更新日: 2023.11.05 子育て
低所得世帯の中3・高3は「模試費用」や「大学受験料」が補助 しかし「所得で分けるのは不公平」の声も?
本記事では、施策の背景や詳細、世間の反応について解説します。
執筆者:桜下あかり(さくらした あかり)
FP2級
目次
中3と高3の子どもがいる低所得世帯への補助
こども家庭庁は、中学3年生と高校3年生の子どもがいる低所得世帯に補助を行うことを明らかにしました。中学3年生には模擬試験費用を、高校3年生には大学受験費用の約5万円と模擬試験費用を補助し、家庭の経済状況に関わらず進学の機会を確保することを目的としています。なお、開始は2024年度を予定しています。
低所得世帯ほど進学率が低い
2009年の東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センターの発表によると、親の年収が子どもの高校卒業後の進路に大きく関わることが分かっています。
高校卒業後に就職する割合は親の年収200万円以下が35.9%と最も高く、年収が上がるにつれて下がっていき、年収1200万円以上では5.4%になります。また、専門学校への進学率も同じく年収200万円以下が最も高く、年収が上がるにつれて下がっていきます。
一方、4年制大学への進学率は年収1200万円以下が62.8%と最も高く、年収が低くなるにつれて下がっていき、年収200万円以下では28.2%です。
複数受験や宿泊を伴う受験で家計負担増
公益財団法人生命保険文化センターの調査によると、大学受験にかかる費用は、大学入学共通テストが3教科以上受験する場合で1万8000円、国公立大学の2次試験が1万7000円、私立大学が3万円から3万5000円ほどとなっています。複数受験する場合や宿泊を伴う受験の場合も考慮に入れると、かなり家計の負担になります。
家計が厳しく浪人や複数受験ができない場合は、受験に失敗したら進学をあきらめて就職というのが現実です。このような実態も低所得世帯の進学率を下げる要因になっています。
低所得世帯だけは不公平だという声も
こども家庭庁の補助に対し、「受験料は意外と家計のダメージになるから助かる」「金銭的理由で受験を諦めてしまう子たちの希望になる」という声がある一方で、「たった5万円で受験しようとは思えない」「入学後のことも考えてほしい」「所得ではなく成績で制限するべき」という声もあります。
また、「低所得者ばかり優遇されるのはおかしい」「中間層の子どもたちへの支援も必要」と、親の経済状況に関わらず平等に進学の機会を与えるのであれば、全世帯一律でないと納得できないというのもうなずける意見です。
低所得世帯や中間世帯だけではなく、高所得世帯ももろもろの手当がなく引かれるばかりで家計が苦しいという声があるのも現状です。
さらに補助を行うのであれば、受験に宿泊が伴う地方の子どもにという考え方も出てきて、本当の意味での「平等」が今後の課題になります。
所得ではなく成績によって制限するべきという声について
今回の発表にはさまざまな声がありますが、「所得ではなく成績によって制限するべき」という声について考えてみます。
平成25年度の国立大学法人お茶の水女子大学の調査によると、世帯年収が低いほど、学力に課題がある子どもの割合が多いことが分かっています。これは小6の国語・算数、中3の国語・数学すべてで同様の結果となっており、年収200万円以下の世帯と年収1500万円上の世帯では点数の開きが約20点ずつあります。
このデータから、進学しない理由はお金がないだけではなく、学力も課題であることが分かります。
仮に、学力に差が生じるのは、大学受験期までにかける教育費の違いであるとすれば、そこへの補助が必要になります。しかし、高い塾や通信教育をしなくても大学に合格する子どももいます。そうなると「低所得世帯ばかりずるい」という意見が上がってしまい、中間層世帯にも配慮が必要ということがいえるでしょう。
まとめ
低所得世帯の子どもが経済的な理由で進学を諦めないように支援する施策は大切です。しかし、今回の施策の目的は「家庭の経済状況に関わらず進学の機会を確保すること」です。
「家庭の経済状況に関わらず」であれば、全世帯平等に、一律給付をという声があがるのも必然でしょう。少子化の今、すべての子どもが本当の意味で平等に進学できるような施策が求められます。
出典
東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センター 高校生の進路と親の年収の関連について
国立大学法人お茶の水女子大学 平成25年度学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究
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執筆者:桜下あかり
FP2級