奨学金の保証制度が変わって学生の負担が増えるって本当?
配信日: 2019.02.02 更新日: 2019.06.28
支援機構にとっては奨学金の回収が確実になりますが、学生の負担は増えることになります。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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現行の保証制度
奨学金を申し込む際に、「人的保証」または「機関保証」を選択する必要があります。「人的保証」は、連帯保証人(父母等)と保証人(おじ・おば等)の2人が必要です。将来、万一返還者が延滞した際には、連帯保証人や保証人が代りに返還します。なお、保証人の支払い義務は「半額」です。
「機関保証」では、貸与期間中(在学中)一定の保証料を保証機関(日本国際教育支援協会)に支払うことで、将来、万一返還者が延滞した際に、代わりに保証機関が日本学生支援機構に返還します(代位弁済)。
平成30年4月に貸与奨学生として採用された方の49.0%が機関保証を選択しています。なお、保証料を払っているからと言って本人の借金がなくなるわけではなく、返還を肩代わり(代位弁済)した保証機関から後日、本人に請求が行きます。
「人的保証」VS「機関保証」
「機関保証」は保証料がかかる一方、返還者が将来、万一延滞した場合、父母等は返還の義務を負いません。逆に、「人的保証」は保証料が必要でない代わりに、返還者が、将来、万一延滞した場合に、連帯保証人(父母等)や保証人(おじ・おば等)が返還する義務を負います。
保証機関に支払う保証料は安くないので、「機関保証」にするか「人的保証」にするか迷う方が少なくありません。
例えば、利息付きの第二種奨学金を4年間(48ヵ月)、月額8万円を借りる場合の保証料の目安は月額4,312円です。4年間では総額20万6,976円になります。
確かに、これだけの保証料を支払うのはもったいない感じもしますが、返還者が将来、万一延滞した時のリスクを考えた場合、肩代わりするだけの経済的余力が父母等になければ、父母等も共倒れしてしまいますので、「機関保証」を選んだほうが良いでしょう。
「人的保証」がなくなる影響
先に述べたように、財務省と文部科学省が2020年春にも、日本学生支援機構の貸与型奨学金の保証制度を見直す方向で検討しています。保証人を求める「人的保証」がなくなり、返還者の延滞時に保証機関が代位弁済する「機関保証」に一本化されれば、支援機構としては回収不能のリスクがなくなるメリットがあります。
平成29年度、入金も返還期限猶予等の手続きも無いまま、延滞になっている額が854億円あります。「機関保証」に一本化すれば支援機構はこのような債権を確実に回収でき、奨学金制度が安定するというメリットがあります。
一方、「機関保証」に一本化されると、「人的保証」が選択できなくなり、保証料という新たな負担が生じます。また、父母等がかかわらないので延滞が増えるという懸念があります。保証機関が代位弁済する件数が増えれば、保証料も引き上げられる可能性があります。
既に一部は「機関保証」に一本化されている
なお、無利息の第一種奨学金には、「定額返還方式」の他に「所得連動返還方式」を選択できます。「所得連動返還方式」は、返還者の所得に応じて返還月額が決まる仕組みです。これを選択する場合は既に「機関保証」に一本化されています。
参照
日本学生支援機構「奨学金事業への理解を深めていただくために〔報道等を見て関心を持たれた皆様に向けたデータ・ファクト集〕」(平成30年11月)
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。