再婚後に生まれた子は誰の子に? 民法の嫡出推定制度の規定変更のポイントは?
配信日: 2024.04.26
執筆者:田久保誠(たくぼ まこと)
田久保誠行政書士事務所代表
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、特定行政書士、認定経営革新等支援機関、宅地建物取引士、2級知的財産管理技能士、著作権相談員
行政書士生活相談センター等の相談員として、相続などの相談業務や会社設立、許認可・補助金申請業務を中心に活動している。「クライアントと同じ目線で一歩先を行く提案」をモットーにしている。
嫡出推定とは
嫡出推定とは、民法で生まれた子の父が誰であるかを早期に確定して子の利益を図るために設けられた制度です。
具体的にいうと、婚姻成立の日から200日を経過した日より後に生まれた子、または離婚等により婚姻を解消した日から300日以内に生まれた子を、夫の子と推定することとしています(民法772条)。
図にすると図1のようになります。
図1
なぜ改正しなければならなかったのか
本来、子どもが生まれたら出生届を出すのですが、何らかの理由によって出生届を提出せず、戸籍に記載されない子が存在するといういわゆる「無戸籍者問題」の1つの要因として、民法の嫡出推定制度が指摘されていました。
このような無戸籍者問題の解消に向けて、民法の規定を改正することになったという背景があります。
今回の改正のポイントは
今回の法改正のポイントは、下記の4つが主なものです。
<ポイント1>
婚姻の解消等の日から300日以内に出生した子の場合でも、母が前夫以外の男性と再婚後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定することとする
<ポイント2>
女性の再婚禁止期間を廃止
<ポイント3>
夫のみに認められていた嫡出否認権を、子および母にも付与、かつ嫡出否認の訴えの出訴期間を1年から3年に伸長
<ポイント4>
認知無効の訴えの提訴権者・出訴期間の制限
ポイント1~4、それぞれどのように変わるのか見てみよう
<ポイント1>
現行の法律では、離婚から300日以内に生まれた子どもは前の夫の子と推定されていますので、母親が故意に出生届を出さずに戸籍のない子が生まれることが問題視されていました。
しかし、今回の改正で離婚等の日から300日以内に生まれた子であっても、その間に母が再婚をしたときは、再婚後の夫の子と推定することになります。図にすると図2のようになります。
図2
<ポイント2>
ポイント1との関連で、嫡出推定規定が改正されることにより、父性推定の重複がなくなるため、女性の再婚禁止期間が不要となるために廃止になります。
<ポイント3>
現行の法律では、「夫の子と推定された子は、夫が子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えを提起することにより、推定を否認することができる」となっており、子と母は推定を否認することができません。また、1年間は訴えを提起するための期間として不十分であると考えられたため、以下の改正が行われています。
■否認権者の拡大
・夫に加え、子または母は、嫡出否認の訴えを提起することができる。
・(再婚後の夫の子と推定される子に関し、)前夫は、嫡出否認の訴えを提起することができる。
■出訴期間の伸長
・嫡出否認の訴えの出訴期間を、父と前夫は、子の出生を知った時から3年以内、子と母は子の出生の時から3年以内に伸長する。
・子は、一定要件を充たす場合には、例外的に21歳に達するまで、嫡出否認の訴えを提起することが可能。
ただし、妻が夫の同意の下、第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により懐胎・出産した子については、夫に加え、子および妻も、嫡出を否認できません。
<ポイント4>
現行の法律では、子やその他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張できます。つまり、認知の無効を主張できる利害関係者は複数人いますし、その主張する期間の制限も設けられていません。
よって、嫡出でない子の地位が嫡出子と比べて不安定であるという指摘があり、今回の改正では、認知無効の訴えの提訴権者を、子・認知をした者(父)および母に限定しています。
また、出訴期間も認知者は認知の時から7年、子と母は認知を知った時から7年(子は、一定要件を充たす場合には、例外的に21歳に達するまで)と出訴期間の制限が設けられました。
いつから適用されるの?
改正法は、原則として施行日以後に生まれる子に適用されますが、施行日の前に出生した方やその母も、施行日から1年間に限り、嫡出否認の訴えを提起することが可能です。
では、児童手当などの子どもに関わる支援制度・支援金などは、どのようになるのでしょうか。
戸籍がないとそもそも行政からの各種案内等が来ません。つまり、国民としてのさまざまな利益(児童手当や、数年前にあった特別定額給付金等)を得ることができず、非常に不利益を被ることになります。そういった意味でも、この法改正は「無戸籍者問題」を解決する上でも重要な改正となります。
出典
法務省 民法等の一部を改正する法律について
執筆者:田久保誠
田久保誠行政書士事務所代表