などを基に算出します。
労災保険
業務中や通勤途中に起因したけが・病気・障害・死亡に対して給付が受けられます。正社員だけでなく、パートやアルバイトなど雇用されている全員が給付の対象です。
保険料は全額、事業主が負担します。
社会保険の給付対象になる可能性があるケース
例えば、次のようなことが起こった場合でも、社会保険の給付対象となる場合があります(給付の有無や金額は状況によって異なります)。
体調を崩して仕事を3ヶ月間休むことになり、有給休暇を使い切った場合
健康保険の「傷病手当金」により最長1年6ヶ月の間、給付金が受け取れます。給付金の金額は、月額給与の約2/3。また、傷病手当金は非課税です。
海外旅行中に胃炎になり救急車で現地の病院へ搬送された
現地で日本の健康保険証は使用できませんが、日本で保険診療として認められている治療であれば、帰国後に申請すれば給付対象となります。給付される金額は、日本国内の医療機関等で同じ病気やけがの治療をした場合にかかる治療費を基準に計算されます。
交通事故に遭い、生活や仕事が制限される状態となった
認定された障害状態により「障害年金」または「障害手当金(一時金)」が給付されます。年金額は、障害の状態と厚生年金の加入期間、加入期間中の平均の給与額により計算。また、障害年金は非課税です。
まとめ
社会保険は、いつ起こるか分からない「万が一の事態」が生じたときに助けてくれる制度です。ただ、万が一の事態が生じた際に必ずしも国や市区町村から案内が来るわけではないため、保障を受け損なうことがないように、どのような給付が受け取れるのか制度の内容をよく理解しておくことが大切です。
また、社会保険で保障されている範囲を知っておくと、給付対象が重複している民間保険に加入して無駄な保険料を支払うことを防ぐこともできるでしょう。
出典
全国健康保険協会 令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
全国健康保険協会 こんな時に健保
※2023/7/4 記事を一部修正いたしました。
執筆者:石井麻理子
FP2級・AFP