更新日: 2019.07.01 その他暮らし

超少子高齢化社会における物件選びの判断基準はあるのか

執筆者 : 村田良一

超少子高齢化社会における物件選びの判断基準はあるのか
2018年9月公表の都道府県地価調査(※1)では、27年ぶりに全国規模で住宅含む全用途平均が上昇に転じたことや、札幌・仙台・広島・福岡4都市の上昇率が3大都市圏を超えたことが注目されました。
 
その背景には、景気回復を受け、交通利便性や住環境の優れた地域の住宅需要が堅調なことや、インバウンドによる店舗・ホテルの需要および再開発事業などによる投資需要の拡大があるようです。
 
急速に人口が縮減する我が国では、不動産の価値は減り続けるものと思われがちですが、直近(平成30年10月~12月)のマンション平均成約価格は5956万円となり、 バブル期(1990年)最高値6123万円近くまで上昇しています。
 
(※1)都道府県地価調査は、国土利用計画法施行令に基づき、各都道府県が毎年7月1日における設定地点(基準地)の正常価格を調査し公表するものです。
 
村田良一

執筆者:村田良一(むらた りょういち)

CFP(ファイナンシャル・プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士、不動産鑑定士、中小企業診断士

(同)村田鑑定評価・経営研究所 代表社員

慶應義塾大学経済学部卒業後、大手総合商社へ入社し、管理部門(経営企画)の他、3つの営業部門(不動産、金融、ICT)で関係会社へ出向し、事業責任者として住宅事業、FP事業などの立上げを経験。2011年に英国赴任から帰国し、海外エンジニアリング企業や国内最大手ITベンダーと合弁を設立し、国内外でのスマートシティ事業企画なども担当。個人の「ライフ・シフト」を通じて「健幸長寿社会実現に貢献」すべく、2017年に独立し、合同会社を設立。また、国立大学発ベンチャーや士業ネットワーク会社の役員も兼務する。
https://www.mica.solutions/

駅近、タワマン、高層階こそが勝ち組か?

男性サラリーマン平均年収532万円の10倍超まで新築分譲価格が値上がりした原因は、 (1)都心アクセスと駅近信仰による用地獲得競争、(2)五輪や大規模再開発需要による建設費高騰、(3)ゼロ金利による開発資金調達などです。
 
そこで注目したいのが、マンションが建たない規制や規模の土地を取得して分譲される戸建て物件です。コスト(用地、建設費)が割安なため、消費者は建坪単価が安くて、仕様が良い商品を手にすることができます。
 
また、既存住宅も同じ地域の新築マンションに比べると割安の場合が多く、適格物件であれば物件価格にリフォーム工事を合わせた長期固定金利ローンが組め、さらに既存住宅売買瑕疵保険(※2)も付保できるため、手間はかかりますが「お買い得物件」が見つかるかもしれません。
 
一般的に都内の駅近・タワマン・高層階が、資産価値の高い「勝ち組」と言われますが、専門誌の値上がり・値下がりランキングなどを盲従するのではなく、本人が希望するライフスタイルや無理のない資金計画を検討し、慎重かつ主体的な物件探しをお勧めします。
 
(※2)既存住宅売買瑕疵保険とは、万が一、引き渡しを受けた建物の保険対象部分に瑕疵が見つかった場合は、その補修費用をまかなうことができる保険です。
 

主体的かつ多面的な判断基準をもつことが重要

2018年12月に厚生労働省が発表した人口動態統計によると、本年の自然減数は過去最大で44万8千人と、東京都町田市の人口(2018年4月1日時点)42万8571人に匹敵する数になりました。
 
そして、マンション耐用年数と同じ47年後の2065年には、約8800万人まで総人口は縮小すると推計されています。つまり、この間に衰退・消滅する街が出てくることは不可避なのです。
 
それでは、全国から人が集まる東京であれば安泰なのでしょうか?実は、東京の高齢人口(65歳以上)は、2015年から2040年の間に93万人増加すると予想されていますが、病院や高齢者向け住宅の絶対数が不足しているため、先に人口減・高齢化を経験した地方都市よりも深刻な孤独死や老々介護の問題に向き合うことになります。
 
ここで、いち早く自治体や住民、事業者が危機感を共有し、一体となった街づくりに取り組み、地価回復まで成し遂げた地方都市をご紹介します。
 
◎新潟県見附市
(1)人口: 約4万人
(2)特徴: 自治体のイニシアティブに住民が応え、人生の最後まで見守れる地域包括ケアシステムや、人口縮減に対応できる各種施設や交通システム整備を実現し、昨年「第1回コンパクトシティ大賞」の最高賞、「国土交通大臣表彰」を受賞。健康で、かつ、生きがいをもち安心安全で豊かな生活を送れる町「スマートウエルネスシティ」として全国から注目されています。
(3)地価: 宅地の平均地価公示価格は、平成25年の約96千円から平成30年には約87千円と約1割近くも下落していますが、駅から20分以内の徒歩圏の取引価格は、逆に10万円から14万円へと4割近くも上昇しています。 
 
不動産の価値は、対象物件に関する個別的要因(交通接近条件、接道条件、土地・建物面積、敷地形状、建物構造、築年数、など)だけでなく、その物件が存する地域や、地域の栄枯盛衰などに影響を与える人口、経済、規制などの一般的要因によって形成されるため、多くの人が住みたい、住み続けたいと思える街に存しなければ下落は免れません。
 
超少子高齢化社会は、市町村単位での生き残り競争の時代とも言えます。多世代にとって魅力的な街でなければ、勝ち組物件といえども将来は保証されません。
 
今後は過去の騰落率や物件情報だけでなく、首長方針や自治体施策なども調べ、その将来像をあなたと家族が共有できるのかなど、多面的かつ主体的な判断基準をもつことが重要になるでしょう。
 
出典
「REINSMarketInformation」
国土交通省
「平成30年都道府県地価調査の概要」
「第2節 住まい方の変化」図表129 マンション価格の推移
国税庁「平成29年分民間給与実態統計調査結果について」
厚生労働省「平成30年(2018)人口動態統計の年間推計」
町田市「町田市の人口」
国立社会保障・人口問題研究所プレスリリース「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」
東京都制作企画局(老年人口(75 歳以上)の最初のピークは 2030 年)
新潟県見附市
 
執筆者:村田良一(むらた りょういち)
CFP(ファイナンシャル・プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士、不動産鑑定士、中小企業診断士
(同)村田鑑定評価・経営研究所 代表社員
 

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