更新日: 2023.12.20 その他暮らし

特殊詐欺のターゲットは今やすべての人! 【後編】ターゲットになると命の危険も?

執筆者 : 岩永真理

特殊詐欺のターゲットは今やすべての人! 【後編】ターゲットになると命の危険も?
前編では、特殊詐欺の被害にあと一歩で巻き込まれるところだった東京都内在住のAさん(50代男性)の実例に基づき、詳しく手口を紹介しました。
 
今回は、もしそのまま詐欺に気づいていなかったらどうなったのか、警察に通報後の警察からのアドバイスや事後処理について取材しました。みなさんも特殊詐欺を未然に防げるように、ぜひ参考にしてみてください。
岩永真理

執筆者:岩永真理(いわなが まり)

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

CFP®
ロングステイ・アドバイザー、住宅ローンアドバイザー、一般財団法人女性労働協会 認定講師。IFPコンフォート代表
横浜市出身、早稲田大学卒業。大手金融機関に入行後、ルクセンブルグ赴任等を含め10年超勤務。結婚後は夫の転勤に伴い、ロンドン・上海・ニューヨーク・シンガポールに通算15年以上在住。ロンドンでは、現地の小学生に日本文化を伝えるボランティア活動を展開。
CFP®として独立後は、個別相談・セミナー講師・執筆などを行う。
幅広い世代のライフプランに基づく資産運用、リタイアメントプラン、国際結婚のカップルの相談など多数。グローバルな視点からの柔軟な提案を心掛けている。
3キン(金融・年金・税金)の知識の有無が人生の岐路を左右すると考え、学校教育でこれらの知識が身につく社会になることを提唱している。
ホームページ:http://www.iwanaga-mari-fp.jp/

Aさんが詐欺に気づかなかったらどうなっていたのか

<Aさんの特殊詐欺被害の概要>

  • (1) NTTを語る自動音声で身に覚えのない未払金25万円(携帯電話の新規契約)の請求を受け、案内に従い問い合わせに進む
  • (2) 新規契約に覚えがない旨を告げると、Aさんの個人情報流出の可能性があるため、警察に被害届を出すように言われ、ニセ警察官につながれる
  • (3) ニセ警察官は「特殊詐欺で逮捕された男の自宅からAさん名義の通帳が見つかり、Aさんは取引の成功報酬で400万円近い現金を受け取った共犯者になっている」と語り、Aさんは自分の銀行口座番号と残高を言うように促された
  • (4) Aさんは正直にすべて語った後、本日中にAさんを逮捕するかどうかを判断するという名目で、今度はニセ検事につながれる

 
警察官・検事ともにライン(LINE)で自分だけが顔出しの通話に違和感を抱いたAさんは(ニセ)検事が銀行口座番号と残高を確認し、「現金には番号がついているので、その番号を確認するから現金を持ってこられるか」と問うあたりで詐欺を疑ったと言います。
 
特殊詐欺グループがほしいのは現金です。現金を持ってこさせる、または自宅に用意して待っている人から扮装した詐欺グループが詐取するのが主な手口です。
 
Aさんが自ら気づかなければ、銀行口座にある現金の券面番号をすべて確認するなどと言われて現金を用意させて詐取しようとしたのではないか、とAさんは考えているそうです。
 
しかし、銀行から降ろす現金はもともと自宅にあったものではないので、券面番号を確認したところで不正取引として受け取ったとされる現金とは同じであるはずがなく、つじつまがあわないため最悪その時点でも気づいただろうとAさんは言います。
 

銀行残高や個人情報を盗まれた後の、本物の警察のアドバイス

Aさんが詐欺グループに教えてしまったのは下記情報です。
 

・銀行名、支店名、口座番号などの資産状況
・氏名、住所、電話番号などの個人情報

 
Aさんの資産は合計で数千万円だったため「住所を知られている以上、闇バイトなどを雇ってAさんの自宅へキャッシュカードを強奪しに来る可能性もある」と本物警察は判断したそうです。
 
そのため、1週間から10日間は警察も厳重警戒をしてパトロールを増やすが、できればAさん家族も安全のため別の場所に緊急避難したほうがよいと言われたそうです。命の危険さえ感じたAさんは、避難できる日は家族とともに極力外泊するようにしたと言います。
 

銀行口座と資産の取り扱い

詐欺グループに教えてしまった銀行口座はどう対処すればよいのでしょうか。Aさんが警察に相談した結果、各銀行へ地道に電話をして状況を説明し、状況にあった対応をしてもらう、というものでした。
 
どの銀行でも共通していえることは、特殊詐欺未遂にあったといえども、「銀行の取引支店や口座番号は変えられない」ということでした。
 
銀行によって対応もさまざまで、口座凍結に近い銀行から、キャッシュカードの暗証番号やインターネットバンキングのIDとパスワードを知られていないなら特段手続きをしなくてもよい、という銀行まで、対応が異なるとのことでした。
 
そのため、残高の多い銀行から電話でできる限りの手続きをして、心配であればゆくゆくは口座を解約する、という方法しかないようです。
 
特殊詐欺への警戒からか、現在銀行では1人1口座しか持てないことがほとんどのため、同じ銀行で別口座をつくりたければ、いったん持っている口座を解約してから再度新たに口座開設の手続きをする必要があります。
 

銀行口座を新たに開設する際の注意点

現在の銀行はペーパーレスが進み、通帳をつくらないインターネットバンキング口座が主流になっています。届出印も不要でスマホアプリで取引をするのが当たり前の時代です。
 
ただ、Aさんのように親の相続でまだ精算が済んでいないお金の口座などは、通帳で取引記録がわかるほうが兄弟間で情報を共有しやすく利便性が高いため、これから作る銀行口座は通帳がなくなるのに不便を感じているようでした。
 
銀行取引がスマホアプリで簡単にできるようになった一方で、多額の取引や印鑑なしでの取引も一瞬で即座にできるため、ユーザーのわれわれも細心の注意を払って行わなければなりません。
 

まとめ

その後Aさんは、資産も身柄も安全に無事に乗り切りました。しかし、いったん詐欺の網に引っかかってしまうと、外泊費用や銀行への連絡にかかる膨大な時間を費やすことになってしまいました。
 
銀行口座は特殊詐欺にあったからといって、変更はできません。そのため、たとえ警察を名乗る者に対しても、自分から連絡した警察官でなければ信用してはならず、銀行口座や残高を決して教えてはいけません。
 
そのほか、類推しやすい暗証番号は決して使わないことは当然ですが、定期的に暗証番号やインターネットバンキングのパスワードを変更することも有効でしょう。
 
特殊詐欺被害は、決して他人ごとではありません。すぐあなたの背後に忍び寄っています。個人情報や資産情報の管理にはくれぐれも気をつけください。
 
執筆者:岩永真理
一級ファイナンシャル・プランニング技能士
 

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