更新日: 2023.09.16 その他暮らし

【請求期限は最大10年】お金の世界にも「時効」があるって知っていますか?

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

【請求期限は最大10年】お金の世界にも「時効」があるって知っていますか?
「友人に50万円貸した」「店の常連客に未回収のツケがある」「消費者金融に過払金があるかも?」といった事態を、いつまでも放置していると「時効」となり、返済請求ができなくなります。金銭を貸し借りする際などには、必ず当事者同士で契約書などを交わし、後々トラブルにならないように注意したいものです。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

口約束だけの金銭授受は厳禁

「時効」と聞くと、犯罪捜査などで、事件を起こし逃亡している容疑者が、何年間か逮捕されずに逃げ延びたために確保できない、という場面が思い浮かぶかもしれません。この犯罪の時効は、実はお金の世界にも存在します。テレビCMで盛んに流されている消費者金融を利用していた方に向けた、「過払金には時効があります。すぐ手続きをすればお金が戻ります!」は、お金の時効を知らせる代表例です。
 
実際に金銭の授受の際に、きちんと借用書があれば請求が可能で、まず問題はありません。その書面には、賃借の金額、貸借の日時、返済期限などが明記されており、トラブルにはなりにくいはずです。貸し手の側は借り手に対し、請求を行うことができます。借り手の側は、法的な支払義務を負うことになります。
 
金銭の貸借の場合、貸した側は借りた側に対して、原則として「権利行使をできるときから10年」、または「権利行使ができることを<知ったときから>5年」の、どちらか早いほうです。返済日が書かれている場合などは、権利行使ができることを知っているはずなので、5年となります。これは2020年の改正民法に定められた規定です。それ以前の民法の規定では、「権利行使ができるときから10年」でした。
 
ただし実際には、金銭を貸したことは間違いないが、借用書の類いがないこともあります。何となく相互の信頼関係だけというケースや、借りた側に借金という意識がなく好意によるプレゼントと考えているケースもあり、そのような場合は、返済請求も簡単ではありません。特に男女間の金銭授受は、贈与と認定されることも多くあります。
 
お金を貸した側は、信頼関係や借りた側の良心に頼るのではなく、正式な借用書ではなくても、例えばメールの交信記録や自筆のメモなど、形のあるものを残しておくことが大切です。こうしたことを怠り、きちんとした請求記録がないまま、最長10年を経過した時点で、借金の「時効」が成立し、借りた側の返済義務が消滅し、貸したお金が法的には戻ってこない事態になります。
 

時効は金銭の賃借以外でも

日常生活の場面では、お金の賃借だけでなく、それ以外のことでも「時効」が問題となるケースは多々あります。例えば、けがをさせられたので相手に治療費を請求したい、未払賃金があり会社に未払分を請求したい、追突されたクルマの修理代を相手に請求したい、占有されている土地の地代を占有者に請求したい、といったケースでは、一定期間放置し続けると「時効」の問題が生まれます。
 
特に土地賃貸を巡る時効では、現実になると金額も多いためトラブルになりかねません。具体例で説明しましょう。
 
仲のよい2人の兄弟がおり、兄の所有地に、弟が兄の了解を得て家を建てて居住しました。土地を貸した兄も家を建てた弟も、あくまで信頼関係で結ばれており、契約も交わしていません。家を建てた弟も無償で借りており、「土地を所有する意思」がないため、兄弟間では「時効」の概念はないのです。
 
ところが30年ほど経過し、家を建てた弟が亡くなり、その子どもが相続します。親が住んでいた家なので、自分が「所有し住み続けてもよい」土地だと理解します。貸した兄も世代が代わり、兄の子どもが所有権の確認をせずに放置していると、家を建てた弟の子どもが、「意思をもって占有した」ことになります。何もせずに10年経過すると「時効」が成立し、土地の権利が移転してしまうのです。好意で貸していた側からすれば、損害額も大きくなり、非常に理不尽な話です。親族間でのトラブルに発展しかねません。
 
ここで重要なことは、相続などで世代交代があり、以前あった「好意」や「信頼」の概念がなくなるため、双方で権利関係の確認が必要になります。好意で土地を提供していた側が、権利関係の確認を求め、必要に応じて「地代」を請求しなければなりません。何もせずに一定期間を過ぎると「時効」が成立し、意思をもって占有した側に土地の権利が移ってしまうのです。
 

簡単な訴訟で解決できることも

時効を巡るトラブルが起こっても、正式な裁判まで行おうとすると、費用面や手続き面で厄介なことが多く、「そこまでするのはどうも……」とためらわれる方も多いはずです。そのような場合に、金銭の請求額が60万円以内であれば、簡易裁判所で行っている「少額訴訟」を知っていると、役に立つかもしれません。
 
この制度は、正式な裁判だと時間も費用もかかるのと比べると、訴訟費用も6000円程度で済み、時間も1回の審理で終わります。簡易裁判所にある少額訴訟用の定型用紙に必要事項を記入し、請求根拠となる契約書などを準備し提出します。例えば、少額の借金返済請求や、給与の未払請求などには効果的な制度です。
 
ただし、請求金額が60万円を超えていない、請求内容を分かりやすく説明できる、といった制約もあります。また相手に支払い能力がまったくないケースなどは、勝訴しても債権を回収できない事態も生まれます。請求額が60万円を超える金額のケースでは、この少額訴訟にはなじまないため、正式な裁判になりますので留意しましょう。
 

出典

裁判所 裁判手続 簡易裁判所の民事事件Q&A
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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